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システムマネジメント事業本部 DCM第6部
テクニカルスペシャリスト
村岡 弦

はじめまして。テクニカルスペシャリストの村岡です。今月からコラムを担当します。
よろしくお願いいたします。
私は主にSaaSプラットフォームの運用支援に携わっています。ツールを導入して終わりにするのではなく、当社が培ってきたシステム運用の経験を生かし、お客様の業務や運用の改善まで支援することを大切にしています。今回は、身近なAI活用例である「議事録作成」を実際に試し、見えてきた課題と対策をご紹介します。
はじめに
Teams会議を録画し、トランスクリプトをAIに読み込ませれば、手を入れなくても、思いどおりの議事録が仕上がる。私も最初はそう考えていました。
実際、会議の概要や主な決定事項をまとめるだけなら、それほど難しくありません。短時間で一定品質の下書きができ、ゼロから議事録を書く作業を大きく減らせます。
しかし、正式な参加者を記載し、担当者や期限を正確に抽出し、存在しない情報を勝手に補完させないようにすると、途端に難しくなります。今回は、社内バーベキュー大会の企画会議を題材に、実際に経験したつまずきを再現しました。確認したのは、「出席者を正しく記録できるか」「推測を許す場合と禁止する場合で何が変わるか」「会議名などの基本情報を取得できるか」の3点です。
検証:一人で複数人の会話を読み上げる
あらかじめ会話のシナリオを作成し、私一人ですべての参加者役を読み上げてTeams会議を録画しました。実際にTeamsへ接続したユーザーは私一人ですが、会話上は吉井、吉原、石田、小木曽、山崎など複数の人物が参加している形です。途中参加や途中退席も会話の中で明示しました。これは、会議室に置かれた1台の端末とマイクで複数人が参加するオンサイト会議を模したものです。
また、AIが誤認しやすい条件を作るため、吉井と吉原、石橋と石田、加地と梶田など、音声では区別しにくい名前をあえて登場させました。会議終了後、通常のTeams要約とAIエージェントの出力を比較しました。
今回の比較は製品の優劣を決めるものではありません。Teams要約は通常どおり生成し、AIエージェントには「根拠のない推測をしない」「確認できない情報は不明または未定とする」と指示しました。推測を許す場合と抑制する場合で、出力がどう変わるかを確認するためです。
点呼を取っても、出席者名は正確に記録されなかった
1回目の検証では、会議の冒頭で一人ずつ名前を読み上げました。ところがTeams要約では、「吉井」が「吉田」、「石田」が「岸田」、「加地」が「加治」と記録されました。いずれも人名として自然に見えるため、正しい名前を知らなければ誤りに気付きにくい結果となりました。
推測を抑制したAIエージェントは、確信を持てない名前に「?」を付けて出力しました。この出力は、誤った名前を断定しない点では安全ですが、結局は人による確認が必要で、そのまま正式な参加者一覧としては利用できません。
また、実際にTeamsへ接続していたのは私一人です。それでも会話の中で「山崎です」「小木曽です」と読み上げると、AIはトランスクリプトに現れた名前を参加者候補として整理しました。AIが音声から話者本人を特定しているわけではないことが分かります。
2回目は途中参加者と途中退席者がいるシナリオで試しました。途中参加・途中退席はある程度反映されましたが、AIエージェントの参加者一覧から一人が漏れました。音声による点呼は参加者を推定する材料にはなりますが、正式な出席記録としては不十分です。
そこで、今回の検証を踏まえ、従来どおり出欠確認ファイルを正とし、必要に応じて会議開始時にTeamsチャットへ参加者名を記載する運用が現実的だと考えました。特に会議室から複数人が参加する場合は、代表者が参加者名を文字で残す方が確実です。
推測を許すと読みやすく、禁止すると慎重になる
次に確認したのは、AIによる推測の扱いの違いです。Teams要約はトランスクリプトを基に自然な文章を作るため、会話の流れから担当者や決定事項を補うことがあります。
1回目の検証では、「私が担当します」とだけ発言し、あえて名前を言わない場面を作りました。するとTeams要約には担当者が記載されましたが、想定した人物とは一致しませんでした。文章としては自然だったため、正解を用意していなければ見落としていたかもしれません。
