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5Gネットワークの現状と課題

2023-08-31

ITニュース

コラムイメージ

株式会社IDデータセンターマネジメント
ICTサービス第1部
テクニカルスペシャリスト 上坂 明顔写真

こんにちは。IDデータセンターマネジメントの上坂です。
 
「5G(第5世代移動通信システム)」という単語を目にする機会が減ってきたと感じます。

ChatGPTやStable Diffusionをはじめとする生成AIが注目されたことにより、相対的に話題に上がらなくなったものと推測されますが、5Gに対する興味の薄れが根本にあるのではないかと感じています。今回は5Gの現状について書かせて頂こうと思います。

5Gの普及状況

総務省により公表された2022年度末時点での「日本全国の5Gネットワーク環境の整備状況」によると、全国の5G人口カバー率は96.6%となっています。この数値は総務省が掲げる「デジタル田園都市国家インフラ計画」の目標値(2023年度末:95%)を上回り、1年前倒しで計画を達成し順調です。


【参考①:5Gの整備状況】

5Gの設備状況
出典:総務省5Gの整備状況(令和4年度末)の公表


【参考② 都道府県別の5G人口カバー率 比較】

都道府県別の5G人口カバー率


2021年度と比較すると、高止まりしている東京・大阪・福岡などの首都圏・政令指定都市以外の人口カバー率上昇が目立ちます。特に人口カバー率の低かった岩手県、島根県、高知県は約10%程度上昇し、全都道府県で80%以上の人口カバー率を確保しています。

5Gの通信品質

携帯キャリアの人口カバー率は順調ですが、肝心の中身(通信品質)は5Gとしての通信品質を実感できる段階ではありません。
 
5G通信は最大受信速度が「下り:最大20Gbps、上り:最大10Gbps」、「低遅延通信」、「多数同時接続」を目標として登場した規格です。現在キャリアに割当てられた5G専用の周波数帯はSub6(3.7/4.5GHz)、ミリ波(28GHz)ですが、この目標を実現出来るのはミリ波帯の周波数しかありません。
 
先ほどの高い人口カバー率の内訳を見ると700MHz~3.5GHz帯(プラチナバンド・ミッドバンド)の周波数が最も高い状況です。これは5G向けの規格を既存の4G帯域に適用するNR化(4G帯域の5G転用)であり、人口カバー率を押し上げやすい反面、通信速度は4Gと同等であるため「なんちゃって5G」と揶揄されることもあります。
 

【参考③ 帯域ごとの人口カバー率・5Gのトラヒック状況】

帯域ごとの人口カバー率
出典:総務省 総合通信基盤局 事務局資料


【参考④ 携帯電話用周波数の割当状況】

携帯電話用周波数の割当状況
出典:総務省 デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(案)


Sub6帯の周波数は電波が減衰しやすく、基地局あたりの人口カバーエリアが狭いため、なかなか人口カバー率を上げることは難しい周波数帯となります。Sub6帯での5G展開を優先して進めていたNTTドコモ以外のキャリアは10%程度の人口カバー率に留まっています。
 
尚、NTTドコモはSub6帯での5G展開を優先して進めていましたが、2022年4月以降はNR化による4G電波の転用方針を打ち出しています。
 
5Gカバー率の上昇、および4G契約の減少傾向を背景に方針転換を打ち出したようですが、契約者数の推移を見ると5G契約者数は増えているものの、方針転換後の4G契約者の減少スピードは緩やかな状況となっており、利用トラヒック量も4Gが圧倒的に高い状況です。

実情は想定と異なっているのではないかと思われます。


【参考⑤ 契約者数の推移】

5G契約者数の推移
出典:総務省 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 別紙(令和4年度第4四半期(3月末))


【参考⑥ 携帯電話の周波数帯別のトラヒック状況】

携帯電話の周波数帯別のトラヒック状況
出典:総務省 総合通信基盤局 令和4年度 携帯電話及び全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果の概要


本命のミリ波のカバー率は2022年3月末時点で各社ともに0%台であり、人が集まるイベントやスタジアム等の限定的なスポット活用に留まっています。
 
ミリ波のカバーできる範囲はWi-Fiスポットと同程度と言われています。遮蔽物にも弱いなどの技術的な課題も多く抱えています。加えて指向性のアンテナを備えた専用の基地局を多数配置する必要があるため、無線機のコストも高く簡単には増やせません。

尚、ミリ波対応基地局の整備状況は全体の約3%です。かなり低いように見えますが1位の米国(約15%)に次いで2番目に高い割合となっており、ミリ波帯の扱いにくさが浮き彫りとなっています。
 
また、ミリ波をサポートしている端末の普及状況も問題で、価格が20万を超える一部キャリアのフラッグシップモデルに限られており、世界的に見てもミリ波帯の普及は殆ど進んでいません。日本で高いシェアを誇るiPhoneも日本発売モデルは全てミリ波非対応です。
 

