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アートから見るIT ~Banksy(バンクシー)-NFT-Blockchain(ブロックチェーン)-SDGs (前編)

フェロー 関原 弘樹   顔写真2_1187x1313

3年前サザビーズでオークションにかけられていた現代アーティストの作品「赤い風船に手を伸ばす少女」が約1億5千万円(当時のレート)で落札されましたが、その直後に額縁に仕込まれたシュレッダーで裁断されるという事件(というかアーティストサイドのパフォーマンスでしょう)がありました。
イギリス出身の匿名のストリートアーティストで、20年ほど前から世界各地の道路や壁、橋に政治や社会批評へつながる作品を残してきたアーティストとして知られています。
国内でもその手法を模倣したフォロワー(?)が出たことからその名を耳にした方も多いかもしれません。

そしてこの秋、件の作品(事件後「愛はごみ箱の中に」とタイトルが変更されました)が再度サザビーズに出品され落札されましたが、なんと今度の落札額は28億8千万円!彼らの作品としては過去最高額となりました。
「愛はごみ箱の中に」検索
グローバルな経済状況にもよりますが、アート作品の価値をいくつかある観点の中から希少性で評価した場合、絵画や彫刻等のアート作品は作者が活動している期間は作品の量と質が定まらないため価値/価格もそれなりの相場に収まることでしょう。
#宮廷画家の時代が過ぎた後。存命中からその作品が高額で売れまくって多大な財をなした画家のエピソードはあまり聞きません。逆に言うと宮廷画家というのはアーティストではなく写真のない時代の実用品を製作する職人に近い立場だと理解できます。

しかし、Banksyは違いました!

私の解釈では彼らは全世界の業界関係者が熱い視線を送るオークションの会場において1億5千万円もの高額で落札された作品をその直後に裁断するという世界初のパフォーマンスを敢行することによりその絵画を唯一無二の作品として完成させたということになります。

当時の映像はこちらで確認できます。かなりのサプライズのようでした。
※外部サイト:バンクシー、シュレッダー絵画騒動に飛び交う憶測
なお当然ですが、もう作品を生み出すことのない過去の画家の作品は、このような仕掛けがなくとも明確な希少性はもちろんのこと固有の技術からくる個性を持ち、安定した価値を保ち続けます。
レオナルド・ダ・ヴィンチにより500年以上前に制作されたキリストの肖像画「Salvator Mundi / 世界の救世主」2017年のニューヨークで実施されたオークションで日本円にして500億円以上の値をつけた
「Salvator Mundi / 世界の救世主」
出典:wikipedia.org
さて、作品の希少性という点ではキャンバス上に描かれた絵画を含むアナログのアート作品と対極に位置するデジタルフォトやCGをはじめとするデジタルのアート作品があります。
 
デジタルのアート作品、言うまでもなくデジタルデータの一種ですがデジタルデータには劣化と無縁な無制限のコピーや回数に制限のない修正が可能という性質があります。
 
一般的にこれらは利点とみなされることが多いですが、最近これらを制限することによってデジタルデータに新たな価値を与えるNFTという技術が急速に盛り上がり始めています。
 
私はNFTについて特に専門性を持つわけではありませんが、このタイミングでNFTに対する自分の理解を深めコラムをお読みいただく方々と共有することが必要だと考え、今回の題材の一部として取り上げることにしました。

NFT(Non-Fungible Token)とは?

NFT(Non-Fungible Token)とは非代替性トークンと訳され、ビットコインでおなじみのブロックチェーン技術を活用し「他のものでは代替できない(Non-Fungible)トークン」のことです。
スペースの関係でこれ以上の詳細についてはWikipediaのリンクもご覧ください。
 
※外部サイト:非代替性トークン
 
NFTは2017年にイーサリアムのブロックチェーン上で自分だけのバーチャルペットを実現するために実装されたのがその起源であるようです。
 
※外部サイト:Ethereumブロックチェーン上で仮想仔猫の売買が流行、わずか数日で100万ドル以上の取引が行われた
 
非代替性を現実のペットと同等のユニークネスの表現に応用し、ゲームプラットフォーム内外で現実のペットの様に育成と流通ができるエコシステムを形成することに成功しました。
ここでNFTの特性を整理すると
ブロックチェーンの技術を応用し 
①デジタルデータに唯一性を付与する(同一のビット列を持つデータを区別できる) 
②唯一性が付与されたデジタルデータをお互い区別した形で取引できる 
③デジタルデータにメタデータやトリガーとしてのプログラムをひも付けることができる 
④共通のフォーマットにより多くのプラットフォームで「①、②、③」の機能を利用できる

ということになりますでしょうか。
 
有力なアプリケーション(利用方法)としては前述のゲーム内のアイテムデータの他にデジタルアート作品や各種会員権、チケット、不動産の所有権、取引などが期待されています。
機能としてはデジタルデータの所有の証明と移転という部分が大きいですが、その機能についてまだ法的な整理はされていないようです。
 
#法的な問題を忘れないようリンクを一つ貼っておきます
※外部サイト:NFTと法 第1 【弁護士が解説】 NFTとは? 法規制と実務上の留意点

NFTアート

これはNFTで扱う特定のデジタルデータが画像や動画、音楽などを表現するデジタルファイルになったものと理解できそうです。
 
NFTは前述のとおり所有権の証明・移転やメタデータの付与・変更ができるので、アート作品のクリエイターから見れば自分の作品を広く流通させマネタイズすることができる技術であり、コンシューマーから見れば所謂これまでのコンテンツ配信メディアを代替する技術といえます。
 