一方、推測を禁止したAIエージェントは、担当者を確実に判断できない場合、名前を記載せずに作業内容だけを残しました。誤った担当者を断定しない点では適切ですが、議事録としては情報が不足します。
推測を許せば読みやすくなる一方、もっともらしい誤りが混ざる可能性があります。推測を禁止すれば誤った断定は減りますが、「不明」「未定」「要確認」が増えます。プロンプトだけでこの問題を解決するのは難しいと感じました。
そこで2回目の検証では、AIへの指示ではなく会議中の発言を変えました。「私が担当します」ではなく「会場の予約は吉原さんが担当します」と名前を明言し、「来週金曜日」ではなく「8月28日まで」と具体的な日付にしました。担当者が決まっていない場合は、「担当者と期限は未定」と明言しました。
さらに会議終了前にToDoを読み上げ、担当者、期限、担当範囲、未決定事項を確認しました。その結果、推測を禁止したAIエージェントでも、担当者や期限を正しく記録できました。AIに推測させなくても、必要な情報を会議中に明確にすれば、実用的な下書きを作れることが確認できました。
AIは、元データにない会議名を埋められない
もう一つのつまずきは、議事録のタイトルでした。1回目の会議では、会話にもTeamsの会議名にも年度や開催回数を入れていませんでした。そのため、AIエージェントは、議事録フォーマットに指定したタイトル欄に「不明年度 第不明回」と出力しました。
推測を禁止している以上、これは正しい動作です。いくらプロンプトを工夫しても、AIは元データに存在しない年度や開催回数を知ることはできません。
そこで2回目は、Teamsの会議名を「2026年度第2回バーベキュー委員会」と設定しました。すると、AIエージェントの議事録にも年度、開催回数、会議体名が正しく反映されました。
会議名など議事録に記載したい情報は、AIが参照できる場所にあらかじめ用意しておく必要があります。年度、開催回数、正式名称など、会話では省略しがちな情報ほど、会議タイトルや予定表に登録しておくことが重要です。
手直しを減らしたのは、会議運営だった
今回の検証で有効だったのは、複雑なプロンプトではなく、次のような会議運営の工夫でした。
- Teams会議のタイトルを正式名称にする
- 参加者名はTeamsチャットや出欠確認ファイルにも記録する
- 「はい」「私」だけで済ませず、担当者名を発言する
- 期限は具体的な日付で確認する
- 未決定の内容は「未決定」と明言する
- 会議終了前にToDo、担当者、期限を確認する
AIには最初から簡潔な完成版を求めるより、多少冗長でも情報を残した下書きを作らせる方がよいと考えています。残っている情報は人が後から削れますが、AIが落とした情報を後から復元するのは難しいからです。
AI議事録の価値は、人による確認を完全になくすことではありません。人がゼロから議事録を書く作業を減らし、内容の確認と不要部分の削除に集中できるだけでも、十分な効率化になります。
まとめ
AIを導入するだけで、すぐに完璧な議事録が完成するわけではありません。しかし、会議の進め方や確認手順を合わせて整えることで、議事録作成の負担は減らせます。
毎回の手直しは、AIの性能不足だけが原因ではありませんでした。「誰が参加したのか」「誰が担当するのか」「いつまでに行うのか」を曖昧なままにしていたことや、正式な会議名など必要な情報をAIへ渡していなかったことも原因でした。
AI議事録の導入は、議事録作成を効率化するだけでなく、会議に残る曖昧さを見直す機会にもなります。これはAIに限らず、ツールやシステム全般に共通する点です。ツールは、導入するだけで業務を自動的に改善してくれる魔法の道具ではありません。ツールに合わせて業務の進め方を見直し、運用として定着させることが重要です。
お客様のDXを支援する際にも、製品や機能を紹介するだけでなく、現在の業務や運用にどのような曖昧さや課題があるかを一緒に整理する必要があります。技術と運用の両面から改善を支援することが、私たちの提供できる価値だと考えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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