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AIを全社に浸透させる4つの実践ステップ

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松尾 大輔 matsuoka2_274x380

AIスマートソリューション部 テクニカルスペシャリスト 松尾 大輔

こんにちは。AIスマートソリューション部テクニカルスペシャリストの松尾です。早いもので2026年も半分が過ぎてしまいました。今年は、AIエージェントがバズワードとなり、各種セミナーやカンファレンスを中心に、AIエージェントをテーマにした講演が数多く開催されています。このような背景から、AIエージェントをはじめとした生成AIの全社活用を、本格的に検討されている企業も多いのではないでしょうか。

しかし、いざ取り組んでみると「ツールを契約して全社員に配ったのに、活用されていない」、「最初は盛り上がったが、いつの間にか一部の社員しか使わなくなった」といった声を、よく耳にします。AIの全社導入でつまずくポイントは、ツールそのものの性能ではなく、それを組織にどう定着させるかという「進め方」にあることがほとんどです。

そこで今回のコラムでは、AIを全社導入し、実際に使われる状態まで持っていくための実践的なステップを、IDグループでの取り組みも交えながら紹介します。これからAI活用を全社展開したいと考えている皆様の参考になれば幸いです。

※補足
本コラムでは、AIエージェントの具体的な実装方法をはじめとした、技術的な内容は解説していません。

なぜ「導入」で終わってしまうのか

まず押さえておきたいのが、「AIを導入すること」と「AIが活用されること」は、まったく別物だということです。

多くの企業で起きているのは、次のような流れではないでしょうか。経営層が「我が社もAIを」と号令をかけ、情報システム部門が急いでツールを選定・契約し、全社員にアカウントを配布します。ここまでは順調に進みます。ところが、いざ配ってみると、一部の熱心な社員は使いこなす一方で、大半の社員は「何に使えばいいのか分からない」、「今の仕事のやり方で困っていない」と、結局これまで通りの業務を続けてしまうのです。

この状態は、「導入はしたが活用されていない」状態と言えます。原因は、AIを「配れば勝手に使われる道具」だと捉えてしまっている点にあります。実際には、AIの全社活用は業務改革であり、社員の意識改革であり、組織のカルチャーづくりです。ツールの配布はスタートラインに過ぎません。

本コラムでは、この「配って終わり」を避けるために、重要だと考える4つの取り組み、すなわち「推進組織の立ち上げ」、「ツールの選定」、「AIを先行導入する部署の選定、および業務の可視化」、「AI活用を定着させるための施策」を、順に紹介していきます。

AI推進組織の立ち上げ

全社導入で最初に着手すべきなのは、ツールの選定ではなく、旗振り役となるAI推進組織の立ち上げです。誰かが片手間で進めるのではなく、全社横断で活用を推進する責任と権限を持ったチームを明確に置くことが、成否を大きく左右します。これを情報システム部門が担っても構いませんが、全社的な取り組みであること、および経営課題として重要視していることを社員に認識してもらうには、社長や取締役、CIO等の経営層がトップとなって、全社横断的な組織として立ち上げることが重要になります。ちなみに、IDグループの場合は、取締役を委員長にしたAI推進委員会という組織を立ち上げています。

トップダウンとボトムアップの両輪で進める

AI活用の推進は、経営層の後ろ盾(トップダウン)と、現場の熱量(ボトムアップ)の両輪がそろって初めて回り始めます。

  • トップダウン:経営層が「AIを活用する」という明確な方針とメッセージを発信し、予算・時間・評価制度の面から後押しします。現場が安心してAIを試せる環境は、経営の意思表示があって初めて生まれます。
  • ボトムアップ:各部署から意欲のあるメンバーを「推進担当(アンバサダー)」として巻き込み、現場ならではの業務課題やアイデアを吸い上げ、成功体験を共有することがカルチャーづくりには重要となります。

推進組織は、この両者をつなぐハブとして機能します。

推進組織の役割

推進組織が担う主な役割は、おおむね次の通りです。カバーする部分が多岐にわたるので、AI部門だけでなく、情報システム、法務、教育等、それぞれの専門分野の社員を、推進組織のメンバーにアサインする必要があります。

  • 全社のAI活用方針・利用ガイドライン(セキュリティルールを含む)の策定
  • 導入するAIツールの選定と管理
  • AIを先行導入する部署の選定、および業務の可視化・活用テーマの洗い出しサポート
  • 情報発信やナレッジ共有の仕組みづくり
  • AI活用のモチベーションを上げるためのイベント企画・運営(勉強会・コンテスト等)
  • AI活用状況のモニタリング・課題の洗い出しや検討

