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クラウドサービスの普及により、システムやデータをオンプレミスからクラウドサービスへ移行する企業も増えてきています。そこで本コラムでは、オンプレミスからAzureへ移行するメリットや注意点を確認しながら、Azureへ移行する手順と移行に利用できるツールまでを紹介します。
オンプレミスからAzureへ移行するメリット
オンプレミスからAzureへシステムを移行するメリットを見ていきましょう。
管理コストの削減
オンプレミスでのシステム運用では、管理者がシステムの設計や構築、必要な機器の購入やデータセンターを借りるといったコストがかかります。また、システム運用中も安定稼働を保つための工数や管理コストがかかっています。しかし、オンプレミスからAzureに移行することで、システム構築に必要な機器や設備をすべてAzureのサービスとして使えるため、インフラの物理的メンテナンスが不要になり、自社で管理する範囲は大幅に減り管理コストの削減につながります。
いつでもリソースのスケーリングが可能
Azureを利用すれば、状況や用途に応じていつでもスケーリング可能です。オンプレミスならば、自社の管理者が物理的にメモリ増設などを行ったり、新たなシステム環境を構築するためにサーバーやネットワークの構築を行ったりしなければならず、システムのスケーリングに多少の時間が必要です。しかし、AzureはWebからのオペレーションや自動的なスケーリングにも対応しています。
セキュリティ管理
Azureを利用すれば、ベンダーが管理するセキュリティを利用できます。オンプレミス環境に対して常に最新のセキュリティ対応を実施することに比べて手間を省けるということです。また、自社だけではなかなか行き届かなかったセキュリティに対する脆弱性対策も、ベンダーに任せることができるため、オンプレミスでシステムを運用するよりもセキュリティの強化につながる可能性があります。
BCP(事業持続性)への取り組みにもつながる
Azureでは、複数のリージョンにデータセンターを持っているため、万が一の有事の際に対するBCPへの取り組みにもなります。
移行前の注意点
システムをAzureへ移行する際には、確認しておきたい注意点があります。
まずは、既存のオンプレミス環境が、移行先であるAzureの要件を満たしているかをチェックしておかなければなりません。Azure上で既存のシステムを動かすために、新たなモジュール開発が必要になった場合には、余計な工数やコストがかかることもあるからです。
また、Azure特有のオペレーションノウハウが必要となりますので、管理者や利用者に学習コストなどの負担がかかることも考えられます。
データの扱いについても注意しなければなりません。これまではオンプレミスで保有していたデータですが、Azureに移行する場合にはデータも移行させる可能性が出てきます。そのとき、企業としてのセキュリティポリシーやコンプライアンスに反していないかなど、考え方を検討する必要が出てくるかもしれません。
Azureへの移行手順
注意点を確認したところで、ここからはAzureへの移行手順を見ていきましょう。「Azureだから移行方法が特別」だというわけではなく、システムインフラを移行する際には必ずやるべきことです。
手順1:事前の調査
移行前には必ず、既存システムの事前調査が必要です。
■Azureへ移行する目的の明確化
Azureへの移行は、まずその目的を明確化することからはじまります。移行することでなにを実現させたいのかがしっかり定まっていないと、どのシステムをどこまで移行するのか、あるいはいつまでに移行を完了させるのかを決定できません。場合によっては移行のための工数とコストだけをかけて、Azureを使わないという状態にも陥ってしまいがちです。ですので、Azureへ移行した先のゴールを明確にしておきましょう。
■Azureへ移行するシステムの明確化
上述の「目的の明確化」と重複する部分もありますが、既存システムのどこまでをAzureへ移行するのかを明確化しましょう。例えば、環境を頻繁にスケーリングしなければならない開発環境だけをAzureへ移すなど、明確化された目的の元に移行するシステム範囲も決定しましょう。
■影響範囲の調査
Azureへ移行する候補の中には、業務やシステムに大きな影響を与えるものがあるかもしれません。例えば、システム内で外部システムとの連携があり、どうしてもオンプレミスで運用しなければならないシステムがあれば、移行はできません。Azureへ移行することで影響が出る範囲について詳細な調査を行いましょう。
手順2:計画と移行準備
事前調査が完了したら、次は計画と移行準備を行います。
■移行にかかる期間と完了日の明確化
計画では、まずオンプレミスからAzureへの移行にどのくらいの期間がかかるのかを算出し、移行完了日を明確化します。完了日までにマイルストーンを設定するなど、移行進捗がわかりやすいように計画を立てることがポイントです。
■既存システムのソフトウェアや実機の調査
既存のシステムにはどのようなソフトウェアが使われているのか、OSやミドルウェアなどのバージョンや依存関係、ネットワーク構成なども含めて細かく調査をします。また、実機(ハードウェア)についても、CPUやメモリはもちろん、個体番号なども記録して、詳細な仕様書を作成しながら調査するとよいでしょう。
■アカウント情報や権限などの情報資産棚卸し
既存のシステムで利用しているユーザーIDをはじめとしたログイン情報や、それぞれのアクセス権限・秘密鍵などをすべてまとめましょう。また、設計書を含むドキュメント類も精査し、資産の棚卸しをしておくことで、移行の際の細かなチェックに役立ちます。
■移行後のサポート体制も明確にしておく
