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DCM第1部
テクニカルスペシャリスト
上坂 明
ビジネスの成長を加速させるためには、迅速かつ的確な「意思決定」が不可欠であることは言うまでもありません。その「意思決定」の起点は何でしょうか?
それは、「何を達成したいのか』という明確な目的意識、すなわちインテントです。インテントは「意図」「目的」「狙い」といった意味を持ち、抽象的なビジョンを描き、進むべき方向性を示す指針の役割を果たします。
しかし、目的を定めただけでは目的地には辿り着けません。具体的な進め方、進めるうえでのリスク・機会を分析し、適切な進路に選択する「意思決定』というプロセスがあってこそ、目標に近づくことが出来ます。
例えば、「新規顧客からの受注件数を増やす』というインテントに対して、様々な戦略があります。『SNS広告を活用し、特定の属性を持つ顧客にアプローチする』というSNS戦略もあれば、『イベント・講演会を開催し、新規顧客との接点を作る』といったオフラインマーケティング戦略もあります。
これら手段の何が最適であるかは、企業の置かれた立場や世間情勢といった外部要因により常に変化します。近年では、手段を講じるうえでのリソース不足(人的リソース等)やシステムの複雑化も起因し、幾通りもの手段が存在するため、意思決定は簡単ではありません。
インテントベースネットワーク(IBN)とは
さて、インテントの概要を抑えたところで本題です。従来のネットワーク管理は、エンジニアが個々の機器に対して、コマンドラインやGUIを通じて、手作業で設定を行うものでした。
しかし、5Gネットワークやソフトウェア定義ネットワーク(SDN)の登場、マルチクラウドをはじめとした分散型インフラ構成が主流となることで、ネットワーク構成は複雑さを増しています。このような課題から、インテントベースネットワーク(以下、IBN)というネットワーク管理手法が考えられました。
IBNは、ビジネスの要件(例えば、特定ユーザーのみアクセスを許可する、アプリケーション単位にQoSの優先度をつける等)を定義するだけで、その意図をソフトウェアが解釈し、自動で必要な設定をネットワーク機器に展開・適用します。
ネットワーク管理者は、専門的・技術的な知識や設定コマンドを理解する必要は無く、従来のエンジニアが担っていた設計・構築のプロセスは全て自動化されます。結果、煩雑な手作業は無くなり、新たなサービス展開やポリシー変更も迅速に対応することで、ビジネスにおけるリードタイムを大幅に短縮することが可能となります。
インテントベースネットワーク(IBN)の構築要素
IBNの概念は、2014年頃に登場しました。既に大手ベンダーによって製品が実装され、サービス展開されています。IBNを構成する要素は主に以下の4つです。■IBN構成要素
構成要素 |
説明 |
---|---|
インテントの定義・翻訳 |
|
実装 |
|
稼働状況の把握・分析 |
|
動的最適化 |
|
IBNの概念を実装するにあたり、インテントの翻訳、ネットワークの状態を自律的に分析・再構成する機能がネックとなっていましたが、近年のAIの高度化により、精度が向上し改めて注目される技術となっています。
また、それぞれの要素の関連性、全体イメージは下図の通りです。
運用管理におけるPDCAサイクルと同じ流れとなりますが、AIによる自律的な分析・動的再構成が特徴となり、ネットワーク管理者が改めて定義を行わずとも実装することが可能です。
■IBN構成要素の関連図

ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)とインテントベースネットワーク(IBN)
ソフトウェアによるネットワーク管理技術として、ソフトウェア定義ネットワーク(以下、SDN)があります。SDNは、ネットワークの制御プレーンとデータプレーンを分離し、ネットワークを集中管理し、ソフトウェアによって柔軟に制御することを目的とした技術です。各機器のフロー定義はプログラミング(Python等)によって設計/構築されます。
参考:ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)
IBNとネットワーク機器の関係は、SDNにおけるSDNコントローラーとデータプレーン(スイッチ・ルータ等)の関係に近いですが、SDNはIBNを構成する要素の一つであり、SDNの発展形というわけではありません。通常、IBNはSDNの基盤の上に構築されます。
IBNシステムが、管理者のインテントを解釈・変換し、具体的なネットワーク設定をSDNコントローラーを通じてネットワークデバイスに伝達します。(先ほどの関連図の「実装→ 配布」が該当)
SDNコントローラーは、IBNからの「意思決定」に基づいて、ネットワークの構成を動的に変更する役割を担います。つまり、SDNはIBNがネットワークを自動的に構成・管理するためのインフラ基盤であり、IBNはSDNのコントロールブレーンと解釈出来ます。
自律的な運用と信頼性の向上
IBNは、ネットワーク全体のリアルタイムな状態を継続的に監視・分析し、その情報を基に自律的な運用を実現します。これは、ネットワーク自身が状況を判断し、「意思決定」を下す能力を持つと言えます。例えば、ネットワークのトラフィック状況を常に監視し、定義されたインテント(特定のアプリケーションQoS設定)が損なわれそうになった場合、自動的な帯域幅調整や、ルーティング再設定などといった「意思決定」を行います。
また、セキュリティ上の脅威を検知した場合は、事前に定義されたポリシーに基づいてポートのシャットダウンや端末の通信遮断など、自動的に防御策を発動する「意思決定」も可能です。
このように、IBNはネットワークに「意思決定機能」を持たせることで、人間が介入するリードタイムを削減します。また、障害発生のリスクを低減し、ネットワークの信頼性と可用性を飛躍的に向上させることが可能となります。
問題発生時の切り分けや復旧作業も自動化されるため、運用効率が向上し、エンジニアは、より重要な業務に注力できるようになるでしょう。
インテントベースネットワーク(IBN)の展望
IBNは、ネットワーク管理の理想形と言えますが、事業規模に応じた適切なソリューションを選択することが重要であり、導入するとしても段階的なアプローチが求められます。まずは、自社ネットワーク環境の規模、ビジネス要件を十分に理解し、本当に必要であるかの見極めが必要です。導入を推進する場合においても、特定の部門・セグメントで試験的な適用を行い、その効果を検証しながら適用範囲を拡大していくことが適切ではないでしょうか。現在、複数のネットワークベンダーがIBNソリューションを提供しており、その機能や特徴は進化を続けています。
AIの更なる進化により、IBNはより高度な自律性と予測能力を獲得し、人間の介入が不要なプラットフォームへと進化していくことが期待されます。昨今の人手不足により、課題に挙がっている「持続可能なシステム運用」の一助となる技術ではないでしょうか。
ビジネスの意図をくみ取り、状況の変化に応じて「意思決定」を行う。そんな未来のネットワークが現実となる日はそう遠くないかもしれません。
参考:
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