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エバンジェリスト・フェロー 玉越 元啓
今回は、「2022年人工知能学会からみるAIのトレンド」をテーマでお送りします。
■2022年度人工知能学会全国大会(第36回)について
■発表論文の傾向
2022年度人工知能学会全国大会(第36回)について
人工知能学会は、AIに関する日本最大級の学会のひとつで、毎年、会員の研究成果の発表会が行われます。今年は、2022年6月14日(火)~6月17日(金)の4日間、第36回人工知能学会全国大会が開催されました。昨年・一昨年度の学会はオンラインでの開催でしたが、(昨年度の様子はこちらからご覧ください。「2021年のAIトレンドとその活用例」)、今年は会場とオンラインの同時開催となりました。オンライン開催となることで、聴けなかった発表を後から視聴できるようになったことはありがたいです。
私はオンラインで参加したのですが、現地開催は京都国際会館で行われ、slackでの食事処情報の交換が盛んに行われており、旅行に行った気分にさせていただけました。
学会で論文が発表されてから実用化されるまでに、およそ2~3年のタイムラグがあります。物理的なデバイスの開発が必要な場合はもう少し時間が必要になるケースも多いです。これは日本に限ったことではなく、海外でも同じようです。
このことは、2~3年後にあらわれるサービスや技術(の卵)が学会で発表されている、とも言えます。今年度発表された論文の傾向をみることにより、今後の人工知能に関するトレンドを掴むことができるので、是非知っていただきたいです。
発表論文の傾向
(1)応用研究の発表が増加傾向
機械学習、深層学習の理論と現在の物理まで含めたアーキテクチャで実現できるアイデアは出そろった感があります。基礎研究においては、適応分野別に各アルゴリズムのチューニングがすすんでいます。また、既存の手法で解決できていることをAIでよりスマートに解決する発表が増えてきています。
例えば、要員をどの作業にいつ割り当てるか、といったスケジューリング問題は、近年は混合線形計画法を用いた組み合わせ最適化問題として解かれていました。この手法では、要員数・作業工程数が増えて複雑化すると組み合わせ爆発が発生し、事実上計算が終わらない、実用できないという課題が残ります。これをシミュレータと強化学習を用いた最適制御問題として解決する発表がありました(※外部サイト:『強化学習が可能にするオペレーション最適化の世界』)。
強化学習(※1)を利用することで、運行可能区間が一部復旧したあとのダイヤを自動生成できるようになり、運転復旧までの時間が早くなりサービスレベルを上げられるようになっていきます。直接的にAIを利用していなくとも、既に利用しているサービスの裏側でAIが活躍していることを実感しました。また、既に実現できていることや自社のサービス運用を、現在の方法からAIに任せることで何が変わるのか、見直すよいタイミングと感じました。
自動生成された鉄道ダイヤのイメージ
縦軸が駅、横軸が時間、グラフは列車が運行している場所/停車している駅を表している。
※1 強化学習
制御対象の事象やシステムを、シミュレータや対象システム自体を用いて試行錯誤により効率的な制御方法を発見する方法。下の自動車の駐車の例では、初期状態(車の位置、向き、タイヤの状態など)とゴールである駐車したい場所が決まっているとき、初期状態とゴールの差(この差を、AIの世界では「評価関数」と表現します。)を最小化する一連の操作を求めることになる。
シミュレーション環境として、デジタルツインを用いる発表がありました(※外部サイト:『カーネルABCを用いた製造・物流現場のデジタルツイン構築技術』)。仮想空間であれば、現実と比べて、低コスト・高速・安全に試行錯誤することにより、事前に設計を検証することが可能になります。現実のデータとシミュレーションの乖離が少ない分野においては既に実用化されているもので、デジタルツイン環境が現実に近づくにつれて適応できる範囲の拡大が見込まれています。
下の写真は、amazonの※外部サイト:DeepRacerに参画したときのものです。
デジタルツイン環境に車を走らせるコースを用意します(用意されています)。
デジタルツイン環境で強化学習をするための評価関数を定義し、仮想的なコースを何度も走行させて、最適な運転方法を学習します。
デジタルツイン環境で学習した後、現実のコースで走らせて、仮想と現実のギャップを調整します。
現実世界ではさまざまな制限が加わる難しい作業も、デジタルツイン・仮想環境であれば、容易に実行できることを実感できます。繰り返し実行するためのリードタイムの短縮やコストダウン、機器の保守、コースのカスタマイズなどの作業を簡単に行えます。
(2)社会問題の解決をモチベーションにした発表が増加
社会問題の解決にAIを活用する研究は古くから行われており、2~3年前までは災害対策、昨年度からはCOVID関連の研究が増えています。飛沫のシミュ―レーション、パーティション・人の距離や配置、待ち行列の形、人の移動が速やかに行われる建物・通路・道路の形状など、感染リスクを減らすための様々な研究が行われ、行動様式の研究の多くは、既に国内外の対策として取り入れられており、社会に還元されています。あらゆる研究が有機的に反応しあって成果を生んでいます。未知の状況に対して既知の情報を元に、将来を予測するのはAIの得意とするところです。
(3)バズワード関連の研究
新しい技術や流行に対して、AIは何ができるか、をテーマにした研究も毎年見られます。今年は、メタバース関連の研究がみられました。メタバース内で起こりうる犯罪を未然に防止しようとする研究です。(※外部サイト『非テキストデータを利用したメタバース上の誘い出しユーザ検知』)
