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ハムザ・アフメッド
今回、ロサンゼルスで開催されたXRイベント「Augmented World Expo(AWE)USA 2025」に参加しまして、そこで語られたXR業界の最新情報をこのレポートにて共有いたします。
Augmented World Expo(AWE)USA 2025概要
XRに特化した世界有数のカンファレンス「Augmented World Expo(AWE)USA 2025」が、今年も開催されました。世界中から5,000人以上が参加し、250を超える出展と450人以上のスピーカーが登壇しました。XR業界は近年、浮き沈みを繰り返していますが、AWEはその動向を映し出す鏡として、引き続き注目されております。
イベントの幕開けを飾ったのは、共同創設者であるオリ・インバー氏による基調講演でした。実物のビリヤード台とARグラスを使ったライブデモでは、球の軌道を視覚的に表示し、実際にその通りにショットを決めることで、AR技術がすでに現実世界で実用段階に入っていることを示してくれました。
また、今年の最大のニュースの一つとして、OpenAIによる「IO社」の買収が発表されました。インバー氏はこれを「AIの次の段階である空間知能(spatial intelligence)」の始まりと位置づけており、デジタルデータの処理に加え、現実世界の理解と対話の重要性が高まっていると強調しました。
2010年に参加したXRスタートアップは16社でしたが、現在も活動を続けているのはLUMUS、Vuzix、Digilensの3社のみとのこと。これらの企業は、変化の激しい業界の中で生き残った実力派と言えるでしょう。
XRがメインストリーム?
AWE 2025のテーマは「XR is Mainstream(XRは主流である)」でした。業界としては、XRが特定の分野を超えて広がりを見せていると考えたいところですが、実際の様子は少し慎重に見極める必要があります。参加者数や出展数は前回よりも増加していたものの、話題の中心は、依然として企業向けのユースケースであり、一般消費者における普及は限定的です。
特に重要なのは、「キラーアプリ」と呼ばれる決定的な体験がまだ存在しないことです。多くの人々が、日常的に使うようなXRアプリケーションは登場しておらず、スマートフォンやSNSのようなレベルにはいたっていません。

現時点で最も導入が進んでいる分野は、訓練やシミュレーションです。工場作業員が機械操作を練習したり、救急隊員が災害時の対応訓練を受けたりと、リスクの少ない環境での高リスク業務の模擬体験が注目されています。
また、「AIはXRが必要(AI Needs XR)」という言葉も多く聞かれました。視覚、空間、生体情報、音声など、多様なデータを取得できるXRはより高度なAIの開発に適しているという見方です。ただし、この流れには資金調達の戦略的意図も感じられ、AIと連携することで投資家の関心を再び呼び込もうとしている側面も否定できません。

ディスプレイのないAIグラス登場
今年の展示で最も興味深かったのは、ディスプレイを持たないAIグラスの登場でした。MetaのRay-Banスマートグラスは、マイクやスピーカー、AIアシスタントを搭載しながら、ファッション性を損なわない点で成功を収めており、2年間で200万台以上が販売されたとのことです。この成功を受けて、Metaは次世代のAIグラス「Project Orion」の開発を進めています。
XRに足りてないもの:クリエイター
XR業界全体の課題として、魅力的なコンテンツの不足が指摘されています。日常的に使用したくなるような体験が不足しており、それが普及の妨げになっていると言えます。生成AIを使ってのツールが増えてきており、これから技術者ではなくアーティストが簡単にXRのためにコンテンツが作られるエコシステムがリリースされ始めています。AWEでも、開発者やクリエイター向けに「AWE Builders Nexus」というプラットフォームも発表されました。これは、ツールやチュートリアルを共有し、XRプロジェクトを発表・連携できる場として期待されています。
注目されたXR活用事例
いくつかの興味深いユースケースも紹介されました。- RC飛行機シミュレーター:模型飛行機の飛行練習が可能なアプリ。事前に体験できることで購入意欲が高まり、ホビー市場に貢献しています。
- XRバンジージャンプシミュレーター:安全な環境でバンジージャンプ体験ができ、恐怖克服にもつながります。
- ARビリヤードアシスタント:基調講演で紹介されたアプリ。角度の分析や視覚的な補助によって精度を向上させます。
業界の現状と今後
XRハードウェアの進化も注目されています。HoloLensのような大型ARヘッドセットは市場から姿を消し、より軽量で実用的な機器が登場しています。現在の市場構成は、企業向けが71%、個人向けが29%となっており、特に企業では安全性・効率性・教育効果の観点から導入が進んでいます。一方で、コンシューマ市場も少しずつ成長しています。米国ではVRの利用率が27%に達しており、主にゲームやフィットネスが人気となっています。また、Z世代の90%以上がショッピング時にARを利用した経験があるという調査結果もあり、今後の可能性を感じさせます。

