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NTTのIP網移行と、通信の未来とは

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サイバー・セキュリティ・ソリューション部
テクニカルスペシャリスト 藤原 和紀顔写真

サイバー・セキュリティ・ソリューション部テクニカルスペシャリストの藤原です。
 
2024年1月の能登半島地震でも活躍しました公衆電話ですが、NTT東西が削減を進めており、順調に減少しています。
 
たしかに、もう何年も公衆電話を使っていないという方が多いのではないでしょうか。
公衆電話の使い方が分からない子供たちの為に、雑誌「幼稚園2024年 4・5月号」の付録に公衆電話が付いてくることでも話題になっているようです。
 
※以下のグラフは一般的な第一種公衆電話です。避難所などに設置する災害時用公衆電話(特設公衆電話)は増加しています。

第一種公衆電話の設置台数見込みについて引用元:NTT東日本 (参考)第一種公衆電話の削減方針および設置台数見込みについて

NTT東西による固定電話のIP網移行

そんな中、2024年から公衆電話料金が改定されていたことをご存じでしょうか。


2022年
Starlink(※1)サービスが日本全国に展開
2023年9月
ソフトバンクとOneWeb(※2)の衛星通信サービスを提供するNetwork Access Associates社は販売契約を締結
2023年9月
iPhone 15シリーズ発売。iPhone14に続き衛星通信機能搭載。(日本未対応)
2023年10月
Amazonが衛星ブロードバンドインターネットの「Project Kuiper」(プロジェクト カイパー)において、試験衛星の打ち上げに成功したと発表
2023年10月
株式会社NTTドコモとNTTコミュニケーションズ株式会社が衛星ブロードバンドインターネットサービス「Starlink Business」を2023年内を目途に提供開始(予定)
2023年11月
北朝鮮が軍事偵察衛星を発射
2023年11月
中国航天科技集団が衛星インターネット技術を実証するための衛星を打ち上げ
2023年11月
NTT、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、スカパーJSATはAmazon.comが提供する低軌道衛星ブロードバンドネットワーク「Project Kuiper」との戦略的協業に合意したと発表

長距離料金が無くなり、全国一律料金となりました。
この物価高騰の折、値下げとは有り難いですが、安くなるのは公衆電話だけではありません。固定回線も全国一律料金になりました。これには長年にかけて計画された固定電話(加入電話・INSネット)のIP網移行が実施された為です。
 
IP網移行に伴いINSネットのディジタル通信モードやマイラインなどいくつかのサービスは終了しますが、一般的な加入電話であれば何もしなくても移行が完了しているはずです。

2024年以降の固定電話についての概要引用元:NTT東日本 固定電話(加入電話・INSネット)のIP網移行

IP網移行の背景として、次の様なものがあります。
以下が通信サービスの状況です。移動通信に追い出されるように固定回線は右肩下がりの状況です。この傾向は今後も続くと見られています。

2012年~2022年通信サービス利用状況
引用元:総務省 令和5年版 情報通信白書

NTT東西はこの現状に対応すべく固定電話(加入電話・INSネット)のIP網移行を2024年1月1日から順次開始していました。
おそらく、このコラムをお読みになっているほとんどの方はこのような作業が行われていることを気付いていなかった方も多いと思います。
 
何故なら、自宅でインターネットを必要とする方の大半は光回線に張り替えているか、ホームルータ等の4G、5G通信を使っており、もはや固定回線でインターネットを行っているのは少数派です。音声通信はスマホやIP電話で充分ですので、お金をかけて固定回線契約を残す方は少ないと思われます。

IP網移行の経緯

ではなぜNTT東西はお金をかけて収益が減るIP網移行を行ったのでしょうか。
それは、アナログ回線では、「公衆交換電話網(PSTN: Public Switched Telephone Network, PSTN)」と言う信号交換機が使用されていますが、設備の老朽化などによりNTT東西が2025年頃を耐用年数の限界と定義したからです。
 
IP網移行は2010年以前に計画され、綿密に準備を重ねて、やっと実施されたものでした。
例えばIP網移行の準備として、それまでIP電話はユニバーサルサービスに含まれていませんでしたが、2011年に総務省にて加入電話に相当するIP電話がユニバーサルサービスの対象に追加され、移行の準備が進められています。
 
また、NTT東西は2017年発表された文書の中で、ピーク時6300万件の契約が2016年には2172万件に減少していることから、「固定電話市場は、事業者間の競争を促進するフェーズから、いかにコストをかけずにサービスを維持していくかというフェーズに移行」と発表しています。
 
つまり、このIP網移行はサービス向上等を狙ったものではなく、運用コストを下げるため、ひかり電話等で使用しているIP網を利用して運用する事としたものです。

NTT東西とユニバーサルサービス

NTTは1985年に設立された特殊会社ですが、旧電電公社が民営化したものですので、
設立時に「日本電信電話株式会社等に関する法律」が制定されました。
この法律が通称NTT法と呼ばれるものです。
 
