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衛星ネットワークとは -非地上系ネットワークとインフラ変革の波について-

コラムイメージ

サイバー・セキュリティ・ソリューション部
テクニカルスペシャリスト 藤原 和紀顔写真

サイバー・セキュリティ・ソリューション部テクニカルスペシャリストの藤原です。
まもなく2023年も終わろうかとしていますが、本コラムが2023年最後のコラムになります。

衛星通信界隈の動き

今年を振り返ってみると、衛星通信界隈に大きな動きがあった年だった気がしています。何のことかよくわからないと思いますので、主だったところを時系列で書きます。


2022年
Starlink(※1)サービスが日本全国に展開
2023年9月
ソフトバンクとOneWeb(※2)の衛星通信サービスを提供するNetwork Access Associates社は販売契約を締結
2023年9月
iPhone 15シリーズ発売。iPhone14に続き衛星通信機能搭載。(日本未対応)
2023年10月
Amazonが衛星ブロードバンドインターネットの「Project Kuiper」(プロジェクト カイパー)において、試験衛星の打ち上げに成功したと発表
2023年10月
株式会社NTTドコモとNTTコミュニケーションズ株式会社が衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」を2023年内を目途に提供開始(予定)
2023年11月
北朝鮮が軍事偵察衛星を発射
2023年11月
中国航天科技集団が衛星インターネット技術を実証するための衛星を打ち上げ
2023年11月
NTT、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、スカパーJSATはAmazon.comが提供する低軌道衛星ブロードバンドネットワーク「Project Kuiper」との戦略的協業に合意したと発表

※1 Starlinkはご存じイーロン・マスク氏のスペースX社が展開する衛星インターネットサービスで、5000基を超える衛星を既に軌道上に展開し、世界中でサービスを提供可能となっています。但し、実際のサービス提供国はライセンスを取得できている45か国程度と言われています。ウクライナやイスラエルにサービスの無償提供をするなど話題になりました。

※2 OneWeb社はイギリスの会社で618基の衛星を利用し、下り200Mbps、上り50Mbpsのサービスを提供します。但し、主に企業向けを対象としており一般ユーザーは現在対象外です。

Project Kuiper

そしてこの2社に加え、Amazon社の展開するProject Kuiperが名乗りを上げました。Project Kuiperはプロジェクト名でサービス開始時は名称変更となる予定です。
 
まずは10月に試験機2機を打ち上げましたが、2023年12月から衛星の製造を開始し、2024年から本格的に打ち上げを開始。2024年後半にはベータ版のサービス開始を目指すとの事です。
 
今までは個人向けの衛星インターネットサービスはほぼStarlink一択でしたが、来年以降Amazonが競合になり、サービスの向上が期待されます。
 
差別化の一環で、Project Kuiperは可搬型のアンテナを発表しています。Starlinkのアンテナも持ち運びはできますが長辺が約50cm、重量も4kgを超えていましたので、モバイルとは言い難いものでした。

しかし、Amazonのアンテナで最小のものは、約18cm四方で重量が約450g、最大通信速度は100Mbpsとなっており、モバイルと呼んで差し支えなくアウトドア需要を満たすと想定されます。

引用 : 日経クロステック「圏外が無くなる? 3236個の衛星でつながる「Project Kuiper」とは」 

衛星インターネットの概要

ここで簡単に衛星インターネットの概要ですが、人口衛星の軌道高度は地上から200km~1000kmの範囲と、3万6000km付近の2つに大きく分かれます。その間に位置する衛星もありますが、ここでは触れません。
 
前者は低軌道(Low Earth Orbit, LEO)と呼ばれて、この3社が利用する衛星インターネット接続は低軌道衛星で運用されています。
 
後者は静止軌道(Geostationary Earth Orbit, GEO)と言い、衛星の公転周期が地球の自転周期と同じ24時間となり、地表から見て衛星が静止しているように見えます。GEOにはご存じひまわりや放送衛星などの静止衛星があり、約300基が運用されています。


