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個人が実践するAIOpsの可能性 ~Opsが増えた時代に、AIとどう向き合うか

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松澤 英憲

はじめに

「AIOps」という言葉を初めて耳にしたとき、私の頭に浮かんだのは率直に言えば「またOpsが増えたな」という感想だった。
 ここ数年、IT業界では「〇〇Ops」という言葉が氾濫している。DevOps、SecOps、MLOps、DataOps・・・・・気がつけばOpsのついた用語が次々と生まれ、もはや数えるのも難しいほどだ。
私は長年、IT運用に携わってきた。だからこそ「Ops=Operations=運用」という意味はよく理解している。
 運用とは、システムを動かし続けること。障害をいち早く検知し、復旧させ、ユーザーへの影響を最小限に抑えること。つまり、地味でありながらビジネスを支える「縁の下の力持ち」のような領域である。
 そんな自分にとって、AIOpsという言葉は少し異質に感じた。AIと運用の融合?本当にそれは現場の助けになるのだろうか?
 そしてふと気になったのが、「そもそもOpsってどのくらいあるのだろう?」という疑問だった。

調べてみると、予想以上に多種多様なOpsが存在していた。
名称 組み合わせ 主な目的
AIOps Artificial Intelligence + Operations AIを活用して運用データを分析・自動化する
CloudOps Cloud + Operations クラウドリソースを効率的に運用・最適化する
DataOps Data + Operations データ分析・統合パイプラインを継続的に改善する
DevOps Development + Operations 開発と運用を統合し、リリースのスピードと品質を両立させる
MLOps Machine Learning + Operations 機械学習モデルを開発から運用まで一貫して管理する
NoOps Cloud + Operations 運用を極限まで自動化し、人の手を排除する
SecOps Security + Operations セキュリティ運用を継続的プロセスとして組み込み、脅威対応を迅速化する
SREOps Site Reliability Engineering + Operations サービスの信頼性と可用性を高めるための自動化

近年では、DevSecOps(Development + Security + Operations)という、セキュリティを開発・運用プロセスの中に組み込むためのアプローチも登場している。
 
こうして並べてみると、「Ops」はもはや一つの専門分野ではなく、「動かし続ける文化」を表すキーワードに変化しているように思える。
 
だが、その中でもAIOpsには特有の期待と誤解が混在している。AIという言葉の持つ魔法的な響きが、「AIが運用を全部やってくれるのでは?」という幻想を生んでいるのだ。
 
では実際のところ、AIOpsとは何なのか。そして個人として、それをどう考え、どう実践できるのか。
本コラムでは、AIOpsの登場背景を整理しつつ、私自身の経験をもとに「個人が実践するAIOpsの可能性」について考察していきたい。

Opsが増えた背景と時代の流れ

なぜ、「〇〇Ops」という言葉がここまで増えたのか?
ITシステムは、かつては「完成された構造物」のような存在だった。しかし今では、「運用しながら成長し続ける有機体」へと変化しているからだと思う。
 
かつてのシステムは、設計して、構築して、あとは安定稼働させる――そんな「完成」を前提とした存在だった。
しかし今では、クラウドやアジャイル開発の普及によって、システムは常に変化し続ける「生き物」のような存在になった。
新しいサービスが追加され、構成は日々変わり、連携する外部システムも頻繁に更新される。
昨日の正常が今日の異常になる。そんな世界で、運用はもはや「終わりのない進化のプロセス」になっているのではないか。
 
この変化の中で、Opsという言葉が多様化したのは自然なことだ。
開発と運用をつなぐDevOps、セキュリティを組み込むSecOps、信頼性を高めるSREOps・・・・・
いずれも、変化し続ける環境の中で「どうすれば継続的に動かし続けられるか」を模索した結果、生まれた文化だ。
 
つまり「Opsが増えた」というのは、単に言葉が増えたのではなく、「変化を受け入れる文化が広がった」ということではないだろうか。
そしてその延長線上に、AIという新しい知性を運用に取り込もうとするAIOpsが登場したのではないだろうか。
 
Opsの多様化は、時代が変わった証拠であり、その中心には常に「動かし続けることの難しさ」と「より良く動かすための創意工夫」がある。AIOpsは、その延長にある最新の試みだと考える。

AIOps登場の背景 ― AIが運用に入り込むまで


AIOpsという言葉を最初に提唱したのは、アナリスト企業のガートナー社である。2016年、彼らはAIOpsを Algorithmic IT Operations と定義し、ビッグデータ分析やアルゴリズムを用いて運用を最適化する手法として紹介した。当時はまだ「AI」というよりも「データ分析の高度化」に近い概念だった。
 