旧電電公社の公共性を保つために電電公社の電話回線網等のインフラの利用や、研究開発内容の公開、外資を3分の1未満にする、外国人取締役の禁止などの規制がある一方で、発行済株式総数の1/3以上を政府が保有する義務も規定されています。
 
インフラの利用では、現在NTT東西には「ユニバーサルサービス」という足かせがあります。
 
ユニバーサルサービスとは国民生活に不可欠な通信サービスである、加入電話、公衆電話、緊急通報等は日本全国で均一の条件でこれを提供することが義務付けられているものとなります。このおかげで我々は全国津々浦々、同一の料金で電話が利用できています。
 
電電公社時代は都市部の利益を使ってユニバーサルサービスを提供しましたが、NTTの時代となると電話も自由化が開始しました。
 
しかし、設備はNTT東西が管理しますが、多くの人がNTT以外の電話会社を利用するようになるとユニバーサルサービスの提供が難しくなります。そこで不採算地域でのこれらサービス維持のためのコストを各電話会社で応分に負担するため、2006年よりユニバーサルサービス制度が創設されました。
 
ユニバーサルサービス料は各電話番号に割り当てられていますので、固定電話以外にもスマホ等の利用料に含まれており、現在は2円/月が徴収されています。
NTT東西に支払われる金額は2023年度で66億円でした。ではこのお金を使えばユニバーサルサービスは盤石かというとそうとも言えません。
 
ユニバーサルサービス料の算出根拠により、補填されるのは「著しく高コストの地域で、上位4.9%の高コスト加入者回線が属する地域」と「第一種公衆電話」のみに限られていますので、これでは補填されるのは赤字の一部にしかすぎません。
 
この為、NTT東西は加入電話に対するユニバーサルサービスおいて、「ユニバーサルサービス義務は、音声・データ通信を固定・無線・衛星等を用いて、各地域に最も適した方法で最も適した事業主体が担うべき。」と異議を唱えています。
 
たしかに、東西の固定電話は約1,350万契約に対して、モバイル通信は約2.1億契約となっていますので、もはや固定電話だけにユニバーサルサービスを科すというのは時代遅れに感じます。

ブロードバンドの現状と今後

一方、FTTH(Fiber To The Home)等の非メタル系回線についても、既にメタル系固定回線の倍以上の契約となっています。
 
皆さんは「光の道」構想というのをご存じでしょうか。2009年10月に総務省が「ICTタスクフォース政策決定プラットフォーム」を発足し、2015年迄にすべての世帯でブロードバンドを利用可能にするという構想を立ち上げ、その中で光ケーブルをユニバーサルサービス化することも検討されていました。
 
結論はもう皆さんご存じのように、反対意見もありこの構想は実現しませんでした。
この為、FTTHは地方を中心に接続できない世帯が残っています。

 全国の光ファイバ整備率
引用元:総務省 令和5年版 情報通信白書
 
ただし、有線のブロードバンド回線はテレワークなどの影響もあり伸びてはいますが、移動系と比較すると伸びの勢いがありません。

固定系ブロードバンドと移動系超高速ブロードバンドの比較 引用元:総務省 令和5年版 情報通信白書
 
加えて、総務省の資料によると5Gのエリアが順調に増え、70%以下の県が無くなったと報告されています。

5G人口カバー率引用元:総務省 令和5年版 情報通信白書
 
ここでいう5Gは「なんちゃって5G」を含むので、FTTHがすぐに置き換えられるものではありません。
 
しかし今後の5G・6Gの普及状況や、前回このコラムでお伝えしたNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)によるカバレッジ向上次第によっては、将来的に民生用固定系ブロードバンドも縮小する可能性は高いと言えるでしょう。
 
参考:衛星ネットワークとは -非地上系ネットワークとインフラ変革の波について-

最後に

最後になりますが、2024年3月1日にNTT法の改正案が、閣議決定されました。
NTT法の廃止自体については、「廃止を含めて検討」と曖昧なままとなり、今回の改正案では、研究成果の開示義務の撤廃や、NTT、NTT東日本、NTT西日本の社名の変更を可能にすること、外国人役員の規制の緩和となっています。
 
ユニバーサルサービスについては反対意見も多いことから対象とはなりませんでしたが、NTT法は通信業界への影響が大きく、場合によっては日本の安全保障の問題にもなります。今後もNTT法の今後の成り行きを見守りたいと思います。
 
それでは、また次回までしばらくお待ちください。



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藤原 和紀

株式会社インフォメーション・ディベロプメント サイバー・セキュリティ・ソリューション部 テクニカルスペシャリスト

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