採用するAIツール

AI推進組織が立ち上がったら、社内標準とするAIツールを選定します。世の中には多種多様なAIツールがありますが、全社導入においては、次のような観点で検討します。

ツール選定の観点

  • セキュリティ・コンプライアンス:入力した社内情報が外部の学習に使われないか、契約・管理はエンタープライズ向けに整備されているか。全社導入では最優先の観点です。
  • 使いやすさ(現場の学習コスト):ITに不慣れな社員でも直感的に使えるか。UIの分かりやすさは利用率に直結します。
  • コスト:ライセンス費用が利用人数に見合うか。全社員に配るのか、まず一部から始めるのか。
  • 既存の業務環境との親和性:普段使っているツールの中で、追加の操作を覚えずに使えるか。

「既存環境の延長」で使えるものを優先する

特に重視したいのが、最後の既存の業務環境との親和性です。これは現在の業務で使用しているツール群の延長としてAIを利用できるということを表します。例えば、社内のオフィスツールがMicrosoft 365の場合は、Microsoft 365 Copilotを選定し、Google Workspaceの場合は、GeminiやGemini Enterpriseを選定するということです。これは、どれほど高機能なツールでも、アプリとしての使い方を一から覚える必要があると、それだけで利用のハードルが上がるためです。

Microsoft 365を例にした場合、AIを利用する人(つまり全社員)とAIを管理する人(情報システム部門)、それぞれの視点でのメリットは以下の通りとなります。

  • AIを利用する人
    まずは簡単なチャット(Microsoft 365 Copilot Chat)でAIを試してもらって、それでは物足りない、あるいは効率化には機能が不足すると感じれば、Copilot in WordやCopilot in Excel等の機能を使用します。この時点では、社員は「新しいツールを覚える」というより「いつもの画面にAIが加わった」という感覚で使い始めることができます。ただ、このままでは、個人のタスクの効率化に留まってしまいますので、チームや部署での業務改善を行うには、Copilot StudioやPower Automate等も用いることになります。このように簡単なツールからスタートして、徐々に複雑な機能にステップアップするといったことを、日々の業務とシームレスに行うことができます。

  • AIを管理する人
    Microsoft Purviewを使用することにより、既存の社内システムと同様に、AIのガバナンスを管理することができます。どの情報をAIに触れさせるかといったデータガバナンスをはじめ、誰がどのようにAIを使用しているかといった監査ログも取得することができます。さらにAgent 365を導入すれば、シャドーAIも検知することが可能となります。AIを導入しても現状と変わらずに、情報システム管理を行える点が大きなメリットとなります。

このように、全社導入では「最も高機能なツール」よりも「今の働き方に自然に溶け込むツール」を選ぶ方が、結果として活用が広がりやすい、というのが私の見解です。

AIを先行導入する部署の選定、および業務の可視化

会社の規模にもよりますが、特にAIエージェントの場合は、特定部署からスモールスタートして、成功体験を積み重ねてから全社展開する方がいいと思います。AIエージェント導入においては、「想定よりも効率化できていない」、「実用的な精度が出ない」といった、PoCを行ってみて初めて表面化する課題があるからです。どの部署をターゲットにするかについては、AI導入後の業務を他の様々な部署に水平展開しやすいという観点から、コーポレート部門を有力候補として挙げるといいでしょう。

業務の棚卸しでAIの「効きどころ」を探す

AIエージェントの機能に着目していきなり作り始めると、「これすごいけど、結局どこで使えるんだっけ?」となり、誰からも使ってもらえないAIエージェントが量産されることになります。それを防ぐためには業務の棚卸しが大事になります。

まずは各部署で日常的に行っている業務を洗い出し、一覧化します。その上で、それぞれの業務を「どれくらいの時間がかかっているか」、「どれくらいの頻度で発生するか」、「AIで代替・支援できそうか」といった観点で整理してAIエージェント化の優先順位を決めます。

次に、洗い出した業務のうち、優先順位の高いものから順に、現在の業務フロー図(As-is)とAIエージェント化後の業務フロー図(To-be)を作成していきます。To-beの業務フローは、AIを適用できるかは気にせず理想形で作成します。どこにAIを適用できそうかについては、以下の部分を中心に考えます。

  • 文章の作成・要約・翻訳(メール、議事録、報告書、マニュアル等)
  • 情報の検索・調査(社内文書やナレッジからの回答)
  • 定型的な資料作成・データ整理

実際に可視化すると、「時間がかかっているこの部分が、AIで大幅に効率化できそう」、「AIではなくて、RPA等の自動化で対応できそう」、「この部分で人間のチェックが必要」等、色々なことに気づくことができます。

可視化そのものにもAIを活用してみる

可視化(業務フロー作成)は、各社標準の方法で行っていただいて問題ありません。業務フローの国際標準である、ビジネスプロセスモデリング表記法(Business Process Model and Notation, BPMN)に従って作成してもいいと思います。