仮想空間上での違法行為を目的とした誘い出し被害が発見され増加すると考えられており,これらのリスクをいち早く検知,軽減することが重要な社会課題の1つとなってきました。こうした行為を自動検知する既存技術の多くは個人間メッセージなどのテキストデータを利用することを前提にしています。しかしながら、接触機会の多様化・秘匿化、プライバシー保護意識の高まりに伴う会話コーパスの利用制限などの新たな問題も発生しています。これに対応するために、メタデータやユーザ関係ネットワークデータのような非テキストデータのみを利用した,新たな誘い出しユーザの検知手法が研究されています。
(4)その他
AI に係る技術の規格化、関連法規、AIとヒトとの関わり合いといった、AI を取り巻く環境に対する研究や検討も進められています。特にAI を導入することによって起こりうるリスクシナリオについては、あらかじめ人が考えるべきポイントになってきます。
就職情報サイトが、学生の個人情報を利用したAI ・人工知能サービスを提供するにあたり、個人情報の不適切な利用が大きな問題になりました。そもそも「やっていいことなのか?」、適法なのか、モラルについて問われることはないか、など検討する必要があります。
出展(※外部サイト):「リクナビ問題 学生裏切ったAIサービス」(時論公論)
AIを組み込んだサービスを開始した後も、いくつか留意する点があります。下にAI特有のリスクシナリオの一例をあげました。リスクシナリオの検討の際に一考ください。
No | 観点 | 要件 | リスク | リスクシナリオ |
---|---|---|---|---|
1 | 品質の維持 | 予測性能の維持 | 予測性能の劣化 | AIの予測性能が劣化したことで、不良品が出荷される/多くの正常品が不良品と判定される |
ノイズによる影響 | 画像にノイズが混入しAIの判断精度が劣化する | |||
環境変化への対応 | 製品の仕様変更 | 製品の仕様変更により、識別精度が著しく低下する | ||
IoTの変化 | 撮影機器の変更によって画像の仕様(解像度・画素・形式等)が変わること で、適切な判断が行われない。 | |||
外部攻撃からの保護 | セキュリティ保護 | 外部からの攻撃により異常な学習データの投入もしくはモデルの変更が行われ、性能を維持できない | ||
2 | 高速化による製造量のコントロール | 検品処理のスピード | 不十分な処理速度 | AIによる検品処理速度が間に合わず、 期待した生産量を処理できない |
異常時の代替運用 | 異常時のプロセス停止 | AIの性能劣化等で異常が発生した際に、人手での検品等に切り替えられず、生産計画に支障をきたす | ||
3 | 検品に係る人件費の軽減 | 適切な検出レベル | 過剰な検品 | 過剰に検品が行われてしまい、人間側での検証コストの増大や過剰な廃棄品が発生してしまう |
判断根拠の分かりやすさ | 過度なAI依存 | AIの判断を全く疑わず、サンプル検品等が形骸化することで客先へ大量の不良品が納入される | ||
4 | 企業の社会的責任 | アカウンタビ | 品質監査への対応 | 品質監査などを受けた際に適切な説明ができない |
トラブル発生時の調査 | 異常・トラブルの発生により、対外的な説明が求められる際に、原因・再発防止策を検討・説明できない | |||
情報管理 | 風評被害 | AIの検品結果情報が外部に流出することで特定の製品や工場での判断に対する風評被害が発生する |
※外部サイト「AIサービスに係る「実現すべき価値・目的」と「リスクシナリオ」の類型化」をもとに作成
全体をとおして
今年の人工知能学会は5000超の論文投稿があり、うち800近い発表がありました。発表の中には、「仮説を検証しようとしたが、うまくいかなかった」という一見すると失敗と思われる事例もあります。しかし、これは失敗ではなく、一歩先にすすんだことの発表なのです。
様々な研究者が未開の地を探索して情報を共有し、少しずつ地図を作っていく。その中で、「この場所はこの方法では乗り越えられなかった」という情報は、新たな探検の指標になります。
上手くいかなかった内容の発表は、後続の研究者の指標にもなり、学会のこうした論文の選出からは、関係者全員で前に進む、という強い意思を感じます。
AIを活用するときの注意点
AIのプログラミングを学ぶ研修はいくつもありますが、それだけではAIを活用することはできません。AIを利用するときのリスクは?などの包括的な知識をえるためのフレームワークとして、EXIN・AI Foundationがあります。EXINは、ITILなどの規格を推進している団体です。ベンダに依存しない資格とスキルアセスメントを提供している国際的な試験機関のEXINが、EXIN BCS Artificial Intelligence(AI) Foundation資格を日本でも展開しています。
これに合わせ、DXコンサルティング社で、日本初のEXIN BCS Artificial Intelligence Foundation認定プログラムを実施しています。この認定プログラムは、AIの基礎知識や研究者間で共有されている文化・倫理などについても知ることができます。AIを学ぶ最初こそ間違った知識を覚えて誤った道に進まないような注意が必要だと思います。
EXIN AI Foundation資格試験の紹介(※外部サイト):
EXIN BCS Artificial Intelligence Foundation
認定研修の案内URL:
研修 AIファンデーション
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