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2021年のAIトレンドとその活用例~AI活用における注目の資格もご紹介~

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先端技術部
フェロー  玉越 元啓

Cutting-Edge Technology Department / Motohiro Tamakoshi
先端技術部の玉越です。

今回は、「2021年人工知能学会からみるAIのトレンド」をテーマでお送りします。

■2021年度人工知能学会全国大会(第35回)について
■発表論文の傾向
■AIの開発フローに沿った分析フローの紹介

2021年度人工知能学会全国大会(第35回)について

人工知能学会は、AIに関する日本最大級の学会のひとつで、毎年、会員の研究成果の発表会が行われます。今年は、2021年6月8日(火)~6月11日(金)の4日間、第35回人工知能学会全国大会が開催されました。学会での発表は、従来は大きな会場で開催されていたのですが(以前の様子はこちらからご覧ください。「人工知能学会員によるAIのトレンドとは」、コロナウイルス感染拡大の影響に伴い、昨年度よりオンラインでの開催となっています。顔を合わせてホワイトボードに書き込みながら議論するのも楽しかったのですが、オンライン開催となることで、聴けなかった発表を後から視聴できるようになったのはありがたいです。

学会で論文が発表されてから実用化されるまでに、およそ2~3年のタイムラグがあります。物理的な開発が必要な場合はもう少し時間がかかるースも多くあります。これは日本に限ったことではなく、海外でも同じようです。
このことは、2~3年後にあらわれるサービスや技術(の卵)が学会で発表されている、とも言えます。今年度発表された論文の傾向をみることにより、今後の人工知能に関するトレンドを掴むことができるので、是非知っていただきたいと思います。
また傾向分析は、AIの開発フローに沿って行っています。アノテーションツールも作成したので合わせて紹介させていただきます。

発表論文の傾向

一口に人工知能と言っても、発表内容は非常に多岐にわたっており、傾向分析する切り口もいくつも考えられます。今回は、発表された論文を査読し、学会内の研究会で作成している人工知能学会「AIマップβ 2.0 (2020年6月版)」に沿って「予測・制御」「認識・推定」「生成・対話」「分析・要約」「設計・デザイン」「協働・信頼形成」の6つに分類しました。

AIを開発する/構成する技術ではなく、AIの目的・使い方などの「AIを利用する」ことに必要となる視点によって分類した方が課題解決の際のヒントになると考えたためです。計算方法の改善といった基礎研究については、そのモチベーションつまり最終的に解決したいテーマが何かによって分類しています。各分類の論文の件数は次の表になりました。いくつか具体的な研究内容を紹介していきます。

表1.論文の傾向分析
順位 分類 概要 件数
1 認識・推定 画像や音などを認識する、現在・過去の状態を推定する 152件
2 予測・制御 短期・中長期の将来の状態を予測する、予測に基づいて機器などを制御する 142件
3 生成・対話 人の話を聞いて答えを返す、新しく画像やデータ、文を生成する 110件
4 設計・デザイン 条件を満たすように組み合わせを調整して提案する 54件
5 分析・要約 データを分析し、要約・見える化する 41件
6 協働・信頼形成 適切な選定基準や順番を生成、調整を行う 15件

第1位 認識・推定

認識・推定は、機械の故障検知や顔認証など身近に使われているAIのひとつで、これらに関する発表が152件と最も多くなっています。自動運転において進入禁止の交通標識と、これに似た企業のロゴが誤認される事例が一時話題になりましたが、人が見ても紛らわしいものでしたし、AIの認識の精度が人と同程度に高いからこそ”笑い話”として取り上げられています。
ただしAIの誤認が引き起こす危険性については留意する必要があり、ここでは顔認証の危険性について言及した研究を紹介します。

eKYCという金融機関で口座開設などを行う際に、本人確認をリモートで行う手段があります。これにDeepfakeと呼ばれる技術を使ってなりすましを行った際の危険性について指摘しています。Deepfakeとは、既存の動画や画像(主に人)を別のものに変更する技術です。下の例では右の男性が左の女性になりすまし、認証を突破しようとしています。
 交通標識や顔認証などの精度を上げるため、今後は、画像と文字や画像と音などの複数のセンサーの情報をもとに学習するAIの研究がすすめられると予測しています。

図1:Deepfakeによるなりすましの様子
図1:Deepfakeによるなりすましの様子
※外部サイト:出展:人工知能学会全国大会論文集「Deepfakeを用いたe-KYCに対するなりすまし攻撃と対策の検討」

第2位 予測・制御

自動運転に代表される機械の制御や将来の予測に関する研究が142件と非常に多く進められています。在庫や売上を予測するなど、企業内部におけるAI活用の事例としてもよく報道されています。
昨年のコラムでGPTという技術を使い文章を自動生成するデモを見ていただきましたが、同じGPTを使って人の動きを予測する研究が発表されていました。急な飛び出しなどの人の動きを予測してより安全に自動運転する仕組みがつくられることが期待できます。事故やエラーが起きないよう未然に防ぐための研究が今後進むと考えています。

