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【エバンジェリスト・ボイス】襲命そして伝承 2018/02/08 (木)

サイバー・セキュリティ・ソリューション(CSS)部
セキュリティディレクター/エバンジェリスト 関原 弘樹


こんにちは!
CSS部セキュリティディレクター/エバンジェリストの関原です。

早いもので、今年も気付けばもう2月。東京では数年に一度の記録的な大雪も降り、一年で最も寒い季節を迎えています。歌舞伎座では舞台芸術のジャンルで本年最大のイベントともいわれる二代目白鸚(はくおう)、十代目幸四郎、八代目染五郎による高麗屋(こうらいや)三代襲名披露興行で熱気にあふれています。

300年の歴史を持つ歌舞伎界の大名跡である松本幸四郎高麗屋の襲名といえば今から37年前、今回二代目白鸚を襲名した九代目幸四郎、十代目幸四郎を襲名した七代目染五郎の二人が、初代白鸚となった八代目幸四郎とともに襲名披露した三代同時襲名が語り継がれています。

「襲名とは名を継ぐだけではない、命を継ぐ"襲命"だ」という言い方もされます。37年前の初代白鸚襲名披露での「口上」の映像を見ると、初代白鸚の口跡もはっきりしており元気そうに見えました。しかし残念ながら、この時すでに病に侵されていたようで、この3か月後に亡くなります。名跡と芸が伝承されたことを無事に披露して使命は果たせたということで、ホッとしたという最期だったのかもしれません。

よく「十年一昔」と言いますから、37年前というと大昔ですね。私たちの業界でいうと、「IT」という言葉もなかったその時代はまだWindowsOSやMacOS、Linuxは存在せず、ようやくMS-DOSの最初のバージョンがOEM出荷された時代です。コンシューマでは8bitパソコンとBASIC、ビジネスではメインフレームをTSSで使用するという環境が主流でした。今はなき国民機PC-9800シリーズが出荷されるのはこの翌年のことです。


さて、二代目白鸚(九代目幸四郎)は、息子の十代目に常々「一流の歌舞伎職人になりなさい」と言い聞かせていたようです。「職人」の定義をWikipediaで引いてみると「自ら身につけた熟練した技術によって、手作業で物を作り出すことを職業とする人のことである。」とあります。私はこれに「常にクオリティを保つことができる」というポイントを付加したいと思います。

二代目白鸚は巡業で日本全国を回り、1,000回以上も勧進帳の弁慶を務め、最終的に全ての都道府県で舞台に立つという偉業を成し遂げました。先の言葉は「常に鍛錬を怠らず、いつ・いかなる場所であってもプロフェッショナルとして恥ずかしくない舞台をお見せしなさい」というメッセージでしょうか。松本幸四郎家といえば進取の精神をもち、七代目から四代にわたり歌舞伎のみならずそれ以外の舞台でも活躍しています。特に二代目白鸚は、ミュージカルや翻訳物の作品で尋常ではない回数の上演記録を持っている現代の大名優として知られています。日常生活でもよく耳にする「職人」という言葉も、その口から発せられると格別の重みを感じます。

同列で語ると叱られるかもしれませんが、私も弊社のエバンジェリストとして後進へITプロフェッショナルに必要な技術や信念を伝えることをミッションの一つとしています。常に技術のキャッチアップが必要なITエンジニアですが、継続的に鍛錬し技術力を向上させて力を発揮していくことの難しさは、各々の仕事観も関係することから非常に難しい問題だと感じています。

七代目幸四郎は門閥外から舞踊家の養子になり歌舞伎俳優になりましたが、八代目、九代目、十代目は所謂「御曹司」です。大名跡を父に持つ歌舞伎界の御曹司の多くは幼少のころから師匠である父と生活を共にし、最初はさまざまな動きを真似ることから始めます。そしてその後は長い年月をかけて必要な技術を父や先輩から学んでいき、ひたすら技術を高めていくことになります。(中にはそうでない例もあるようですが…)彼らはそれを単なる仕事とはとらえておらず、家の継承や自分の使命としてとらえているので、そのようなことが可能であるのでしょう。

現代社会で企業に所属しているITエンジニアがそこまでリソースを使って技術を習得するのは色々な面で難しいでしょうし、当然強制もできません。ただ、本当に価値のある高度な技術を身につけたい場合は「そこ」を乗り越えていく必要があります。言い方を変えると、たとえ形式上企業に雇われている「サラリーマン技術者」であっても、少なくとも精神的には「独立したプロフェッショナル」となり、常に自分を鍛錬し技術力に責任を持つことが必要ということです。

もちろん雇われの技術者としての生き方、技術力に対する考え方は様々です。また、社内の後進にメッセージを伝えるエバンジェリストの立場でいうと、この考え方が社内でどこまで受け入れられるかはわかりません。しかし私の経験からすると、一流の技術者になりたい、長い間活躍したいと思うのであれば、これは必然であると断言できます。

37年前と違い現在の企業と雇用者の関係はドライです。プロパーの技術者として二十年程度務めたところで肩をたたかれることも珍しくないですし、逆に数年でお世話になりました!ということもあります。どうなるかは企業と技術者の力関係次第で、その力関係を決めるのは企業のレベルと本人が持っている価値、技術者でいえばその技術力と活かし方です。

松本幸四郎家もその昔、現代の歌舞伎興行をほぼ独占していた松竹から引き抜かれて東宝に移籍し、夢破れてまた松竹に戻ってきました。しかしその後も技術に磨きをかけ、無事次世代への伝承を果たしています。このようなことが出来るのも先代、先々代が一流の技術と信念を持っていたからこそなのです。

Hiroki Sekihara CISSP, CEH, PMP, CCIE #14607

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