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AI
DCM第1部
テクニカルスペシャリスト
上坂 明
AIを業務利用しないシーンはない程、身近なものになりつつあるなと感じる今日この頃。
ChatGPTなどのAIチャットだけではなく、プレゼン資料作成のGammaやGPT for Slidesなど、目的に応じて利用するAIツールも増えつつあります。
この「複数のAIを利用する」という状況。
ChatGPTに依頼すれば自動的に完結する仕組みなら効率的だと感じる方も多いのではないでしょうか。このような複数のAI同士が連携する仕組みは「マルチエージェント(※)」とよばれ、AI同士が連携・補完しあい、もっと便利に動く環境の実現に向けて、注目が集まっています。
※参考コラム:AIエージェントの時代が到来~マルチエージェントの可能性とは
少し前となりますが、マルチエージェント実装に向けて、Googleが「Agent2Agent (A2A) 」という、オープンプロトコルを発表しました。本コラムはこちらについて深掘りしたいと思います。
Agent2Agent (A2A) とは
2025年4月9日、Googleは「Google Cloud Next 2025」において、「Agent2Agent(A2A)プロトコル」を発表しました。このプロトコルは、異なるAIエージェント同士が連携し、複雑なタスクを自律的に実行するための「共通言語」としてのオープンな枠組みを構築するものです。
この発表には、Salesforce、SAP、LangChain等、50社以上のテック企業が賛同を表明しており、その期待の高さが伺えます。

出典:Agent2Agent プロトコル(A2A)を発表:エージェントの相互運用性の新時代
今までのAIエージェントは、それぞれのシステム内で独立して機能することが多く、異なるエージェント間での連携を実現するためには、カスタム開発や機能重複によるムダが生じるという課題がありました。
A2Aプロトコルはこの課題解決のため、AIエージェント間の相互連携を飛躍的に高めることを目標としています。
これにより複数のシステムやサービスにまたがる業務プロセスにおいて、AIエージェントが連携することで、より効率的なタスク遂行が期待されます。
Agent2Agent (A2A) プロトコルの詳細
A2Aプロトコルは、異なるAIエージェント間での円滑な連携を実現するための「共通規格」として、具体的な規則と構成要素を定義しています。構成要素・詳細は以下の通りとなります。1. プロトコルの主要原則と動作原理
- AIエージェントの能力を最大限に活かす:
AIエージェントが個別に記憶やツールを持たなくても、柔軟な方法で協力し合い、複雑な作業を自律的に解決することを目指します。
- 非同期処理:
短時間から長時間にわたるタスクまで対応し。進捗状況はリアルタイムで更新されます。
- 多岐にわたるデータフォーマットに対応:
テキストのみならず、音声や動画など、多様な形式の情報を扱うことが可能です。
- エンタープライズ対応:
企業環境での利用を前提とし、セキュリティ、プライバシー、トレーサビリティが考慮され、認証・認可の仕組みが標準でサポートされています。
- 機能の抽象化:
エージェントは機能を抽象化して提供し、他のエージェントはその機能が「何が出来るか」だけを知れば良く、「どうやってそれを行うか」を共有する必要がありません。AIエージェント毎の独立性を担保します。
- 既存標準の活用:
HTTPやJSON-RPCといった、広く普及している既存のWeb技術を基盤として採用し、導入のハードルを下げる工夫がされています。

2. 主な構成要素
- Agent Card(エージェントカード):
各AIエージェントの機能、通信方法、認証要件などを記述した「自己紹介情報」。そのエージェントができること(機能・得意なこと)、どうやって通信するか、どのような認証が必要か等の情報が記述されており、他のエージェントが連携を始める際にこの情報を参照し、連携するAIエージェントを決定します。
- Task(タスク):
AIエージェントに依頼される「作業の単位」。一意の識別子を持ち、「作業中」や「完了」といったステータスが管理されます。
- Message(メッセージ)とPart(パート):
エージェント間の「コミュニケーション(通信)の最小単位」。メッセージは対話の1ターンを表し、複数のパートを含みます。パートはテキスト、ファイル、構造化データなど様々な形式のコンテンツを内包します。
- Artifact(アーティファクト):
タスクを完了した結果として生成される「成果物」。データファイルやレポート、コードなどが該当します。
3. エージェント間の相互作用プロセス
A2Aプロトコルにおけるエージェント間の相互作用プロセスは、以下の段階を経て進行します。
尚、クライアントエージェントは「お願いする側」を指し、リモートエージェントは「お願いされる側」を指します。
- 発見:
クライアントエージェントは、Agent Cardを通じて連携対象エージェントの情報を取得します。依頼するタスクに応じた最適なリモートエージェントを選択します。
- 認証:
必要に応じて認証情報を提示し、セキュアな通信経路を確立します。
- タスクの開始:
クライアントエージェントは、定義された形式でタスクをリモートエージェントに依頼します。
- タスクの処理:
リモートエージェントは依頼されたタスクを実行します。
- 情報の交換と進捗更新:
タスクの実行中に必要な情報が交換され、進捗状況がリアルタイムで通知されます。
- 結果の生成と返却:
タスク完了後、リモートエージェントは成果物を生成し、クライアントエージェントに返却します。
このようにA2Aプロトコルは、AIエージェントが人間のように、互いの能力を理解し協力し合うための枠組みとなっています。
尚、相互作用プロセスの各段階において、「クライアントエージェント」と「リモートエージェント」は、固定された役割ではなく、タスクごとにその関係性が逆転する可能性もあります。
例えば、あるタスクにおいて「リモート」だったエージェントが、そのタスクの一部を別のエージェントに依頼する際には、「クライアント」エージェントとなります。さらにそのタスクの「リモート」エージェントが別のエージェントに依頼する際には「クライアント」となる。といった階層的な連携が行われます。