ビジネスプロセスモデリング表記法(Wikipedia)

IDグループのAI推進委員会の場合は、業務フローの文言は人間が考えて、それをMicrosoft 365 Copilotを用いてMermaidのシーケンス図(スイムレーン形式の図)に出力するということを試してみました。作成時間を節約できる上に、業務フローを書き慣れていない人でも一定水準のきれいな図が作成できるのでおすすめです。

作成した業務フローのイメージ(IDグループの実際の業務とは関係がありません)

As-is: 人手による請求書処理


To-be: Power AutomateとCopilot Studioを用いた請求書処理

これらのTo-be業務フローが作成できたら、いよいよAIエージェントの作成に取り掛かることになります。理想形のTo-beフローに対してどこまでAI化ができるか、トライ&エラーを繰り返しながら見極めます(この経験が今後のAI活用で活きてきます)。なお、作成のための技術習得については、会社が研修やeラーニングを提供するなどして、社員の自律的な学習を促すのがよいでしょう。

AI活用を定着させるための施策

AI活用を定着させるには、「成功事例を共有すること」、「モチベーションを維持すること」が必要となります。そのための方法について解説します。

社内SNSで情報発信し、ナレッジを共有する

ツールを配っても使われない大きな理由のひとつが、「他の人がどう使っているのか分からない」という情報の不足です。そこで効果的なのが、社内SNSやチャットツールを活用した情報発信です。

IDグループではViva Engageを用いて、「使い方」や「成功事例」を共有しています。

  • 便利なプロンプト(AIへの指示文)の実例
  • 「こんな業務がこれだけ楽になった」という成功事例
  • ちょっとした使い方のコツやトラブルの解決法

大切なのは、成功事例を「自分の業務でも真似できそうだ」と感じてもらうこと、およびこれらの情報発信を一般社員だけでなく、部長職や役員等の上席者も積極的に行うことです。社員は社内システムをどこまで活用していいか判断に迷ったり、躊躇したりするものです。影響力が大きい上席者が積極的に情報発信することによって、AI活用の心理的ハードルが下がることになり、全社活用を促進することができます。

コンテストやアイデアソンなどのイベントを開催する

AI活用もある程度軌道に乗ってくると、どうしてもマンネリ化してしまうものです。そこで情報発信と並行して、活用の熱量を一気に高めるのに効果的なのが、コンテストやアイデアソンといったイベントの実施です。日常の業務とは別に「お祭り」的なきっかけを作ることで、これまで様子見だった社員も巻き込むことができます。

イベント例

  • 「AIを使って業務をこう改善した」、「こんな面白い使い方を見つけた」といったアイデアや成果を全社から募集し、表彰するコンテスト
  • 制限期間内に、与えられた課題を解決するためのAIエージェントのアイデアを競うアイデアソン

参加者にとっては自分の工夫をアピールする場になり、他の社員にとっては具体的な活用イメージを得る絶好の機会になります。優秀事例は社内SNSで横展開すれば、ナレッジ共有との相乗効果も生まれます。大事なことは、全社員が参加できるような企画にすること、ならびに社員のモチベーションを上げるために、賞品等のインセンティブを用意することです。

まとめ

本コラムでは、AIを全社導入し、実際に活用される状態まで持っていくためのステップとして、「推進組織の立ち上げ」、「ツールの選定」、「AIを先行導入する部署の選定、および業務の可視化」、「AI活用を定着させるための施策」の4つを紹介しました。

これらを通じて改めて感じるのは、AIの全社活用は技術の問題ではなく、人と組織の問題だということです。最新のツールを導入すること自体は、お金さえかければ誰にでもできます。しかし、それを現場の一人ひとりが「自分の仕事に役立つ」と実感し、日々使い続けてくれる状態をつくるのは、地道なコミュニケーションと仕組みづくりの積み重ねに他なりません。

大切なのは、いきなり完璧を目指さず、可視化で見えた「効きどころ」からスモールスタートし、成功事例を蓄積していくことです。また、AIはあくまで手段のひとつであり、目的ではないということを意識することも大事です。可視化した結果、AIを使わなくても(RPAやマクロなどの従来の方法を用いて)業務改善を行えるということが分かれば、それはそれで成功と言えます。これは、AIは間違うことがあるので、ロジックやルールベースの仕組みで解消できるのならば、そちらを採用するべきという考えに基づくものです。

当社でも試行錯誤の真っ最中ですが、こうした取り組みを通じて、AIが特別なものではなく「当たり前の道具」として日常業務に溶け込んでいくことを目指していきたいと思います。

AIの全社導入に取り組まれる皆さんにとって、本コラムが少しでもお役に立てば幸いです。当社ではAIに関するコンサルティングや教育も行っております。ご興味がございましたら、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。


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以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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