また、その他のステークホルダからすると先進性と容易な課金システムが組み込まれた今後大きく成長していくビジネスプラットフォームの可能性を持つ技術であり、投資や投機の新たな可能性を切り開く技術ととらえる方もまた多いかもしれません。
 
具体的なNFTアートプラットフォームにご興味がある方は以下のリンクをはじめ、多くの情報が公開されていますので検索してみるのも楽しいでしょう。
 
※外部サイト:話題の「NFTアート」を実際に購入!世界最大のNFTマーケットプレイス「OpenSea」を使ってみた

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NFTにはまた、深く考えさせられる側面もあります。
いろいろな思惑があるにせよ、今春のオークションではあるアーティストがデジタルで制作したコラージュ作品をNFTアートにしたものがBanksyの作品以上の価格で落札されました。
NFTアート 落札価格 検索
※外部サイト:BeepleのNFT作品が75億円で落札、アート界に変革の兆し
 
75億円のNFTアートに少しでもご興味があれば上のリンクをご覧になってみてください!
 
アート作品、特に現代アート作品の値付けには芸術的価値以外にも様々な要素が絡んでいるとよく言われます。さまざまな価値観を持てるのが人間ですし、自分が理解できなくてもそれを許すのが良い社会ですね。
 
NFTは直接的に所有者以外のデジタルデータへのアクセスを制限するものではありません。あくまでも電子的な所有権の主張を果たすことが目的の技術です。
 
ストラディバリウスのようなすでに新しいものが不可能な楽器もそうですがオーセンティックなアート作品について「所有という概念は一時的なもの」というのが暗黙の了解ですがデジタルデータへの所有というものはやはりビジネス的な思惑が中心にあるのでしょうか?興味は尽きません。
まとまりがつかなくなりましたが考え方は十人十色であることから、ここではNFTのインフラがブロックチェーンである限りNFTもブロックチェーンのもつ諸々の制限や脆弱性を継承せざるを得ないということを指摘してここまでにします。

ブロックチェーンが生み出す価値の源泉

(最近公開された玉越フェローのブロックチェーンに関する素晴らしい記事をご覧いただいている方も多いかと思いますので技術的な詳細はここでは省略させていただきます。)
暗号通貨だけじゃない!ビジネスに活用できるブロックチェーンの技術とは?By 玉越フェロー
 
 
改めてここでいくつかの問を投げかけます。
Q.NFTやビットコインが”価値を生み出し続けるのに必要なもの”は何か? 
A. ブロックチェーンがつながり続けることです。 
  
Q.ブロックチェーンがつながり続けるために必要なもの”は何か? 
A.マイニングの実行(ハッシュ値の算出)です。 
 
Q.マイニングの実行(ハッシュ値の算出)に必要なものは何か? 
A.大量のCPUやGPUによる演算と記憶装置への記憶です。 
 
Q.大量のCPUやGPUによる演算と記憶装置への記憶に必要なものは何か? 
A.大量の電力の供給です。

 
そうです当たり前ですがブロックチェーンが価値を生み出すには電力が必要です。それも大量の!
 
なぜ大量か?
詳細の説明は他に譲りますが、チェーンをつなげるためにチェーンの参加者は「ほぼすべてが生成後すぐに捨てられるハッシュ値の計算」(所謂Proof of Work / PoW)を一定量実行する必要があります。
 
全体の効率性から見るとかなり無駄なコンピューティングリソースの使い方(ブルートフォースでひたすらパスワードをクラックしようとするのと同義)をしていますが、言い方を変えるとここに無駄があるため安全にブロックチェーンがつながると言えるでしょう。
イメージ画像
また、通常のIT関連の使用電力とブロックチェーンで使用する電力で異なる点として前者は結果に対する効率化が演算装置の高性能化と共に進んでいくのに対し後者は全く進まないという違いがあります。
 
PoWの計算は”悪意のある偽のチェーン”を早い者勝ちあるいは隙を衝いて伸ばさせないように時間を稼ぐ意味合いがあるため、効率化により短縮されては無意味です。
 
 
-後編に続きます-
 
#ブロックチェーンとハッシュ関数について、また仮想通貨や暗号資産についてご興味があれば、私の執筆した過去のコラムもご覧いただければ幸いです。
 
【エバンジェリスト・ボイス】暗号学的ハッシュ関数とブロックチェーン技術
【エバンジェリスト・ボイス】暗号資産の価値  匿名のたまねぎ

前編のおわりに

「宮廷画家というのはアーティストではなく写真のない時代の実用品を製作する職人に近い立場」と本文で述べましたが、画家、作曲家、演奏家、歌手、さらには陶芸家、建築家……
現在アーティストといわれることも多い職業もその昔はすべて実用性的な役割を持った(というと今は持ってないのか突っ込まれるので「実用性的な役割が特に重視された」とも)職人と認識されていました。
 
となるとソフトウェアエンジニアも何十年か後にアーティストと呼ばれる日が来るのでしょうか……
 
 
ではまた、次回のエントリーでお会いしましょう。
 
 
Hiroki Sekihara,
CGEIT, CRISC, CISSP, CCSP, CEH, PMP, CCIE #14607 Emeritus,
AWS Certified Solutions Architect – Professional,
AWS Certified Security – Specialty,
Google Cloud Certified Professional Cloud Security Engineer,


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