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2022年の「リスキリング」を考える

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フェロー 関原 弘樹   顔写真2_1187x1313

あけましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 
今年の干支は壬寅(みずのえとら)。
この干支は壬があらわす「新生」や「成長」、寅からイメージされる「決断力」や「才覚」に象徴される年のようです。
 
前回の壬寅の年である1962年には空前の「海老さま」ブームを巻き起こした九代目市川海老蔵が十一代目市川團十郎を襲名することにより59年ぶりに大名跡を復活させています。
また、国外に目を向けてみるとその後、時代のアイコンとなるThe Beatlesがシングル「Love Me Do」をリリースし、輝かしいスタートを切っています。
 
なんにせよ明るい話題が少なかった昨年とは気分一新、みなさまにとっても日本にとっても明るい話題があふれる一年になって欲しいと願っています。

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さて今回は新年ということで前向きなお題で始めたいと思います。
それは「リスキリング」みなさまも昨年一年間よく耳にされたかもしれません。

Google Trends
出展:Google Trends


リスキリングとは何を意味するのか?

「Reskilling」
そのまま読むと学び直しや再教育をするというような意味合い。
現在はIT人材の強化やDXへの対応という文脈で使われていることが多いようですね。

リスキリング検索結果 
これを経済産業省に近い視点で見てみると
 
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」

※外部サイト 出典:リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流― リクルートワークス研究所
 
となります。
まあ、様々な転換期にこういったプロセス自体が必要となることは当然で特に目新しくもないとも言えます。
 
また、この資料では
・リスキリングは「リカレント教育」ではない
・リスキリングは単なる「学び直し」ではない
ということが強調されています。
 
さて、これはどういうことか?
 
「リカレント教育」ではない
ということは現在の職を継続しながら必要なスキルを身に付けていくことを意味し、失業時に国や自治体が支援する再就職支援のための学習とは全く異なるということであり
単なる「学び直し」ではない
ということは学ぶ目的は現在の職に関連して大きな価値や成果を出すための新しいスキルを身に付けることであり、生涯学習のような個人の自己の充実・啓発や生活の向上のためのものではない
 
ということが重要なポイントのようです。
 
そしてその後に続く
 
DX時代の人材戦略=リスキリング

というキーワードを考え合わせるとリスキリングとは単に個人の自発レベルでのアクションではなく企業戦略と強固に結び付いた人材育成プロセスの柱として位置付けたいという思惑が見えてきます。
 
このセクションをまとめると、リスキリングとは企業がDXにより新たな価値を生み出せる事業を創出・展開していくために必要となるこれまで持ちえなかったスキルを従業員に身に付けさせることを意味する。となるのでしょうか。

リスキリングが注目された背景

コラムの構成上この位置にWhyを入れるのが自然なのでこのセクションを入れましたが、執筆しようとしてちょっと今更感があると気付きました。ただやはり必要なので筆者なりに進めてみます。
 
リスキリングは「Re」のなのでその対象はこれまで通用してきた一定のスキルを持って活躍してきた(価値を生み出してきた)人材となります。
 
これをなぜ今そしてこれから変えていくのかといえば、当然ですが「これまで通用してきた一定のスキル」では今後通用しない、企業の一員として価値を生み出せないからに他なりません。
 
なぜ通用しないのか?
 
それは筆者がここでいうまでもなく先進的なデータ活用を可能としたビッグテックの台頭により多くの従来型ビジネスモデルが陳腐化し各組織がそれぞれDXによる変革を実施せざるを得なくなったことによるものです。
 
