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そのBCM/BCP、気候変動を考慮していますか?

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ICTサービス第5部
テクニカルスペシャリスト 千葉 由紀祐   千葉さん顔写真_184x297

こんにちは、テクニカルスペシャリストの千葉です。


今年も残すところわずかになりました。
一年を振り返ると、事業継続の観点では、新型コロナウイルス感染症対応がやはり大きなウエイトを占めました。
1~3月の第6波、7~8月の第7波、そして11月~現在の第8波と断続的に感染の波がおき、年間を通して対策の緩和と引き締めの検討を行っていました。
 
今後、感染症法上の分類が2類相当から5類に見直しがされれば、既存の新型インフルエンザ対策レベルへの移行も可能になってくると思いますが、もうしばらくは、政府・自治体の対応方針等にあわせた個別対策が必要と思っています。
 
さて、今年は事業継続管理(BCM)において、感染症対策の他に、気候変動に対する取組みを強化された企業が多かったのではないでしょうか。昨年のコーポレートガバナンス・コード改訂により、今年4月よりプライム市場上場企業は、気候変動影響についてTCFD※1、またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実が必要(実質義務化)※2となったことに加え、自然災害の規模や範囲が大きくなり、激甚化していることの実感などが要因として挙げられます。
 
気候変動影響への対応は、事業全般に及ぼすリスク・機会等の評価が全社リスク管理や環境マネジメント、気象災害への対応がBCM/BCPの範疇といえますが、今回は後者のBCM/BCPにおける気候変動適応の考慮点について、述べていきたいと思います。
 
 
※1…「TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)*により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しています。」(TCFD Consortuim HP (※外部リンク)より)
 
※2…「上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・ 提供すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及びプライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」
コーポレートガバナンス・コード (※外部リンク) 原則3-1 情報開示の充実 補充原則3-1③より)

気候変動とその対策(“緩和”と“適応”)

気候変動による地球温暖化の影響は、自然災害の激甚化、猛暑による水不足、食料供給不足など生活に大きく影響するほか、企業の事業活動へも大きく影響します。近年の洪水等によるサプライチェーン途絶による損害、豪雨による発電への影響による損害事例などを見ても、企業活動、社会・経済へ深刻な影響を与える事が想定できます。
※IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書では、このまま温室効果ガスの排出を続ければ、2100年には平均気温が最大4.8度上昇する可能性があると予測しています。

温度シナリオ毎の2100年のインパクト

引用:「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0(※外部リンク)」 P26

その対策として、温室効果ガス排出量の削減により気温上昇を2℃までに抑える(努力目標として1.5℃)とした「パリ協定」や、2050年までに排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル実現」などが挙げられます。また、これらの対策によって2℃又は1.5℃の目標が達成されたとしても、上表の通り一定の影響が想定されているから、この影響による被害を回避・軽減するための対策も同時に進める必要があるとされています。
 
気候変動を抑える対策を”緩和“、気候変動の影響による被害を回避・軽減する対策を“適応”として取り組まれています。

気候変動を抑える対策を”緩和“、気候変動の影響による被害を回避・軽減する対策を“適応”
引用:気候変動適応プラットフォーム(A-PLAT) HP(※外部リンク)より
 
企業においても“緩和”と“適応”の両方の対策に取り組む必要がありますが、BCM/BCPの観点でいえば、被害を回避・軽減する“適応”の取組みが強く関連しています。

気候変動がもたらす“リスク”と“機会”

もう一つ、気候変動がもたらす“リスク”と“機会”について触れておきたいと思います。
 
FCFDの最終報告書では、“リスク”と“機会”とそれによる財務への影響を以下の通り表しています。

最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言
引用:気候関連財務情報開示タスクフォース「最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(※外部リンク)」 P7
 
“リスク”は、カーボンニュートラルへの移行等により企業戦略に大きな変化をもたらす「移行リスク」と、気候変動がもたらす影響(豪雨、洪水、海面上昇など)による「物理的リスク」に分けられます。これらリスクの管理と、新たなビジネス創出等の“機会”を獲得するための戦略の2点から、財務への影響を明確にし、投資家・ステークホルダー等に開示することが、企業・社会の持続的発展につながります。
 