Mixed Reality(MR)デバイスの台頭も見逃せません。AppleのVision ProやMetaのQuest 3など、没入型と実世界とのパススルー表示を兼ね備えた機器が、新たな基準となりつつあります。
Augmented World Expo(AWE)USA 2025での発表
以下は、AWE 2025で発表された主なトピックです。- AndroidXR:Googleによる新たなプラットフォーム。AR・VR・MRを統合的にサポートしている。

- XREAL Project Aura:70度の視野角を持つARヘッドセットを発表。
- Snap Spectacles(次世代モデル):2026年のリリースが予定されている。
- Samsung Project Moohan:Apple Vision Proに対抗する製品として注目を集めている。
- Snapdragon Spaces:Qualcommが開発環境を一般公開。より多くの開発者が参加可能になる。
- オンデバイスLLM(SLM):Qualcommがインターネット接続なしで動作する小型言語モデルを紹介し、会場でデモを見せた。
- Capcom・KDDI:2025年の大阪・関西万博に向けて新型ヘッドセットを発表。
- NianticとLenovo:企業向けXR市場に本格参入。Metaと連携し、Questシリーズを企業導入へと拡大。
開発ツールとクリエイティブ技術の進化
開発環境も大きく進化しています。- 8th Wall + AI:簡単なプロンプト入力でXRアセットの生成・編集が可能に。
- GoogleとQualcommのリファレンス設計:AndroidXR機器の標準化を目指しています。
- SpatialAI:シンプルな説明文から没入型空間を構築可能。
- Odyssey:触覚や物理的フィードバックに対応したモジュール。
- 4DV.ai:複数の視点から3D映像を撮影し、よりリアルなXR体験を提供します。
導入の壁と突破口
イベントを通じて繰り返された問いが、「それは本当にXRである必要があるのか?」というものでした。従来の画面やマウスで解決できるなら、XRを導入する意義は薄いかもしれません。しかし、XRだからこそ得られる効率性や理解力、没入体験があるなら、それは他に代えがたい存在です。ある航空会社の講演者は、「1つの作業時間を20秒短縮できるだけで、長期的には数百万ドルのコスト削減になる」と語っていました。防衛や航空宇宙のような分野では、XRの導入が現実的な選択肢として評価されています。
特に製造業においては、デジタルツインや現場作業支援など、具体的な導入事例が増えており、今後の成長が期待されています。
今後の展望:見えなくなるXR技術
AWE 2025では、「XR技術はやがて見えなくなる」というビジョンが多く語られました。500gを下回る軽量デバイスの登場により、長時間装着も現実的になりつつあります。これからは、用途ごとに最適化されたデバイスが主流になると予想されます。たとえば、ビジネス向けの軽量ウェアラブル、ゲーミング向けの没入型ヘッドセット、工場現場向けの堅牢な機器などです。
AIの進化により、プロトタイプの即時生成、ユーザーインターフェースの自動最適化、場所・行動・感情に応じたリアクションなどが可能となり、XRはますます身近な存在になっていくでしょう。
最後に
XRが完全にメインストリームになったとはまだ言い切れませんが、着実に前進していることは確かです。MetaのRay-Banスマートグラスの成功や、OpenAIによるXR分野への注目は、今後のブレイクスルーを予感させます。AndroidXRや8th Wallといった開発環境が整い、AIとの連携によってコンテンツ制作のハードルが下がった現在、クリエイターや企業にとって、XRは以前よりも格段に身近な技術となりつつあります。
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