それを人材レベルへの影響に落とし込んだ結果として、件の資料には世界経済会議(ダボス会議)でのコメントという形で
 
「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で9700万件の新たな仕事が生まれる」

と書かれています。
 
まあ、これ自体は2次産業革命における重工業化や、第3次産業革命での高度な自動化に伴った花形職種の移行がまた繰り返されことだと思いますが、それなりの期間蓄積されてきたナレッジやベストプラクティスの爆発的な増大に伴い現存している職種に必要なスキルを学ぶ労力はこれらのころよりはるかに高くなっていると思われます。
よって、それらを捨てるまではいきませんがその上にまたさらに別のスキルを身に付けなさいというのも一言で言えるほど簡単な話ではないでしょう。
 
だからこそ、ここにきて担当省庁がバズワード化することもいとわず「リスキリング」のプロモーションに力を入れているのだと感じています。


リスキリング/DX人材/目標達成

これまでのセクションからリスキリングはDXと密接な関連があることは同意いただけると思いますが、ここでDXのための人材とは?どのようにリスキリングしていけばいいのか?という疑問が出てくるかもしれません。
 
情報処理推進機構(IPA)が2019年に公開している「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」※ではDX人材として以下の6種を定義し、不足感の調査結果を公表しています。
※外部サイト:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査

人材の呼称例
人材の役割 大いに不足
プロデューサー DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO含む)
51.1%
ビジネスデザイナー
DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材 51.1%
アーキテクト
DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材 50.0%
データサイエンティスト
/AIエンジニア
DXに関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材 47.8%
UXデザイナー
DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材
38.0%
エンジニア/プログラマ
上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材 35.9%


なるほど、これらを見るとDXに必要な人材かつ不足が顕著な人材は必ずしもテクノロジー寄り(のみ)の人材に限定されないようです。
 
ここからリスキリングを進めていくに当たって落とし穴に落ちずに成功させる、つまり組織の目標達成に結び付けるために必要な前提が見えてくるかもしれません。それは……
 
「スタート時に人材ごとに必要なスキルセットとレベルの定義を正しく設定しておく」
 
ITを含めた企業のガバナンスを知る方なら当然かと思いますが、このような新しいキーワードと関連するプロセスを進める時には、ついおろそかになりやすいのも事実です。
 
必要なスキルセットとは何なのか?
デジタル、ITに偏りすぎていないか?Digitalはあくまでも手段で本当に価値をもたらすのはTransformationではないのか?
 
技術的には相当なことができる人材を豊富に有していても、市場ニーズ-ビジネス環境-テクノロジートレンド-自社のアドバンテージを熟知し、分析し、けん引していける人材が不在であれば組織はその場から一歩も動けないでしょう。
 
最適なスキルレベルはどのように決定されるのか?
レベルを分割した方がより早く効率的にDXを勧められるのではないのか?各レベルの人材はどのような割合で存在するべきなのか?各レベルの到達指標は正しいのか?
 
テクニカルなプロジェクトのリーダやコアメンバーとなることを期待して育成する人材に、概要が分かる程度の研修を受けさせ認定を取らせても期待した結果は得られないでしょう。

調査結果サマリ


学びを進めるにあたってのポイント

ここではリスキリングに限りませんが組織が必要な人材に必要なスキルを身に付けさせるにあたり、筆者が気付いたポイントをいくつか挙げてみます。
 
①組織内に戦略を浸透させる
リスキリングに関する施策はその要求の性質上、組織の成長戦略を落とし込んだもののはずです。
つまりトップダウンの施策ということになりますが、その目的と必要性がミドルマネジメントをとおして現場の担当者レベルまで正しく伝わっていないとうまくいきません。
 
当然の様にこれはトップダウンの戦略を成功させるためのセオリーですが、リスキリングに関する施策では人材や業務プロセスに関するアプローチが多く含まれるという性質上、特にその実施結果がミドル~現場レベルでの組織の改廃やラインの上下に関連してきます。
 
表面上は意欲をもって取り組む姿勢を見せていても、自らが置かれた現状に満足し、変化を恐れるあまり動きを止めてしまうなど、部下の向上心を妨げるようなアクションを取ってしまう者が出てこないよう十分なコミュニケーションが同時に必要となってきます。
 
②リスキリングした人材を正しく評価し処遇する
リスキリングが成功した暁にはどうなるのか?
 