【参考⑦ スマートフォンの対応周波数】

スマートフォンの対応周波数
出典:総務省5Gビジネスに関する諸外国動向及び経済分析等

5G専用ネットワーク(5G SA)

従来の5Gは、4Gのコアネットワーク設備(EPC)と5G基地局を組み合わせた通信するNSA(Non-standalone)方式を利用しているため、4G接続後に5G接続となります。

これに対し、コアネットワーク設備を5G専用のコア装置(5GC)に置き換え、5Gのみで通信する方式を「5G SA」と言います。この方式は4G・5Gの切替えが不要となり、「通信遅延の減少」、「通信の安定」などの効果が期待されます。
 

【参考⑧ NSA・SA方式】
NSA・SA方式
出典:NTTドコモ 5G SA(Standalone)


NTTドコモは2022年8月から。ソフトバンク2023年3月、KDDIは2023年4月よりサービス提供を開始しています。
 
5G SAはアップロード帯域の高速化も特徴ですが、下りの帯域については既存の5G回線と大きな差はありません。サービスエリアはスポットで提供エリアは限られています。利用には対応機種・対応SIMカードの準備が必要で、オプションプランの加入(将来的に有料)も必要となります。こちらも今一つパッとしない印象を受けます。
 
参考までに各社のサービスページへのリンクを記載します。

増加するトラヒックへの対応

1回線あたりの平均データトラヒック量は、毎年1.2倍のペースで増え続けています。トラヒック量が下がることはありえませんので、対策は基地局を増やして高周波数帯にデータトラヒックを逃がすか、利用出来る周波数帯を増やすかの二択です。
 
基地局の整備状況は前述の通りですが、設備投資についても芳しくありません。
 
日本は4Gと5G回線のプランに差を設けておらず、付加価値を付けづらい状況にあります。また、政府主導により携帯電話料金の値下げを行った経緯から料金プランの値上げも難しく、設備投資は鈍化の傾向にあります。

 
【参考⑨  諸外国と比較した料金プラン】

諸外国と比較した料金プラン


諸外国通信サービスの料金プラン
出典:総務省5Gビジネスに関する諸外国動向及び経済分析等


周波数帯については、2023年8月よりKDDIが2.3GHz帯の周波数を5Gとして運用を開始しました。一般向けのサービス開始は2024年度を予定しています。
 
この周波数帯は従来、放送事業者がスポーツ中継や緊急報道番組等で使用する無線局(FPU)で使われている周波数帯で、以前からモバイル通信システムへの導入検討が進められていました。そのまま両者が利用した場合、互いに干渉・混信してしまうため、「ダイナミック周波数共有」と呼ばれる方式で干渉を回避する仕様となっています。
 
ダイナミック周波数共有とはFPUと携帯電話事業者の利用エリアを動的に制御する仕組みで、具体的には該当周波数帯を優先利用する権利をもつ放送事業者が、FPUを使用する時間や場所を周波数管理システムへ事前に登録します。

登録情報をもとにFPUへ影響を与える恐れのある基地局を判定し、携帯電話事業者へ「対象の基地局・停波期間」を通知します。通知を受けた携帯電話事業者は該当基地局の電波を指定された期間停止することで干渉を回避します。
 
この仕組みは、無線Wi-FiのDFS機能に似ていますが、お互いのサービス利用に影響が出ないよう事前調整がなされる点が異なります。
 
停止された基地局のカバーエリアは、5Gによる通信は出来なくなりますが、4G回線でカバーすることで全く通信が出来ないという状況は発生しないと言われています。ミッドバンド帯の周波数となるため、通信速度は大きく変わりませんが、増え続けるトラヒックへの受け皿として期待されています。


【参考⑩ 放送事業者用無線局(FPU)】

放送事業者用無線局(FPU)
出典:総務省 放送事業用無線局(FPU)
参考リンク:KDDIニュースリリース  国内初、ダイナミック周波数共用活用で2.3GHz帯を運用開始

最後に

本来の5Gの用途は、大量のデータを扱い低遅延が求められる「自動運転」や「遠隔医療」を想定されたものですが、今の5Gは「限られた人が特定の場所で限定的にしか使えません。
 
一方、生成AIの火付け役となったChatGPTは、無料公開されたことで利用ハードルが下がり、「誰でも何処でも手軽」に使うことが出来ます。5Gとは正反対の状況です。この差がUX(ユーザー体験)の差を生み、5Gに対する興味の薄れに繋がっているのではないのか考えます。
 
新しい技術は「今までにないUX」をもたらしてこそ価値が生まれます。

5Gを突き詰めると、今までの4Gサービスの拡張であり、ネットワーク通信の革新だけでは新しいUXは生まれません。「5Gで無ければ味わえないコンテンツ」というものが必要です。通信環境の整備も重要ですが、一般向けコンテンツが少ないという問題は、最優先で取り組むべき課題ではないかと思います。
 
最後まで読んで頂きありがとうございました。


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上坂 明

株式会社IDデータセンターマネジメント テクニカルスペシャリスト

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