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未曽有の猛暑もやや弱まり、ほっと一息と思ったのも束の間。東京でも猛暑がぶり返しています。
NASAによれば先月、2023年7月は全世界で見ても観測史上最も暑い月だったそうです。
 
ちなみにこの”観測史上”ですが、具体的には1880年からということなので、46億年の地球の歴史からすると直近そのものなんだなという気もしますね。


イメージ画像
出典:NASA


まあ、2年前にもNOAA(米国海洋大気庁)が「2021年7月は記録史上最高の暑さ」と発表していたので「最も暑い月」の記録も来年にはあっさり更新されているかもしれません。
さて、この暑さですから今回のコラムはさらっと流していきたいと思います。

先週、ガートナーから吉例の「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」の発表がありました。例年のリリースは9月から10月にかけてですので今年は例年よりやや早かったようです。

今回のコラムでは、この2023年版の注目すべきトピックスについてみていきましょう。


日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年出典:ガートナー

ガートナーとハイプ・サイクル

ご存じの方も多いと思いますが、念のため最初におさらいをしていきましょう。

ガートナーという企業について

ポイントをリストとして書き出してみます。

  • 1979年に設立され、米国コネチカット州スタンフォードに本社を持つ
  • IT業界のリサーチ、アドバイザリ、及びコンサルティングを提供するグローバル企業
  • 技術のトレンドや市場分析を提供し、企業が戦略的な決定を下すのをサポート
  • ITリサーチのリーダーとして、イベント、セミナー、そして各種調査を通じて、多岐にわたるクライアントに価値を提供

テクノロジに関する情報を取り扱うといっても技術の細部に特化するわけではなく、経営・ビジネスの視点から役立てることのできる情報を提供することが大きなミッションということですね。

ハイプ・サイクルとは?

ガートナーが提供するハイプ・サイクルは、新興テクノロジやトレンドの成熟度を示すフレームワークです。技術の進化を5つの段階で表現し、革新的なアイデアから市場成熟までの過程を示します。
過程を示すという言葉の通りこのサイクルは循環するものではなく”生命のよう”に始まりと終わりがあります
 
なお、対応するジャンルとしては以下のページに詳しいですが、参考までに最新のもののタイトルをいくつかピックアップして引用しておきます。


ハイプ・サイクル 2021-2023年レポート一覧 (2023年7月31日時点)

日本におけるクラウドとITインフラストラクチャ戦略のハイプ・サイクル:2023年
本ハイプ・サイクルでは、クラウドとITインフラストラクチャ戦略にまつわる主要テクノロジや重要トレンドを取り上げる。これらは、ITリーダーがクラウドの活用やITインフラストラクチャの近代化を進める上で重要であり、企業の競争力と存続性に影響を及ぼすため、その適用時期を確実に見極めなければならない。
 
ブロックチェーンとWeb3のハイプ・サイクル:2022年
暗号通貨やトークンは2022年に暴落を経験したが、通貨の価格とテクノロジの価値を混同すべきではない。今後、企業がブロックチェーンやWeb3の関連テクノロジのビジネス価値を理解するようになるとともに、消費者向けアプリ、例えば非代替性トークンを使用したゲームや商取引が、イノベーションを広げるようになる。同テクノロジは間もなく採用が進む転換点に達するため、そこで生まれるリスクにプロアクティブに対処していくべきである。
 
アジャイルとDevOpsのハイプ・サイクル:2022年
アジャイルとDevOpsは近代的なソフトウェア・エンジニアリングのプラクティスに不可欠な要素である。ソフトウェア・エンジニアリング・リーダーは、本ハイプ・サイクルを参考に、どのイノベーションが自社の能力をレベルアップするのに役立つかを把握する必要がある。
 
先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年
本ハイプ・サイクルでは、今後2~10年にわたってビジネスや社会に大きなインパクトをもたらす先進テクノロジを取り上げる。エンタプライズ・アーキテクチャとテクノロジ・イノベーションのリーダー、これらのテクノロジを活用することで、イマーシブ・エクスペリエンスを拡大し、AI自動化を加速し、テクノロジストによるデリバリを最適化できる。