図2:人の動きを予測するモデルの概要
図2:人の動きを予測するモデルの概要
※外部サイト:出展:人工知能学会全国大会論文集「GPT-2を用いた人の動作予測」

第3位 生成・対話

人の話を聞いて答えを返す、新しく画像や文章を生成することに関する発表は110件でした。
昨年のコラムで、BERTと呼ばれる文脈を理解できるようになったといわれる言語解析の手法を紹介し、日本語への適応研究がすすむ、と予測していましたが、27件のBERTを活用した論文が発表されていました。その一つが下の自動車免許試験問題の回答にBERTを活用したものです。従来のルールベースのAIと新しい機械学習やディープラーニングの技術を組み合わせることでよりよい成果が出ていました。こうした研究によりチャットボットなどの自動応答の精度が高まり、より自然な言葉で対応できるようになっていきます。

図3:問題文の分解と回答例
状況説明部 質問部 正解
夜間、交通量の多い市街地を通行するときは、 前照灯を下向きにしたほうがよい。
夜間、交通量の多い市街地の道路を通行するときには、 前照灯を下向きに切り替えなければならない。
夜間、交通量の多い道路を通行するときは、 前照灯を上向きにして運転したほうがよい。 ×
※外部サイト:出展:人工知能学会全国大会論文集「自動車免許試験問題の含意関係認識を用いた自動解答」

第4位 設計・デザイン

配置やリソース割り当ての最適化やレイアウト構成などに関係する設計・デザイン関係の論文は54件でした。YouTubeなどの動画視聴サービスやamazon、楽天などのEコマースにおける「おすすめ」リスト作成などの裏側にもAIが使われています。YouTubeはPythonで作られたサービスとしても有名ですね。ここでは社会生活に関する研究を紹介させてください。

「大規模イベントにおける歩行者シミュレーションのFidelity最適化」では、大規模イベントや自然災害時の避難誘導などにおける人流制御のシミュレーション精度向上について成果が報告されていました。「被災者の減少を考慮した避難所割当問題」では、時間経過による要避難者の逓減を考慮した避難所の配置についての研究が報告されていました。こうした研究が基礎となって、円滑に大規模なイベントを開催でき、非常時にも少ないストレスで暮らせる社会になっていきます。直接AIに触れる機会が少ないかたも、普段の生活は既にAIが活用されていることを感じていただけたら嬉しいです。

図4:駅から会場までの歩行シミュレーションの様子
図4:駅から会場までの歩行シミュレーションの様子
※外部サイト:出展:人工知能学会全国大会論文集「大規模イベントにおける歩行者シミュレーションのFidelity最適化」

第5位 分析・要約

データを分析し要約・見える化するための研究発表は41件あり、なかでも文章や動画のダイジェスト化に関するものが多くみられました。大量の情報からエッセンスを抽出して重要な情報を人に分かりやすく伝えるための研究は、5Gの普及などにより急増する情報を整理するための手段として注目を集めています。
ここでは動画から説明文を自動的に作成する研究を紹介します。動画・音・言葉を組み合わせた操作マニュアルを自動生成や、言語に依存しないコミュニケーションツールなどへの活用が期待されます。

図5:動画から説明文を自動生成する例
図5:動画から説明文を自動生成する例
※外部サイト:出展:人工知能学会全国大会論文集「動画キーフレーム物語生成タスクの提案とデータセットの構築」

第6位 協働・信頼関係形成

適切な選定基準や公平な合意形成を支援する取り組みに関する研究は15件でした。AIから恣意や偏見を排除した公平性を確保することの重要度が増しており、人がAIに触れたときどう感じるか、といった利用者目線での課題の調査もすすめられています。
社会問題の一つである労働人口の減少に対する対策として広義のロボット(AIが組み込まれたものやRPAも含む)へのタスクシフトが期待されています。医療の分野においても同様の試みとしては、 ※外部サイト:「精神科医療におけるロボットと患者様の共生」の中で、患者とのコミュニケーションツールとしてロボットを使った際の反応と対応案についてまとめられています。

※外部サイト:「AIを用いた健康経営を促す施策の検討」では、個人へのフィードバックを人が行ったときとAIが行ったときの差の調査が行われ、今回の調査条件下においては人とAIとの差はみられなかったとの報告がされています。今後は、コロナ禍におけるリモートワーク時のメンタルケアなどへの活用が期待されます。
AIが浸透するには技術が進化するだけではなく、それを受け入れる社会や人に寄り添った施策、リスクの予測や対応も必要となります。こうした研究は地道で華々しくはありませんが重要な分野であり、今回発表された全てのチームに感謝いたします。