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引用 : JAXA「様々な人工衛星」

衛星インターネットアクセスサービスの歴史

余談ですが、Starlinkがサービス開始する前にも、衛星インターネットアクセスのサービスは複数ありましたが、個人で加入が可能なのはかなり限られたものでした。

MegaWave

今を20年以上さかのぼりますが、NTTサテライトコミュニケーションズという会社がMegaWaveというサービスを展開しており、筆者も利用していました。

SKY PerfecTV!(現スカパー!)の衛星を利用し、下り500kbps~1Mbps程度のインターネット通信を提供するものです。

静止軌道衛星を用いていますので、上りはISDN等の回線を利用し、下りは衛星からの電波を利用するという形態で、遅延も発生するためブラウジングよりもファイルダウンロードやストリーミングに向いている方式でした。受信設備(アンテナ等)はスカパーと共用できるので、別途PCIボードを購入するだけで済むのが利点でした。
 
下り500kbps~1Mbpsというとずいぶん遅く聞こえますが、当時の高速通信と言えばISDNで64kbps~128kbpsという時代でしたので、十分高速に思えたものです。

しかし30Mbpsという帯域をシェアする形でしたので、ユーザーが増えるほどに遅くなっていき、また一部ユーザーが長時間帯域を占有する状態となり、サービス品質が保てずにサービスを終了しました。最終的に30Mbpsの帯域を6000ユーザーでシェアする形となっていましたので止むを得ない判断だったと思われます。
 
1999年6月~2000年9月という短期のサービス提供期間でしたがサービス終了時はキャッシュバックがありましたし、アンテナはそのまま使えたのであまり損はしませんでした。今も我が家には使えなくなったアイ・オー・データの衛星インターネット受信ボードが残っています。

衛星インターネットのメリット・デメリット

話を戻します。では、衛星経由でインターネットに接続するメリットは何でしょうか?
 
確かに静止衛星と違い、低軌道衛星通信では遅延は20~30ms、速度は数100Mbpsと、インターネット通信としては実用的な数字です。

しかし、有線であれば10Gbps(理論値)のサービスがありますし、5Gでも最大20Gbps(理論値)の通信が可能ですので、衛星にこだわる必要は無いように感じます。ここで、衛星インターネットのメリットとデメリットを見てみましょう。

メリット1

山間部でも離島でも空が開けていればインターネットが使えます。

日本の通信会社の国土面積カバー率はせいぜい70%程度と言われています。つまり30%超はエリア外です。
もちろん、国立公園などの理由で基地局が建てられない場合もありますし、バックホール回線を敷設できない環境という事もありえます。バックホール回線とは、基地局とコアネットワークを接続するための回線で、主に光ファイバーが用いられます。

光ファイバー以外ですと富士山がわかりやすいのですが、夏季には山小屋の屋根などに簡易基地局が作られます。しかし、山頂まで電柱を立てるわけにはいきませんので、無線エントランスという有線の代わりに無線で地上の基地局とつなぐという方法をとっています。

この方法は富士山のような見通しの効く高い山では通用しますが、もっと山深いところになるとレピーターなどで何度も中継するしかありません。レピーターも電源が必要ですし、電波減衰も大きなものになります。

そのような場合、バックホール回線にStarlink回線を使うという事業をKDDIが行っています。衛星経由であれば、どんな山奥の基地局でも1回の中継でコアネットワークに接続できます。

さすがに観光客も来ないようなところに基地局は置かないでしようが、その場合でも自分でアンテナを持参すればインターネットが使えるというのは安心ですし、獣害も増加傾向ですので、安全装備と考えるのも必要ではないでしょうか。

メリット2

船や飛行機はどうやってインターネットにつなげているかというと、特に外洋ではインマルサット等の衛星を経由したインターネット接続が行われています。

ですが、静止軌道の衛星を使っていることもあり、速度は10~50Mbpsと低速です。

これを乗員乗客でシェアするため、飛行機でインターネット接続された方はお判りだと思いますが、通信速度は全く期待できません。

そこで、Starlinkは Starlink Aviation(航空機)やStarlink Maritime(船舶)といったサービスを発表しており、実験を進めています。これにより機上や海上での数百Mbpsの高速低遅延な通信が期待されています。

メリット3

地震や水害等の災害において、衛星インフラが影響を受けることがありませんので、災害には非常に強いといえます。(但し、地上局が被災した場合は一時的に影響を受けます。)

実証するように、スペースX社はトンガの火山噴火、ウクライナやイスラエル等の戦地においてインターネット接続サービスを提供し、実際に有用であったとの評価を得ています。


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メリットはほかにもたくさんありますが、デメリットも見てみましょう。

デメリット1

都市部においては、衛星通信はメイン回線としては不向きです。

まずアンテナの設置場所の問題で、アンテナの設置にはアンテナ周囲が開けていて、天頂方向にも開けている必要があります。こうなりますとマンション等の集合住宅では屋上以外に設置場所がありません。基本的には一戸建てや、賃貸であれば屋根や庭にアンテナを立てても良い物件でないと難しいサービスです。