ハイプ・サイクルの各フェーズ

ハイプ・サイクルには、「黎明期」「過度な期待のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産の安定期」の5フェーズがあります。
黎明期 新技術が登場し、初期のメディア報道や関心が発生した段階。
過度な期待のピーク期 大きな期待とともに技術に対する興奮がピークに達するがこの時点では、多くの失敗が発生することも多い。
幻滅期 技術の実際の問題点や制約が明らかになり、ここまでの興奮が失望に変わる。この時期、多くの技術は適応や改良を必要とする。
啓発期 技術が実際に有用であることがわかり、企業や組織が効果的な方法でその利点を実現する方法を見つけ始める時期。
生産の安定期 技術が主流になり、広範囲で採用される。この段階では、その技術の価値は広く認識されている。

ハイプ・サイクルは、主に企業が新しい技術の投資や採用のタイミングを判断する際の参考として用いられます。


過度な期待のピーク期
出典:ガートナー


ここでは黎明期啓発期2つの上り坂に注目してみたいですね。
このサイクルで明確に上り坂となるのはこの2つのフェーズだけですが、それぞれ意味合いが異なります。

最初の上り坂である黎明期の後は、過度な期待のピーク期を経て必ず現実とのすり合わせである幻滅期が来るので、ここは先行者利益を期待した中長期の投資というフェーズというとらえ方ですね。

もう一つの上り坂の啓発期の時点では、もう現実のマーケットが立ち上がっている最中ですので、具体的にビジネスの展開を検討している必要がありますが、このタイミングから検討していてはすでに遅いということも多いかもしれません。

上り坂に注目と書いておいてなんですが改めてこう書いてみると、ボラティリティの大きい株の底値を狙うように、実際に注目し検討すべきは実は幻滅期に差し掛かるテクノロジなのかもしれませんね。

ただし「表下部に主流の採用までに要する年数」という要素があるように、それぞれのテクノロジが同じ速さでハイプ・サイクル上を移動するわけではありません。ここは毎年見直されますし、他のテクノロジと統廃合されて定義域が変わっていくテクノロジもあれば、幻滅期で停滞するテクノロジも当然あるでしょう。

ハイプ・サイクルの根拠と組み立て

個人的にはハイプ・サイクルで提示される各テクノロジのポジションは厳密な数値や集計に基づいたものではないと理解していますが、念のためにChatGPTのGPT-4に「どのようにハイプ・サイクルにそれぞれのテクノロジがマッピングされるのか?」を聞いてみました。


Gartnerのハイプ・サイクルは、独自の調査や専門家の意見、市場の動向、顧客からのフィードバックなど、多様な情報源に基づいて作成されています。具体的には以下のようなプロセスや情報が背後にあります:
 
広範なリサーチ:Gartnerは、技術、製品、サービス、およびそれに関連する市場の動向に関する広範な調査を行っています。これには、業界のリーダーやプレイヤー、技術のエキスパート、エンドユーザーとのインタビューが含まれることが多い。
 
顧客からのフィードバック:Gartnerのクライアントは、世界中のさまざまな業界やセクターの企業や組織から来ており、そのフィードバックや質問はハイプ・サイクルの形成に寄与しています。
 
専門家の意見:Gartnerは多数のアナリストや専門家を擁しており、それぞれの分野の知識や経験を持っています。これらの専門家たちは、各技術の位置や成熟度を判断するのに重要な役割を果たしています。
 
データ分析:市場のデータや技術の採用に関する統計は、ハイプ・サイクルを形成するための重要な入力となります。
 
継続的な更新:技術や市場は常に変化しているため、ハイプ・サイクルも定期的に更新されます。新しい技術の登場や既存の技術の進化、または市場の変動に応じて、ハイプ・サイクルの各技術の位置は変わることがあります。
 
