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IBM Think 2026 イベントレポート

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IDアメリカ
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こんにちは、IDアメリカのハムザ・アフメッドです。

1911年に創業したIBMは、初期のコンピューティング時代から現代のデジタル時代まで生き残ってきた、数少ないテクノロジー企業の一つです。その出発点は、現在のクラウドやAI事業とは大きく異なっており、IBMの前身企業は、勤怠管理用のタイムレコーダー、パンチカードシステム、秤、さらには肉やチーズを切るスライサーまで、幅広い製品を扱っていました。

それから100年以上にわたり、IBMはコンピューティングの主要な時代をほぼすべて経験してきました。パンチカード、メインフレーム、エンタープライズソフトウェア、クラウドコンピューティング、量子コンピューティング、そして現在の人工知能へと、その事業領域を変化させながら歩み続けてきたのです。

もちろん、IBMの歴史は順風満帆だったわけではありません。しかし、業界の主役が次々と新しい企業に置き換わるテクノロジーの世界において、IBMが今なお存在感を保っている理由は、その時代ごとの変化に適応してきた力にあります。

今年のIBM Thinkでも、その適応力は改めて示されました。IBMはAIを単独の製品として打ち出すのではなく、ハイブリッドクラウド、メインフレーム、リアルタイムデータ、デジタル主権、AIエージェントなどを含む、より広範なエンタープライズ技術基盤の一部として位置づけていました。

その意味で、IBM Thinkは単なるAIイベントではありませんでした。むしろ、IBMが考える次世代のエンタープライズITの姿を示す場だったと言えます。既存システムにAIをどのように組み込み、安全にガバナンスし、リアルタイムデータと接続し、複雑なハイブリッド環境全体に展開していくのか。今回のイベントは、そうした企業ITの次の段階に対するIBMの明確なメッセージでもありました。

IBM Think 2026



IBMは毎年、世界中のパートナー、顧客、業界関係者を対象とした旗艦イベント「IBM Think」を開催しています。同イベントは過去3年間ボストンで開催されてきましたが、今年は参加者数の増加に伴い、より大きな会場へと移して開催されており、その規模の拡大が印象的でした。

IBM Think 2026では、基調講演、製品発表、パートナーとのディスカッション、デモンストレーション、そして参加型の展示などを通じて、IBMの最新技術と今後の戦略が示されました。

本レポートでは、IBM Think 2026で発表された主要な内容を振り返るとともに、その背後にある大きなメッセージを考察します。IBMがどこに投資し、AI時代において自社をどのように位置づけ、エンタープライズITの未来をどの方向に見ているのかを読み解いていきます。

Agentic AI時代へ向かうIBM

IBMの際立った強みの一つは、エンタープライズ技術における大きな変化に合わせて、自らの立ち位置を再定義してきた点にあります。

Agentic AIがテクノロジー業界の中心的テーマの一つになりつつある今、IBMはその流れの中核に自らを位置づけようとしていることが明確に見えます。

Bobの登場

IBM Think 2026でその戦略を最も象徴していた存在の一つが、AIを活用したソフトウェア開発エージェント「Bob」でした。会場では、Bobは親しみやすいロボットのアイコンとして表現されており、エンタープライズ向けの製品でありながら、利用者に近い存在として印象づけられていました。


一見すると、Bobは新しいAIコーディングアシスタントの一つに見えるかもしれません。しかし、IBMの位置づけは単なるコード生成にとどまりません。Bobは、コード生成、テスト、モダナイゼーション、ドキュメント作成、デプロイメントまでを支援する、エンド・ツー・エンドのソフトウェア開発ソリューションとして開発されています。

ClaudeやGitHub Copilotのような他のAIコーディングツールも、開発ワークフローの一部を支援できます。しかしIBMは、複雑でレガシーシステムを多く抱える大企業のニーズに、より強く焦点を当てているように見えます。

IBMによると、BobはすでにIBM社内の約8万人の従業員に利用されているとのことで、これは、IBMがBobを単なる外部向け製品として紹介しているだけでなく、自社内でも大規模に活用していることを示しています。他のAIエージェントと同様に、Bobの主な目的は生産性の向上です。しかしIBMの差別化ポイントは、ソフトウェア開発がモダンなクラウドネイティブアプリケーションだけで完結しない、現実のエンタープライズ環境に焦点を当てている点にあります。