しかも、速度が100Mbps~300Mbps程度しか出ませんので、仮に有線が引けない物件であった場合でも、今では5Gルータ等を選択したほうが賢明といえます。

デメリット2

低軌道を周回する衛星は日光を反射し肉眼で見ることができます。

Stalinkだけでも約5,000基の衛星を運用していますので、一斉に光るさまはStarlinkTrainと呼ばれています。実は、今後Starlinkの予定している衛星数は現在の実に8倍の4万基と言われています。Amazonも今の予定では3236基、もちろんこれ以外にも参入企業はたくさんあります。

将来的に、見上げれば衛星だらけという事態も起きかねない状態で、すでにStarlinkTrainは明るすぎて天文観測に支障をきたすという光害問題が発生しています。

引用 : 熊本日日新聞「月を見ていると「雲から星がどんどん出てきた」 正体はスペースX社の衛星 続々打ち上げ、あなたは見た?」

デメリット3

それぞれの衛星にはスラスターがついており、自身の移動や将来的には意図的に墜落させるなどの措置がとれるようになっています。
 
ただし、特に第三国が打ち上げる衛星など無計画に飛び回っている可能性がありますし、スペースデブリ(宇宙ゴミ)と呼ばれるゴミも無制御に飛び回っています。これらの衝突が発生し、スペースデブリが増加する事が予測されています。
 
また、今後燃料が尽きる、あるいは故障する衛星も現れますが、現在これらを回収する方法は研究中であり、実用化には至っていません。

更には放棄された衛星も増えますが、だれが回収費用を出すのかという問題も生じます。宇宙には国境がなく誰でも使う事が出来ますので、無秩序に衛星やデブリが増える事態が生じます。

HAPS

SDGsに優れた取り組みをご紹介します。

非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)と呼ばれる通信は人工衛星だけではありません。現在、NTTやソフトバンク社がHAPSの2025年度中の早期実用化に向けて実証実験を行っています。

HAPS(高高度基盤ステーション:High Altitude Platform Station)とは、成層圏に配置する通信プラットフォームで、具体的にはソーラーパネルを搭載した無人航空機を地上20kmの成層圏に飛ばし、電波を送受信します。

1機で直径200kmのエリアをカバーし、数カ月間飛び続けることができます。成層圏は気候の影響を受けず、空気抵抗が少ないことから、長期間の飛行が可能になります。また、地震の影響も受けませんので災害時もそのまま活用できます。


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引用 : NTTグループニュースリリース「HAPSを介した携帯端末向け直接通信システムの早期実用化に向けた開発の加速と実用化後の利用拡大を見据えた高速大容量化技術の研究開発を開始」


丁度衛星インターネットと地上局の間に位置するようなサービスですが、衛星より近距離な為、低遅延の通信が可能で、空飛ぶ基地局として現在のスマホがそのまま使えるという利点があります。

また、HAPSは機体を回収し、再利用します。使い捨ての人工衛星と比較するとはるかにエコなシステムです。

HAPSについては、以前当コラムで取り上げられていますので、そちらもご参照ください。

最後に

日本全土がエリアになると、逃げ場がなくなるといった話もありますが、住む場所によるデジタルデバイド(情報格差)問題も無くなると期待されています。遠隔医療やリモート授業で医療格差や教育格差問題も縮小するかもしれません。
 
また、住まいの問題だけではなく、自動運転にも通信が必要です。自動運転は自動車だけではなく、ドローンや重機、トラクター等の農機具、船舶等の自動運転にもつながる技術であり、活用が進むことにより土地活用や人手不足の解消にも役立ちます。

また、何らかの被災をした際の通報や、あるいは行方不明者の捜索に活用できるなどの利点もあります。
通信はそのような未来における重要なインフラです。
 
日本でiPhone3G発売からわずか16年です。iPhone3Gは3Gハイスピード(下り最大3.6Mbps、上り最大384kbp)対応でした。今から考えると通信インフラがいかに成長したかがわかります。

10年後、20年後のインフラを今から楽しみにしたいと思います。
それでは、また次回までしばらくお待ちください。



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藤原 和紀

株式会社インフォメーション・ディベロプメント サイバー・セキュリティ・ソリューション部 テクニカルスペシャリスト

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