これらの情報源や手法を組み合わせて、Gartnerはハイプ・サイクルを形成し、技術の現在の状態や将来のトレンドを示しています。


私の好きな言葉に「客観は主観の集まり」という言葉がありますが、これらの説明にもよくあてはまると感じます。
ハイプ・サイクルの活用を検討するときは頭の片隅に入れておくといいかもしれません。

2023年度版 未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル

やっと(本来の意味での)さわりまで来ましたが、スペースの都合もあり冒頭申し上げたようにキーワードをベースにさらっといきましょう。

生成AI

今回のハイプ・サイクルの一番の目玉は「生成AI」は過度な期待のピーク期に位置付けられたということでしょう。
期待度は各個人がそれぞれ持つ量なのでそれぞれの知識量により異なるものだと私は理解しています。「生成AI」についての知識が豊富な層にとっては過度な期待は存在しないので、そのあたりからは感じ方のギャップが出てくるかもしれません。みなさまの肌感覚とのギャップはいかがでしょうか?

Web3,NFT

主流までの年数は異なりますが、多くの方の想像通り絶賛急降下中です。
個人的にはバズワードとともに短期的で、一部の人のみにしか価値を生み出さないビジネスに使い捨てられたという印象です。幻滅期をいつ、どのように抜けてくるのかというところが注目ですね。

メタバース

5~10年が予想される幻滅期の真っただ中です。
ドラスティックに社会行動を変えるようなテクノロジには、人間の体はそんなにすぐには対応できないということでしょうか?
個人的にはヒューマンインタフェースデバイスがすべてという認識ですので、フレームなし眼鏡やコンタクトレンズ型のデバイスができそうになったら連絡してくださいと言いたいですね。

量子コンピューティング

このテクノロジについてはここ1年ほど個人的に興味を持ってウォッチしてきましたが、今年はガクッと幻滅期が来ました。
黄色の△の印が示すようにものになるのは10年後ですね。ただ、CPUに相当する部分のハードウェアの問題があるにせよ、確実に幻滅期を抜けてくる手ごたえを感じます。
ソフトウェアよりのエンジニアであれば、今から取り組んでいくのも面白いですし5年あたりにいいことがあるかもしれません。

ブロックチェーン

ガートナーによれば毎年確実に前進し幻滅期を抜け黎明期に差し掛かかる表現がされています。
このテクノロジに関連する話題でいつも思うのは、非中央集権制と環境負荷のバランスが取れることはないのでいつか破綻するじゃないの?ということですね。


参考 本ハイプ・サイクルの2020~2022年版

ハイプ・サイクル
出典:ガートナー


ハイプ・サイクル
出典:ガートナー


期待度
出典:ガートナー

おわりに

ご存じのように平均気温に代表される気候サイクルの変化は、太陽活動の変化や海流の変化等による自然の要因と人間の(主に経済)活動によるCO2の排出量増加による人為的な要因に分けることができるとされています。


世界の年平均気温偏差
出典:気象庁


この気候サイクル、今後はともかくこれまではレジリエンス(生き物でいえばホメオスタシス)を持っているようで、数千万年のオーダーで見ると高低どちらかに振れるとそれを戻す力が働き循環するサイクルを生み出してきました。


気温偏差
出典:国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センター


となると人為的な要因が大きいとされる現在の急速な気候変化も、やはりレジリエンスによって戻る力が働くのか?働くとしたらそれはどういうメカニズムか?というところはちょっと興味があるところです。
もしかしたら自然による人為的な要因を取り除くような、なんらかのアクションが決着をつけるのかもしれませんね。

ではまた、次回のエントリーでお会いしましょう。


Hiroki Sekihara,
CGEIT, CRISC, CISSP, CCSP, CEH, PMP, CCIE #14607 Emeritus,
AWS Certified Solutions Architect – Professional,
AWS Certified Security – Specialty,
Azure Solutions Architect Expert,
Google Cloud Certified Professional Cloud Security Engineer,
Oracle Cloud Infrastructure 2021 Certified Architect Professional,
Oracle Cloud Platform Identity and Security Management 2021 Certified Specialist,


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関原 弘樹

株式会社インフォメーション・ディベロプメント フェロー / CISSP

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