しかし2021年、ガートナーはAIOpsを Artificial Intelligence for IT Operations と再定義した。この時点でAIは単なる補助的要素から、運用プロセスの中核へと昇格した。AIOpsの目的は、膨大なログやイベントデータをAIが解析し、
  • 異常を自動的に検知する
  • イベントの相関関係を導き出す
  • 原因や影響範囲を予測する
     といった「自律的な運用支援」を実現することに変化した。
背景には、運用現場が抱える構造的な限界がある。クラウド・マイクロサービス化により、監視対象が爆発的に増えた。ログ量も1日数億件に達するようなシステムも珍しくない。さらに、運用人材の慢性的不足。人手だけで全てのアラートを精査するのは、もはや不可能になっている。
 
こうした課題に応える形で、AIOpsは生まれた。AIが運用データをリアルタイムに分析し、アラートのノイズを減らし、重要な兆候だけを抽出する。それによって、運用担当者は「本当に判断が必要な事象」に集中できるようになる。この考え方はまさに、「AIが運用を支援する」という時代の転換点を示している。

個人が実践するAIOps ― ChatGPT時代の小さな試み


では、個人としてAIOpsにどう関わることができるのだろうか。AIエンジニアではない私たちが、運用現場でAIOpsを体験する方法はあるのだろうか。
 
私は日々の業務の中で、ChatGPTを使って「自分なりのAIOps」を試している。それは、システムにAIを組み込むことではなく、自分の思考にAIを組み込むという意味でのAIOpsだ。
 
例えば、過去の障害報告をChatGPTにまとめさせる。
「この1か月の障害報告から、共通する原因を整理して。」と入力すれば、AIはVPN接続、アカウントロック、バッチ処理の遅延など、再発傾向のある項目を抽出してくれる。これにより、漠然とした経験が、明確な「改善テーマ」として見える化できる。
 
あるいは、個別の障害報告書を読み込ませて要約させる。
「この報告書の要点を整理して。特に原因・影響・再発防止策を3行でまとめて。」と指示すると、AIは複数ページにわたる文章を瞬時に分析し、内容を構造化して出力してくれる。このとき重要なのは、AIが単に文章を短くするだけではなく、人間が判断しやすい形に知識を再構成してくれるという点だ。
 
つまり、AIを「読むための代行者」としてではなく、「理解を助ける相談役」として使うことで、運用担当者は「情報をどう解釈するか」という本質的な思考に集中できる。こうした小さな取り組みの積み重ねが、個人で実践するAIOps活動だと思う。AIOpsという言葉を「AIがすべてを自動でやる仕組み」と捉えるのではなく、「AIを活用して自分の仕事をより知的にする営み」と考えれば、個人でも始められる。

AIOpsと生成AIの違いと関係性

AIOpsとChatGPTのような生成AIは、同じ「AI技術」を用いているが、目的も性格もまったく異なる。AIOpsはITシステムそのものを対象とし、AIが自律的に分析・判断・自動化を行う仕組みであるのに対し、生成AIは人間の思考や創造を支援する、知的な対話パートナーである。
観点 AIOps 生成AI活用
主な目的 IT運用プロセスの自動化・最適化 知識やアイデアの創出・思考支援
主体 システム(AIが自律的に動作) 人間(AIをツールとして利用)
インプット ログ、イベント、メトリクス、監視データ テキスト、質問、業務文書、会話
アウトプット 異常検知、相関分析、予兆検出、自動アラート統合 要約、説明、文書生成、仮説立案、提案
 
AIOpsが「AIが動かす仕組み」であるのに対し、生成AIは「人がAIを使って考える仕組み」である。AIOpsは運用システムの裏側に組み込まれ、安定性と信頼性を保つ「自動運転装置」のような存在であり、生成AIはその上で働く人間の知的活動を支援する「知的アシスタント」のような存在だ。
 
両者の違いは明確だが、方向性は同じである。AIOpsは「判断の自動化」を、生成AIは「思考の拡張」を目指す。つまり、前者はAIがデータから異常を検出し、後者はAIが人の思考を広げる。その本質は、いずれも「人間の限界を超えるための知的補完」にある。
 
また、個人の視点から見れば、ChatGPTのような生成AIを使いこなすこと自体が、将来的にAIOpsを「使いこなせる人」になるための第一歩である。AIに問いを立て、結果を吟味し、自分の知識と組み合わせて活用する。その経験が、AIをブラックボックスではなく「協働する存在」として理解する力を養うと考える。
つまり、生成AIの活用はAIOpsの入り口であり、AIOpsの実践は生成AIで育まれた思考力を現場で発揮する場でもある。両者は別の技術ではなく、同じ知の循環の中で補完し合う関係にあるのだ。