図6:不良品検知時のリスクアセスメントの例
実現すべき
価値・目的
サービス
要件
リスクシナリオ
1 検品品質の維持 予測性能の維持 予測性能の維持 AIの予測性能が劣化したことで、不良品が出荷される/多くの正常品が不良品と判定される
ノイズによる影響 画像にノイズが混入しAIの判断精度が劣化する
環境変化への対応 製品の仕様変更 製品の仕様変更により、識別精度が著しく低下する
IoTの変化 撮影機器の変更によって画像の仕様(解像度・画素・形式等)が変わることで、適切な判断が行われない
外部攻撃からの保護 セキュリティ保護 外部からの攻撃により異常な学習データの投入もしくはモデルの変更が行われ、性能を維持できない
2 検品の高速化による製造量の増加 検品処理のスピード 不十分な処理速度 AIによる検品処理速度が間に合わず、期待した生産量を処理できない
異常時の代替運用 異常時のプロセス停止 AIの性能劣化等で異常が発生した際に人手での検品等に切り替えられず、生産計画に支障をきたす
3 検品に掛かる人の軽減 適切な検出レベル 過剰な検品 過剰に検品が行われてしまい、人間側での検証コストの増大や過剰な廃棄品が発生してしまう
判断根拠の分かりやすさ 過度なAI依存 AIの判断を全く疑わず、サンプル検品等が形骸化することで客先へ大量の不良品が納入される
4 企業の社会的責任 アカウンタビリティ 品質監査への対応 品質監査などを受けた際に適切な説明ができない
トラブル発生時の調査 異常・トラブルの発生により、対外的な説明が求められる際に原因・再発防止策を検討・説明できない
情報菅理 風評被害 AIの検品結果情報が外部に流出することで特定の製品や工場での判断に対する風評被害が発生する
※外部サイト:出展:「AIサービスに係る「実現すべき価値・目的」と「リスクシナリオ」の類型化」

分類方法について

論文の分類にあたっては、AIのシステム開発と同様のプロセスを踏みました。一般に、AIの開発は次のような手順をとります。

1.データ収集
2.データ分析・準備
3.モデル作成・検証
4.リリース

1.データ収集

論文の収集がデータの収集にあたります。500超の論文を一人でダウンロードするのは手間がかかるため、ウェブスクレイピングと呼ばれるブラウザを操作するロボット(プログラム)を使って収集しました。

2.データ分析・準備

データからエラーを除いたり加工したりして学習用のデータを準備する工程です。PDFの論文からテキストを抽出、英文を翻訳、ダイジェスト抽出する作業になります。それぞれプログラムを作成し、RPAで実行しています。日々のルーチンワークの他、一時的にでも大量の繰り返し作業がある場合や同じことをミスなく繰り返したいときはRPAを活用することをお勧めします。
データに対して正解の情報を付与することをアノテーションと呼びます。論文に対してルールベースの簡易的なAIで一時的な分類を行いました。

3.モデル作成・検証

分類モデルによる分類結果を人が確認して、再度分類しなおしました。アノテーション作業と分類結果の確認用にツールをつくり効率化を図っています。画面イメージは下の図7,8をご覧ください。

4.リリース

今回のコラム執筆に活かせたほか、ツールを作成してロボット化できたため、来年度以降の傾向分析、海外の論文の傾向分析も容易になりました。昨年度以前の論文を使った精度の向上も行う予定です。

図7:アノテーションツールの画面イメージ
図7:アノテーションツールの画面イメージ

図8:画像に対するアノテーションツールの画面イメージ
図8:画像に対するアノテーションツールの画面イメージ

全体を通して

昨年のトレンド紹介での予想とおり、BERTの日本語への適用研究論文が数多く発表されました。日本語の研究もかなりすすみ、翻訳・要約の精度もあがってきました。今後、言語分野においては、数年前の「卍」の使い方や「り」「詰んだ」「尊い」などといった単語の新しい使われ方や新語への対応が研究対象になると思われます。まずは、新しい使われ方がされていそうだ、という検知までAIが行い、実際の解釈とAIをトレーニングするデータを人が準備することになりそうです。

課題解決やDXの推進においても、今「”IT”で何ができるか」、を知ることによって、人と機械の役割分担、つまり、AIやロボットにどこまで任せることができ、人は何をやるべきか、が明らかになっていきます。特に「“AIが”何ができるか」については、お問い合わせいただいた際にお話している他にも、リモート座談会などで情報提供しています。お近くのID社員にお声がけください。

AIを活用するときの注意点

AIのプログラミングを学ぶ研修はいくつもありますが、それだけではAIを活用することはできません。包括的な知識をしるためのフレームワークとして、EXIN・AI Foundationがあります。EXINは、ITILなどの規格を推進している団体です。ベンダに依存しない資格とスキルアセスメントを提供している国際的な試験機関のEXINが、EXIN BCS Artificial Intelligence(AI) Foundation資格を日本でも展開し、日本語試験を2020年9月1日よりリリースしました。

これに合わせ、DXコンサルティング社で、日本初のEXIN BCS Artificial Intelligence Foundation認定プログラムを実施することになりました。ここでは、AIの基礎知識や研究者間で共有されている文化・倫理などについて知ることができます。AIを学ぶ最初こそ間違った知識を覚えて誤った道に進まないような注意が必要だと思います。

EXIN BCS Artificial Intelligence Foundation認定プログラムイメージ

※外部サイト:EXIN AI Foundation資格試験の紹介

DX Consulting 認定研修の案内:AIファンデーション

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玉越 元啓

株式会社インフォメーション・ディベロプメント フェロー

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