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SIAM™が提唱する協働型エコシステム ~ユーザー企業とベンダー企業の新しい関係性

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コンサルティング事業本部
テクニカルエキスパート
認定インストラクター
PeopleCert ITIL® Ambassador
長崎 健一

デジタル技術が社会を変える

クラウド・コンピューティングやビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などのデジタル技術を駆使して、過去の制約にとらわれずに新しいビジネスモデルを構築するサービス企業のことを、ディスラプター(破壊者)と言います。例えば、AmazonやGoogleは90年代に設立されたサービス企業ですが、インターネットの普及を背景として大きく成長し、製造業や流通業など様々な産業においてディスラプション(破壊的な変化)をもたらしています。
近年、スマートフォンなどの個人向けデバイスの普及は新たなディスラプターを生み出し、従来型のサービスにも大きな影響を与えています。例えば、Uberの「配車サービス」はタクシー業界に、Airbnbの「民泊サービス」は宿泊業界に、Spotifyの「ストリーミング」は音楽業界にディスラプションを引き起こしています。
新たなデジタル技術は、時として社会を変えるほどの潜在力を持っているのです。



消費者ニーズの変化に対応する

企業がディスラプションを乗り越えるためには、自らデジタル技術を駆使して競争優位性を獲得するか、新たな消費者ニーズを開拓してディスラプションを回避するなどの対応が必要です。後者の場合、例えば、インターネットでの書籍販売が普及したことによって街中の多くの書店が姿を消しましたが、中にはカフェを併設したりエンターテイメントを提供したりすることで、新たな消費者ニーズを掘り起こすことに成功した書店もあります。
前者の場合、消費者のニーズは常に変化しているため、企業はデジタル技術への継続的な投資を行い、ニーズの変化に柔軟に対応できるアジリティ(敏捷性)を高めることが求められます。例えば、あるタクシー事業者は、自らが運営するタクシーアプリを拡張して、インバウンド需要を満たすために「ライドシェア」を提供しています。さらに、低価格の「相乗りタクシー」や、時間単位での「貸切タクシー」などの新しいタクシー・サービスもアプリを通して利用可能です。将来、自動運転が普及すれば、さらにタクシーアプリを拡張して、アプリを介して「自動運転タクシー」を呼ぶことになるでしょう。
アジリティは、今日の企業における重点課題となっています。



コラボレーションの重要性

新たなビジネス機能を追加する、ユーザ・インターフェイスを改良する、キャパシティを最適化するなどの変更を適時かつ迅速に行うためには、ビジネス企画チームとアプリ開発チーム、さらに運用サポートチームとのコラボレーション(協働)が欠かせません。従来のシステム開発プロジェクトは、ユーザー企業の企画チームが要件を決めて発注し、受注した開発ベンダーが要件に従って設計して開発し、運用ベンダーが要件に従って運用するという流れで進行しました。しかし、新しいビジネス機能を提供する場面では、実際に利用が始まってから消費者の反応が認識されることが多く、提供する前に要件を確定させることは困難です。机上の要件の結果として、消費者のニーズに合わないサービスが完成することになります。
このような状況にならないための道の一つは、開発から運用までを自社内で行うことです。そうすることで受注/発注にまつわる不確実性を削減し、要件の変化にも柔軟に対応でき、さらに技術的なノウハウも社内に蓄積されます。欧米の企業には、開発チームや運用チームを自社内に保持している企業が多いのはこのためです。
もう一つの道は、開発ベンダーや運用ベンダーとの間に、コラボレーション(協働)の関係を築くことです。これは、ベンダーに「やってもらう」のではなく、ベンダーと「一緒にやる」という考え方に基づきます。また、より強固な関係性を築くために、ベネフィットやリスクを共有する「パートナーシップ」を結ぶこともあります。例えば、合弁会社を設立したり、資本関係を持ったりすることによってパートナーシップを強化している企業もあります。変化する消費者ニーズに迅速かつ柔軟に対応するには、「一緒にやる」ことが重要なのです。



エコシステムの構築


エコシステムは、生物学において「生態系」を意味する言葉です。ある地域に生息する生物が、互いに依存しあって生きている状態を表します。ビジネス用語としてのエコシステムは、特定の製品やサービスを中心に、関連する複数の企業や顧客などが連携して、あたかも「生態系」のように共存共栄する仕組みを表します。例えば、スマートフォンというサービスを中心に、アプリやアクセサリ、コンテンツを提供する企業がエコシステムを構成し、消費者のニーズを満たしています。前述のタクシーアプリの場合は、アプリ開発やインフラ提供などのITベンダーだけでなく、全国にあるタクシー事業者との提携によってエコシステムを構築しています。
デジタル技術は、新しいエコシステムを生み出すこともあります。IoT技術によって自動車や駐車場という物理的資産をインターネット経由で管理することが可能になり、カーシェアリングという新しいサービスが生まれています。カーシェアリングでは、自動車ディーラーや駐車場オーナーもエコシステムの構成員になります。
このように、デジタル技術によって新しいサービスを生み出す際には、従来のITの枠を超えたエコシステムを構築する必要性があり、コラボレーションの概念がより重要になります。始める前に要件を確定することは困難であり、サービスを提供する中で試行錯誤を繰り返す必要があります。エコシステムは変化に対して柔軟でなければなりません。




SIAM™が目指す協働型エコシステム

SIAM™(Service Integration and Management)は、過去30年に渡ってITIL®が促進してきたサービスマネジメントの概念を、サービスのエコシステムにまで拡張したものです。

(過去記事)SIAM™を活用した新時代のマルチベンダー管理を紹介
https://www.idnet.co.jp/column/dx_007.html

従来から行われてきたベンダー管理との大きな違いは、SIAM™ではコラボレーション(協働)を重視しているところにあります。これは、デジタル技術が引き起こす新たなディスラプションにおいて、競争優位性を獲得する、あるいは消費者ニーズの変化に追随するために、柔軟なエコシステムを構築する必要性からきています。過去のベンダー管理は、発注側が決めた要件に対して、受注側が達成した度合いを評価するものでした。この方法では、消費者の反応を見た試行錯誤が考慮されないため、サービスによって新たなビジネス価値を創出しようとする取り組みに適用することは困難です。
SIAM™では、コラボレーションのカルチャ(文化)によって、エコシステムを運営することを提唱しています。消費者ニーズの変化に対応するために、時には実験的な取り組みが必要になるかも知れません。エコシステム全体として成功することがSIAM™の目標であり、個々のベンダーにとっても長期的な利益につながるという考え方に基づいています。
SIAM™は、従来のユーザー企業とベンダー企業の関係性を、新たな価値を共に創出するパートナーシップへと進化させることを目指しています。

(SIAM研修)
https://www.idnet.co.jp/service/siam_kenshu/

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