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システムマネジメント事業本部 DCM第6部
テクニカルスペシャリスト
水谷 知彦
今回のコラムでは、最近IT業界やセキュリティ分野で大きな話題となっているAI「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」についてご紹介します。
最近では、生成AIを業務で利用する企業も急速に増え、メール作成や議事録要約、翻訳、プログラム支援など、AIは私たちの仕事に欠かせない存在になりつつあります。
その一方で、AIの進化によって新たな課題も見えてきています。
2026年、世界中のIT業界やセキュリティ関係者に衝撃を与えたのが、米Anthropic社が開発した「Claude Mythos」です。
このAIが大きな注目を集めた理由は、「性能が高すぎるため、一般公開が制限された」という点にあります。Anthropicは、Claude Mythosが未知の脆弱性を自律的に発見し、場合によっては悪用コードまで生成できる高度な能力を持つとして、通常のAIサービスのような広範囲への提供を見送る判断を行いました。
AIは、これまで「便利なツール」として語られることが多くありました。
しかしClaude Mythosの登場は、AIが「社会インフラやセキュリティの在り方そのものに影響を与える存在」へ変わりつつあることを示しています。
今回は、ITに詳しくない方にも分かりやすく、Claude Mythosとは何なのか、なぜ世界が警戒しているのか、そして日本ではどのような対応が始まっているのかについて解説したいと思います。
Claude Mythosとは何か
Claude Mythosは、Anthropic社が開発した次世代AIモデルです。Anthropicは、ChatGPTで知られるOpenAIの競合企業の一つであり、「安全性を重視したAI開発」を掲げる企業として知られています。
Claude Mythosが特に注目されたのは、「サイバーセキュリティ分野」で極めて高い能力を示したからです。
具体的には、このAIが、
- ソフトウェアの欠陥を探す
- システムの弱点を分析する
- 攻撃方法を考える
- 実際の侵入コードを作る
Anthropicは、主要OSやブラウザに存在する未発見の脆弱性を大量に発見できたと説明しており、一部では「人間の専門家を超える速度で発見した」とも報じられています。
従来のAIもプログラム作成は可能でしたが、Claude Mythosは単なる「コード補助」ではなく、「攻撃シナリオ全体を考えられる」レベルに近づいている点が大きな違いです。
もちろん、こうした技術は本来、システム防御や脆弱性対策の強化にも活用できます。
しかし同時に、悪意ある利用への懸念も高まっています。

なぜ世界が警戒しているのか
ここで重要なのは、「AIが悪意を持つ」という話ではありません。問題は、「悪意を持つ人間が、非常に強力なAIを利用できるようになること」です。
これまで高度なサイバー攻撃を実行するには、長年の知識と経験が必要でした。
しかし、もしAIが、
- 脆弱性を見つけ
- 攻撃コードを作り
- 攻撃手順まで提案する
これは例えるなら、「専門家しか扱えなかった危険な技術」が、誰でも使える状態になるようなものです。
Anthropic自身も、このリスクを非常に重く見ています。
Claude Mythosは「Project Glasswing」という限定的な枠組みの中でのみ利用され、Apple、Google、Microsoftなど限られた組織が、防御目的で利用するとされています。
つまりAnthropicは、「これは従来のAIサービスとは性質が異なる」と判断したわけです。

AIは“攻撃側”を強くしてしまうのか
サイバーセキュリティの世界では、長年「防御側が不利」と言われてきました。防御側はシステム全体を守らなければなりません。
しかし攻撃側は、1か所でも弱点を見つければ侵入できます。
そこへAIが加わることで、この状況がさらに大きく変わろうとしています。
AIは人間よりも圧倒的な速度で、
- ソースコードを読む
- ログを解析する
- 脆弱性候補を洗い出す
つまり、これまで数週間、数か月かかっていた調査を、短時間で実施できる可能性があるのです。
実際、Anthropicは「セキュリティ専門教育を受けていない技術者でも、Claude Mythosを使うことで脆弱性発見が可能だった」と説明しています。
これは非常に大きな意味を持ちます。
なぜなら、「高度な攻撃技術の民主化」が起き得ることを示しているからです。
日本でも始まった警戒と対応
この問題は、海外だけの話ではありません。日本でも金融業界を中心に、Claude Mythosへの警戒が急速に高まっています。
2026年4月には、金融庁、日本銀行、メガバンク各社などが参加する緊急会合が開催され、金融システムへの影響について議論されました。
日本の金融システムには、長年使われているレガシーシステムが数多く存在します。
こうした古いシステムは、
- 修正が難しい
- システム構成が複雑化している
- 全体構造を把握しづらい
もしAIが高速で脆弱性を発見できるようになれば、従来の「人間が順番に確認していく防御」だけでは追いつかなくなる可能性があります。
金融庁関係者からは、「今そこにある危機」という強い表現も聞かれています。
また、日本では経済産業省や総務省を中心に、AI安全性やAIガバナンスの議論も進められています。
これまでのAI活用議論は、
- 業務効率化
- 人手不足解消
- DX推進
しかし今後は、
- AIの悪用対策
- AIによる攻撃への備え
- AI利用時の責任範囲
- AI安全基準
実際、多くの企業ではすでに、
- AI利用ガイドライン整
- 社内データ持ち出し制御
- AI利用ログ監査
- ゼロトラスト強化
- 従業員向けAIリテラシー教育
AIを「導入するかどうか」の段階から、「どう安全に使いこなすか」の段階へ、企業の課題も変わり始めているのです。

重要なのは「AIを止めること」ではない
ここで誤解してはいけないのは、「AIは危険だから使わない方が良い」という話ではないことです。実際には、AIは防御側にも大きな力を与えます。
- 異常検知
- 不正アクセス分析
- ログ解析
- 脆弱性診断
- インシデント対応
つまり今後は、「AI対AI」の時代になる可能性があります。
攻撃側もAIを使う。
防御側もAIを使う。
その中で重要になるのは、「安全にAIを活用できる組織」を構築できるかどうかです。
Claude Mythosの登場は、単なる新しいAIモデルの話ではありません。
それは、「AI社会の新しいリスクと向き合う時代が始まった」という象徴的な出来事なのかもしれません。
AI技術の進化は、今後さらに加速していくでしょう。
だからこそ私たちは、「便利だから使う」だけではなく、「どう安全に活用するか」を考える段階に入っています。
技術とリスクの両面を理解しながらAIと共存する力こそ、これからの企業や社会に求められていくのではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた次のコラムでお会いしましょう。
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