そして、「物理的リスク」に対する“適応”(気候変動適応)が、BCM/BCPにおいて特に考慮すべき点となります。

BCM/BCPにおける気候変動適応の考慮点

BCM/BCPの基本的な考え方、全体プロセス、ポイント等は以前のコラムで述べていますので、BCM/BCPにおける気候変動適応の考慮点として2点挙げたいと思います。

(1)リスクの分析・評価のための情報収集と定期評価

BCMの分析・検討プロセスの「リスクの分析・評価」において、発生事象の発生可能性と影響度の定量的・定性的評価から自社で取り組む発生事象の優先順位付けを行うためには、検討漏れのない十分な情報収集が欠かせません(BCMは何が起きても事業を継続させる事が目的であるため)。
物理的リスクには短期間で発生する“急性”リスクと、長期間を掛けて発生に至る“慢性”リスクに大別できますが、双方のリスクの情報を収集し、分析・評価する必要があります。
※主な急性リスクと影響…豪雨による水害、豪雪によるインフラ障害、台風による施設損傷 など
主な慢性リスクと影響…高温による設備効率・作業効率の低下、渇水による水資源利用減少 など
 
収集する情報は、気候変動影響に関する情報や、将来の気候変動影響予測、自治体の取組みなどがあり、IPCC、国立環境研究所の気候変動適応プラットフォーム(A-PLAT)、各省庁・自治体のHP等で確認できます。物理的リスクの“適応”をテーマとしたセミナー・講演も多く行われていますので、新しい見解や他企業の取り組み事例は大いに参考になると思います。
 
気候変動対応は不確実性があるため、継続的な情報収集と分析により精度を高めていく必要があり、BCMサイクルによる定期的な評価・見直しが重要です。

(2)物理的リスクを考慮したBCP策定

政府が今年3月に公開した「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(※外部リンク)」では、地震、感染症に関しては整備が進んでいるものの、その他の発生事象については半数に至っていない状況となっています。テキストテキスト

令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査
引用:内閣府 防災担当「令和3年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(※外部リンク)」 P66 
 
整備状況が低い理由としては、リスク分析・評価での自社事業における優先度の兼ね合いや、広域災害で事業影響の大きい地震の整備で問題ないと判断されている場合などが考えられます。
前者については、自然災害の激甚化の進行や、将来の気候変動影響予測等の新たな情報から、物理的リスクの“急性”、“慢性”に関するリスク分析・評価での優先度は上がっていくものと考えます。後者については、気象災害等の原因事象毎に平時と緊急時の初動対応は異なる事から地震だけでは十分とは言えません。以前のコラムで取り上げたオールハザード型BCPなどの検討が必要です。

終わりに

気候変動への取組みは、事業の持続可能性を高め、新たな事業を創出するとともに、顧客の信頼を勝ち取り、企業の競争力を高めることにつながります。
一方で不確実性があることから、確実に成果・結果を得られる保証はなく、積極的な情報収集と、分析・評価の精度向上により、確実性を高める持続的な取組みが求められます。
 
文中でご紹介した、国立環境研究所のA-PLATのHP(※外部リンク)は、予測データの他、国、地域、事業者、個人それぞれの“適応”の取組みがまとまって紹介されており、情報収集し易いと思いますので、まだ確認されていない方は是非一度見てみてください。
 
また、当社グループも、TCFDの提言に賛同し、TCFDコンソーシアムへ参画しています。当社グループの気候変動への取組みについてはこちらをご参照ください。
 
本コラムが、気候変動対策やBCM/BCPに興味を持つきっかけになれば幸いです。
 
 
なお、当社グループでは、BCP強化・効率化のニーズに対応するためのSaaS型システム運用サービス「Smart運用」の提供をしています。

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お客様のシステム構成(オンプレミス環境、クラウド環境など)にかかわらず、AIによる自動化や、当社運用拠点からのリモート運用によりお客様のDX推進を支援する SaaS 型のシステム運用サービスとなっています。

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今年一年、コラムを読んでいただき、ありがとうございました。
また来年お会いしましょう。


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千葉 由紀祐

株式会社IDデータセンターマネジメント テクニカルスペシャリスト

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