個人レベルでの結果には報酬やポジンション等いくつかの観点がありますが、ジョブ型の報酬制度を採用している、またはそれに近づけていきたい先進的な企業にとっては業務遂行能力アップを直ちに報酬に直結させるというのは難しいかもしれません。
 
ここはやはり「成果には報酬を能力にはポストを」のセオリーどおり、リスキリングした人材に能力が発揮できるポスト/ポジションを迅速に与えることが必要ではないでしょうか。
 
適切なポスト/ポジションが無いようなら別ルートを含むそのロードマップを含めて検討しておく、また報酬制度も別テーブルを採用することで強力なリスキリングの推進体制ができるはずです。
 
③必要な時間、予算等のリソースを適切に割り当てる
リスキリングの定義では組織(企業)主導で実施していくことが前提となっています。
当然必要なリソースも組織が準備することになります。
 
リスキリングに必要なプロセスを考えるとまず(ワークショップを含めた)研修と必要に応じてその到達したレベルを担保する認定試験への合格等がメジャーでしょう。
 
ここで問題が出てきます、それは

1)リスキリングのために割り当てたリソースが適切に現場で消化されているか?
2) リスキリングのために割り当てたリソースだけで本当に十分か?

この二つです。
 
これは①と関連していますがいくら研修予算を積んでも現場の業務遂行が第一と考えるマネージャがいると研修への派遣の優先度が下がり、リスキリングの施策は進みません。施策を進めるにはそのあたりの十分考えた業務割り当てと組織目標の設定が必要です。
 
また、リスキリングに必要なリソースは研修費用(+ワンショットの試験費用)だけと見込むとせっかくの施策も不十分な結果に終わってしまうかもしれません。
 
「スキルは陳腐化するもの!」

せっかく身に付けた新たなスキルですが常にアップデートし続け、業務に役立てるようにしておくには継続的な学習が必要です。

当初の研修だけでなくその前後の自己学習やスキルの証明のとして取得した認定・資格の維持コスト(継続学習ポイントの取得コスト、年次の認定フィー)についても組織が必要とするリソース(コスト・活動時間)を提供すると施策の効果が高まるのではないでしょうか?


Inspiring a safe and secure cyber world
※外部サイト:japan.isc2.org

Web上のリスキリングの事例

会員限定の記事もありますが参考までにWeb検索で出てくるリスキリングの企業事例のリンクを載せておきます。
※以下外部サイト
・DX推進の鍵、リスキリング -日経コンピュータ
 
・自律型人材の育成を目指すリスキリングをベネッセが解説 -Human Capital Committee
 
・企業のリスキリング実施に関する調査 -日本の人事部

おわりに

よく知られている山本五十六のリーダシップに関する名言ですがリスキリングによる人材育成を進めるにも正にこの考え方!
 
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」
 
筆者は特に最初の「やってみせ」が非常に重要だと考えています。
 
現場とのレベルは当然違いますがトップもミドルも先行して変わっていく姿を見せること。これが組織のリスキリング施策の成功には最も重要となるのではないでしょうか。


日の出



さあ、2022年!
みなさまが、そしてわれわれも「リスキリング」を最適な形で企業戦略に取り入れて組織と人材強化し、ビジネスのさらなる発展と目標の達成ができるような年にできれば素晴らしいですね。
 
 
ではまた、次回のエントリーでお会いしましょう。
 
 
Hiroki Sekihara,
CGEIT, CRISC, CISSP, CCSP, CEH, PMP, CCIE #14607 Emeritus,
AWS Certified Solutions Architect – Professional,
AWS Certified Security – Specialty,
Google Cloud Certified Professional Cloud Security Engineer,


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関原 弘樹

株式会社インフォメーション・ディベロプメント フェロー / CISSP

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