移行後に変わるシステムやオペレーション、想定されるトラブルシューティングなどをまとめたり、サポート担当者を決定したりしておくなど、Azureでシステム運用を開始したあとの体制を整えておきましょう。インフラが変わるので、どんなに完璧な移行計画だったとしても、多少のトラブルはつきものです。これらトラブルは、システム利用者はもちろん管理者にとってもサポート対応という負担がかかりますので、想定できる事項はまとめて備えておくことをおすすめします。
手順3:段階的な移行とテスト
計画と移行準備が完了したら、まずは段階的な移行とシステムテストを繰り返していきます。
■影響範囲の少ないシステムから徐々に移行する
移行段階では、システムを一気に移行するのではなく、影響範囲の狭いシステムやデータから段階的に移行をしていきます。移行した部分は、都度アクセステストなどを繰り返し、期待通りの結果が返ってくることを確認してください。例えば、データだけをAzureへ移行して、データへアクセス・参照できるかなどを繰り返しテストしながら徐々に移行していきます。
■スムーズな移行が可能か否かを確認する
移行の途中でトラブルがおきた場合は記録しておき、対処方法を細かく検討しましょう。全体的な移行がスムーズに行えるのか、影響範囲を確認しながら逐一チェックをする必要があります。
■アクセステストやオペレーションの確認
一部システムの移行が完了したら、Azure上に移行したシステムへのアクセステストや、想定通りのオペレーションができるかどうかをテストします。このときに使用するテスト項目は、準備段階で作成しておくとよいでしょう。
手順4:移行の実施と運用サポート
段階的な移行とテストにて、問題なくシステムを移行できることがわかったら、いよいよシステム全体の移行を実施します。
■全体的なシステム移行の実施
オンプレミス環境にあるシステムを、計画通りにAzureへ移行します。もちろん、全システムを一気に移行するのではなく、機能ごとにチェックをしながら段階的に移行することが望ましいといえるでしょう。一気に移行を進めて不具合が発生した場合、どこでトラブルが発生したのかがわかりにくくなり、調査などに時間がかかってしまいます。
■移行に伴うトラブル対応や運用サポート体制を整える
Azureへの移行後は、実運用におけるサポート体制を整えてください。準備段階で決定したサポート体制で、利用者からの問い合わせやトラブル対応をさばいていきましょう。利用者のオペレーションや運用が安定するまでには多少の時間は必要ですが、時間とともにサポート対応の人員人数を縮小していくなど、調整しながらサポートを進めていくとよいでしょう。
VMwareのVMからAzureへの移行をサポートするツール
オンプレミスからAzureへ移行する方法には、Microsoftが提供しているツールを使う方法があります。もし、既存のシステムにVMwareを利用しているならば、Azure Migrateを使用して移行することで、スムーズな移行が可能になりますので移行作業の負担を軽減できます。
Azure Migrateはサーバーを移行するために設計されたツールで、オンプレミスのマシン検出や評価が可能です。例えば、VMwareのVMの移行オプションを学習して、エージェントあるいはエージェントレスでVMをAzureへ移行することができます。
Azure Migrateには、以下のような機能が備わっていますので、ツールを利用する場合は把握しておきましょう。
- Server Assessment
オンプレミスのVMware VM、Hyper-V VMと、それらが稼働している物理的なサーバーを評価する
- Server Migration
サーバーの移行ツールで、VMwareのVMからAzureへ移行する
- Data Migration Assistant
データベースをAzure SQL Databaseへ移行するときの互換性を評価する
- Azure Database Migration Service
データベースをAzureへ移行するツール
- Mover
サーバーの評価ツール
- Web App Migration Assistant
Webアプリの評価ツール
- Azure Data Box
大容量のオフラインデータをAzureへ移行(アップロード)するためのツール
オンプレミスのVMからAzureへの移行では、これらツールが使えると手間が省け、移行時のリスクも最小限に抑えられるでしょう。Azureが用意した移行ツールが自社に適用できるかどうか、しっかりと調査・検討してみることをおすすめします。
クラウド移行サービスや運用支援サービスを利用する
Azureへの移行にはツールを使う方法もありますが、ITベンダーが提供しているクラウド移行サービスや運用支援サービスなどを利用するという選択肢もあります。ベンダーはAzure移行における豊富な経験とノウハウを活かし、Azure移行を行ってくれますし、移行後の運用についても支援してくれます。
システム管理者がAzure移行の稼働を割けないなど、自社で対応が難しい場合には、ベンダーのサービスを利用することも検討してみましょう。
まとめ
オンプレミスからAzureへの移行は、管理コストの削減をはじめとする多くのメリットがあります。しかし、企業活動の基盤となるシステムを置き換えるのですから、大きなリスクと作業負担がかかることも事実です。Azureに関しては、移行ツールなども用意されていますので、自社のシステム環境に合ったツールで移行する、あるいはITベンダーの移行サービスに頼るという選択肢もあります。より確実で自社の工数をかけない方法も含めて検討してみましょう。
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