出典:Google A2A Protocol Why A2A Matters
A2AとMCPの関係性
A2Aプロトコルとは別に、もう一つ重要な概念が「Model Context Protocol(MCP)」です。この二つのプロトコルは、異なる役割を持ちながらも、互いに補完し合うことで、AIエージェントの能力を最大限に引き出し、より高度な連携を可能にします。
出典:Google A2A Protocol A2A and MCP: Complementary Protocols
・MCP(Model Context Protocol)の役割:
MCPは、個々のAIエージェントが外部のツール、データソース、APIと連携するためのプロトコルで、「外の世界」とどのように対話し、情報を取得・利用するかを定義したものとなります。
例えばデータベースから情報を取得したり、社内アプリケーション等の外部サービスを呼び出したりするなど、自身の能力拡張が可能となります。
・A2A(Agent2Agent Protocol)の役割:
A2Aは異なるAIエージェント同士が直接コミュニケーションを取り、協調してタスクを遂行するためのプロトコルで、「他のエージェント」とどのように対話し、連携するかを定義します。
基盤となるフレームワークやベンダーに関わらず、複数のエージェントが協力・情報共有し、行動を調整することが可能となります。
つまり、MCPが個々のAIエージェントの「社内ツール等との接続能力」を高める縦の繋がりを果たす役割を担う一方で、A2AはAIエージェント同士が「協力し合う」横の繋がりを果たす役割を担っています。これらは競合するプロトコルではなく、相補的な技術なのです。
マルチエージェントのメリット
「マルチエージェントシステム」は個々の専門家が高度な道具を使いこなし、さらにそれらの専門家同士が密に連携することで、全体の生産性が飛躍的に向上する状況に似ています。例えば、自動運転車を例に取ると、人間が車を運転する場合、以下の5つの能力を満たす必要があります。
- 車両操作:
ハンドル、アクセル、ブレーキなどを用いた車の直接的な操作。
- 状況認識:
道路標識、周囲の車、歩行者など、運転環境を正確に把握すること。
- 判断と意思決定:
認識した情報に基づき、次に取るべき最適な行動を決定すること。
- 予測と危険回避:
飛び出しなど将来起こりうる状況や潜在的な危険を予測し、事前に対応すること。
- 他者との連携:
ウインカーなどで意図を伝え、他のドライバーや歩行者と連携すること。
これら要素を単一のAIエージェントがこなす場合、非常に複雑、かつ重複した機能実装が必要で、コストも跳ね上がります。複数のAIが密に連携し単一のシステム(仮想ドライバー)として機能すれば、無駄の無いシステム作りが可能だと考えられています。

チームアプローチの重要性
「マルチエージェント」は、単にAIの数を増加させることによって成立するような概念ではありません。チームで仕事をする場合、単純に「人の数が多いから成果を挙げられる」というものではなく、適材適所に配置しなければ成果はあがりません。このエージェントの能力は、エージェントカードに書かれている得意分野を基に、連携対象とするAIエージェントを見極めて配置必要があります。
また、能力だけではなくチーム間のコミュニケーション能力や競争などといった他の要素もチームワークでは重要となります。AIも「コミュニケーション」、「協力」、「競争」、「学習」といった、人間の相互作用と同じような要素を内包しており、同様のアプローチが有効です。
このようなチームアプローチは以下に示すような課題への対処が期待されています。
1. 複雑な社会課題への対応
社会インフラシステムの最適化(交通・電力供給の最適化 等)、サプライチェーン管理といった複雑で大規模な課題に対して、各専門領域に特化した複数のAIエージェントが連携する「分散型知能」が有効であると考えられています。
2. 経験に基づいて学習するチームの形成
「学ぶ力の強化」は、チーム全体の成長を支える基盤となっています。AIエージェントは、自身の目標達成だけでなく、他のエージェントの行動や意図を考慮し、相互に協力したり競争したりすることで、自律的に学習し、その知能を向上させます。
3. 人間とAIの新たな協働関係
人間とAIがどのように協働するかといった、パートナーシップのあり方を変える可能性もあります。例えば、災害発生時において人間が全体を統括する場合、情報収集はAIドローンが担い、AIロボットが危険な場所での救助活動を行うといった連携により、より安全で効率的な仕組みを構築することが可能となります。
今後の展望
A2Aプロトコルが示唆する「自律的な組織形成」は、AIが単なるツールを超え、「状況適応型のチーム編成」、「自律的な学習組織の構築」、「複雑な問題の階層的解決」、そして「新しい発見の促進」といった、より高度な知的パートナーとなる未来を描いています。
今後の社会とビジネスに多大な影響を及ぼす可能性があるこのプロトコルの動向に、
大いに期待したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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