Bobが特に価値を発揮するのは、COBOLやRPGのような古い言語で構築されたレガシーシステムを支援できる点です。これは、銀行、保険会社、政府機関、大企業など、何十年も前に構築されたシステムを今も重要業務に利用しているIBMの主要顧客層にとって非常に重要です。熟練したメインフレームエンジニアが引退していく中、多くの組織ではスキルギャップが拡大しています。Bobは、現代の開発者がこうしたシステムを理解し、保守し、全面的に置き換えることなく段階的にモダナイズしていくための支援策として位置づけられています。

その意味で、Bobは単なるIBM版のコーディングAIではありません。むしろ、多くの新興AI企業が直接扱っていないレガシー領域も含めて、大企業のソフトウェア開発ライフサイクルにAgentic AIを組み込むための、IBMのより広い戦略の一部だと言えます。

Sovereign Core:データ所在地を超えた「統制」の重要性

Think 2026における主要発表の一つが、「IBM Sovereign Core」の一般提供開始でした。実務的に言えば、Sovereign Coreは、クラウド、AI、機密性の高いワークロードを運用する組織が、データ、アクセス制御、運用、暗号鍵、IDシステム、ガバナンスを自らの管理下に置いていることを証明するためのプラットフォームです。



これは、政府、銀行、医療機関、防衛機関、通信会社など、厳格な規制や国家主権に関わる要件の下で事業を行う大規模組織にとって特に重要です。こうした組織は、次のような問いに答えられなければなりません。

  • 自社のデータはどこに保存されているのか
  • コントロールプレーンには誰がアクセスできるのか
  • 海外のクラウド事業者の管理者がこのシステムに触れることはできるのか
  • 暗号鍵は自社の管理下にあるのか
  • 規制当局に対してコンプライアンスを証明できるのか
  • 機密データを外部クラウドに送ることなく、AIモデルを動かせるのか

従来の「ソブリンクラウド」は、データを特定の国や地域内に保持するデータレジデンシーに焦点を当てることが多くありました。Sovereign Coreは、それを一歩進め、運用上の統制に焦点を当てています。重要なのは、データがどこにあるかだけではありません。インフラ、ID、認証、認可、暗号鍵、ポリシー、ワークフロー、そしてAI実行環境を誰が管理しているのかが問われているのです。

この意味で、Sovereign Coreは、AIが機密性の高い企業システムや政府システムに近づくにつれて、デジタル主権の重要性がさらに高まっていることを示しています。

Confluent:企業データをリアルタイムの文脈へ変える

IBMはまた、Confluentの買収と統合についても強調しました。IBMは2026年に約110億ドルでConfluentの買収を完了しています。Confluentはリアルタイムデータストリーミングを専門とする企業であり、重要なビジネスイベントを、その発生と同時に、必要とするシステムへ届けることを可能にします。

ここでいう「ビジネスイベント」とは、決済、ログイン試行、配送状況の更新、カスタマーサポートのチケット、セキュリティアラート、在庫変動、機械センサーの読み取り、詐欺検知シグナルなどを指します。従来の多くの企業環境では、こうした情報は一度収集・保存され、その後にバッチ処理や手作業のデータパイプラインを通じて分析されてきました。

Confluentは、このデータ処理の流れをリアルタイム化します。イベントをその発生と同時にストリーミングすることで、アプリケーション、分析基盤、AIエージェントが、最新の文脈に基づいて反応できるようになります。

これは、企業がすでに大量のデータを持っている一方で、それを効果的に活用できていないという現実に対する答えでもあります。企業環境でAIエージェントを有効に機能させるには、タイムリーで関連性が高く、かつガバナンスされたデータへのアクセスが必要です。Confluentにより、IBMは単なるAIプロバイダーではなく、企業内を流れるライブデータとAIを接続する企業として自らを位置づけることができます。