Opsが増えた時代に、AIとどう向き合うか

今や「Ops」という言葉は、開発・データ・AI・クラウドあらゆる領域に広がっている。それは、変化が常態化した社会の中で、「動かし続けること」そのものが価値を持つ時代に生きているからだ。
 
AIOpsもまた、この流れの中で生まれた。AIが人間の代わりをするのではなく、人間とAIが役割を分担して運用を高め合う仕組みとして登場した。
 
AIがシステムの裏側で膨大なデータを処理し、人間はその結果を読み解き、判断や改善を進める。
このような「協働の構図」が次世代のOps文化の中心になると考える。
 
だからこそ、AIOpsを導入する前に大切なのは、AIを「使える人」を育てることだと思う。AIを怖がらず、試し、問いかけ、使いこなす。その積み重ねが、最終的に「AIを前提とした運用文化」を育てることにつながるのではないか。
 
ChatGPTで障害報告を要約する。AIに傾向を分析させ、改善策の仮説を立てる。そうした個々の小さな実践が、やがて組織的なAIOpsの基盤になる。
 
AIOpsの本質は、AIが運用を「代行」することではない。人間がAIとともに運用を「再定義」することにある。そしてその出発点は、組織ではなく、個人の実践だと考える。
 
AI時代のOpsは、人を排除するのではなく、人の知を拡張する。AIOpsとは、AIが運用をする話ではなく、AIを通じて人間が運用を学び直す機会なのではないだろうか。

さいごに ― コンサルタントとして考えたこと

AIOpsという言葉を語るとき、私が常に意識しているのは、これは単なる「技術の話」ではなく、組織の文化や人の姿勢を変革する話だという点である。AIを導入して運用を効率化することはあくまで入口にすぎない。AIを通じて、現場で働く人たちの思考と行動がどう変わるのか。そこにこそ、AIOpsの本質的な価値があると私は考えている。
 
コンサルタントとして多くの現場を見てきたが、AIOpsを「ツール」として導入しようとする企業の多くは、
「自動化すれば人手が要らなくなる」と誤解している。だが、実際のAIOpsは人を中心とした仕組みであり、AIが自律的に動くためには、人間が「問い」を設計し、「学習」を導くことが欠かせない。AIが賢くなるよりも先に、人がAIと協働できる文化を整える必要があるのだ。
 
AIOpsとは、AIが人間を置き換えるための仕組みではない。むしろ、人間がAIを通して、自分たちの仕事の意味を再定義していくための鏡だと私は感じている。その鏡に映る姿は、組織の成熟度や、現場の思考力、そして「変化を恐れない姿勢」によってまったく異なる。
 
私がコンサルタントとして重視しているのは、AIOpsを単なるソリューションではなく、「考え方のインフラ」として定着させることだ。AIを使いこなす組織は、単に効率的なだけでなく、失敗や変化から学び、継続的に改善できる組織でもある。その土台を育てることこそ、これからの運用変革の中心になるだろう。
 
AIOpsの導入を支援していると、現場の担当者がAIを「どう信じ、どう使うか」にこそ最大の課題があることに気づく。AIの判断を「答え」として受け入れるのではなく、そこに含まれるロジックや前提を「共に検証する」姿勢が求められる。AIが導き出す結果は、常に人の問い方によって変わる。だからこそ、AIOpsの成熟とは、技術の完成ではなく、人の思考の深化だと思う。
 
また、組織にAIOpsを根付かせるためには、経営層・現場・IT部門の三者が同じ視座を持つことが不可欠である。経営は「何を自動化するか」ではなく、「どの判断を人に残すか」を決める必要がある。
現場はAIを恐れるのではなく、自ら学び、使いこなす側に立つことが求められる。そしてコンサルタントは、その両者をつなぎ、「AI活用の意味づけ」を設計する役割を担わなければならない。
 
AIOpsという概念には、まだ完成された定義も、共通のゴールもない。だが、その曖昧さこそが、私にとっての希望でもある。なぜなら、その中に「AIと共に働くとは何か」「人が果たすべき役割は何か」という、私たち自身の根源的な問いが含まれているからだ。その問いに向き合い続けることが、コンサルタントの本質であり、次の時代の運用を形づくるための第一歩になると信じている。
 
そして何より、AIOpsは「特別な誰かの取り組み」ではない。小さな自動化の試み、ChatGPTを使った日々の省力化、AIに報告書を読ませ、要点を考えさせる。そうした日常の中にもAIOpsの芽はある。
 
個人が変われば、組織が変わる。組織が変われば、文化が変わる。AI時代のコンサルティングとは、その変化の連鎖を静かに後押しする仕事なのだと、私は思う。

松澤 英憲

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