IBM Z:メインフレームにAIを近づける

Think 2026でもう一つ重要なテーマとなっていたのが、IBM Zの継続的な重要性です。多くの人にとって、メインフレームは過去のコンピューティング時代の遺物のように感じられるかもしれません。実際に目にしたことがある人は少なく、「メインフレーム」という言葉自体も古めかしく聞こえるかもしれません。

しかし、メインフレームは現在も、銀行、保険、政府、航空、小売などの分野で極めて重要な役割を担っています。決済処理、記録管理、保険金請求、基幹業務など、多くの大規模組織の中核的な取引システムは、今なおIBM Z上で動いています。

課題は、こうしたシステムが非常に価値の高いデータを持っている一方で、それを現代のAIツールと接続しようとすると、セキュリティ、レイテンシー、コンプライアンス、データ移動に関するリスクが生じる点です。

IBMがThink 2026で示したメッセージは、メインフレームのモダナイゼーションとは、必ずしもすべてをメインフレームの外へ移すことではない、というものでした。むしろIBMは、AIをメインフレーム環境そのものに近づけようとしています。

機密データを外部クラウドや別のAI基盤へコピーするのではなく、IBMはIBM Zを、レガシーアプリケーションのモダナイゼーション、データベース運用、取引量の多いエンタープライズワークロードを、メインフレームがもともと備えている高度な統制の下でAIが支援できる場所として位置づけています。

量子コンピューティング

IBMはまた、量子コンピューティングにおけるリーダーシップも引き続き強調していました。同社は、量子コンピューティングを研究段階の概念から、より広範な実験や実用化に近づける上で、主要な役割を果たしてきた企業の一つです。

IBMは、クラウドを通じて量子コンピューターを一般に公開した最初期の企業の一つでもあります。これにより、研究者、学生、企業が実際に量子コンピューティングを試し、その技術を活用しながら、関連研究の蓄積に貢献できるようになりました。

今回のイベントでは、IBMは量子エコシステムの継続的な発展を強調しました。その中には、Qiskitのようなオープンソースの量子プログラミングツールへの対応も含まれています。また、医療、学術、先端研究などの分野で量子コンピューティングを探索している組織の事例も紹介され、日本のパートナーの存在も取り上げられていました。

特に印象的だったのは、病院の顧客による事例紹介です。従来のコンピューティング環境では非常に長い時間を要していた数千もの分子間相互作用の解析において、IBMの量子関連技術を活用することで処理速度を100倍に高めることができたと紹介されていました。

IBMと日本

IBM Think 2026では、日本の存在感も目立っていました。日本からは約250人が参加しており、開催時期がゴールデンウィーク中だったことを考えると、その参加規模は特に注目に値します。IBMは日本のパートナーや顧客向けに複数のネットワーキング機会も用意しており、同社のグローバルビジネスにおける日本市場の重要性がうかがえました。

日本は長年にわたり、米国外におけるIBMの重要市場の一つであり続けています。IBMは何十年にもわたって日本で事業を展開し、日本企業、研究機関、公共部門の組織と強固な関係を築いてきました。

また、日本はIBMの量子コンピューティング戦略においても重要な役割を担っています。IBMの量子システムの導入や、日本の大学・企業との連携は、その象徴的な事例と言えるでしょう。

最後に

前年と比べると、IBM Think 2026はより力強く、焦点の定まったイベントだったように感じられました。特に印象的だったのは、IBMがエンタープライズAIの次の段階に向けて、自社の立ち位置を非常に明確に示していた点です。

IBMは、目立ちやすいAIトレンドだけを追いかけていたわけではありません。むしろ、AIをエンタープライズITのより深い層、すなわちインフラ、データ、ガバナンス、メインフレーム、ソフトウェア開発、運用、そして量子コンピューティングと結びつけていました。

レガシーシステムと強く結びついた企業が、ここまで積極的に新興技術へ向かっていることは、ある意味で驚きでもあります。しかし同時に、それこそがIBMが100年以上にわたって生き残ってきた理由なのかもしれません。

IBMはこれまでも、技術の大きな転換期に合わせて自らを変化させてきました。その変化は決して簡単なものではなかったはずです。それでも同社は、時代ごとの新しい技術環境に適応し続けてきました。

私たちがこれから新しいデジタル時代を進んでいく上で、そこには一つの学ぶべき姿勢があるように感じます。



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