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似ているけど違う!?「防災活動」と「BCM(事業継続マネジメント)」の違い

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ICTサービス第6部
テクニカルスペシャリスト 千葉 由紀祐千葉さん顔写真_184x297

こんにちは、テクニカルスペシャリストの千葉です。
9月1日は防災の日という事で、先日、私が住む地域の防災訓練に家族で参加しました。コロナ禍ということもあり、避難場所への集合訓練ではなく情報伝達訓練として、防災アプリやインターネットサイトから、避難情報や防災マップを確認するというものでした。
防災マップ上の避難所、一時滞在施設の開設状況が、警戒レベルが上がるにつれて変化して表示され、どこに避難すれば良いのか、必要とする情報をしっかり受け取る事ができました。
訓練参加をきっかけに、家族であらためて地域防災について話をし、緊急時連絡方法の再確認、自宅の備えの見直しを行っています。
また、アプリの機能・サービス面や情報公開に関しては、訓練後のアンケートを通じて行政にフィードバックしましたが、今回のITサービスを介した訓練からは、情報の受け手の立場から発信者となった場合に必要なことの気づきも多く、“自分事”として主体的に取り組めた事は大きな収穫でした。
さて、前々回のコラム:【エバンジェリスト・ボイス】初動が最重要!事業継続マネジメント(BCM)と事業継続計画(BCP)で事業継続マネジメント(BCM)、事業継続計画(BCP)に関して述べましたが、知人より「実際に緊急事態になった場合、避難や安否確認のイメージはあるが、自分の勤め先がどのように事業継続を図るのか、自分がどう行動するのかイメージできていない。」といった話をされました。
防災活動と事業継続マネジメント(BCM)の違いを社員一人一人が理解し、自分事としておかないと、緊迫する危機の状況下では、企業・組織として望ましい結果を生む事は困難です。
今回は、防災活動と事業継続マネジメントの違いを明確にした上で、事業継続マネジメントにおける初動段階と事業継続体制移行後の対応についてお話したいと思います。

防災活動と事業継続マネジメント(BCM)の違い

まず、防災活動と事業継続マネジメント(BCM)の違いを明確にしたいと思います。
防災活動命を守るための行動にあるのに対して、BCMそれに加えて企業が社会的責任を果たすために重要業務の継続・復旧を行うための活動です。
内閣府が公開する事業継続ガイドラインでは、以下の通り防災活動とBCMを比較・整理しています。
表1.2-1 企業における従来の防災活動とBCMの比較表

企業の従来の防災活動 企業の事業継続マネジメント(BCM)
主な目的
  • 身体・生命の安全確保
  • 物的被害の軽減

  • 身体・生命の安全確保に加え、優先的に継続・復旧すべき重要業務の継続または早期復旧
考慮すべき事象
  • 拠点がある地域で発生することが想定される災害
  • 自社の事業中断の原因となり得るあらゆる発生事象(インシデント)
重要視される事項
  • 以下を最小限にすること
    • 死傷者数
    • 損害額

  • 従業員等の安否を確認し被災者を救助・支援すること
  • 被害を受けた拠点を早期復旧すること
  • 死傷者数、損害額を最小限にし、従業員等の安否確認や、被災者の救助・支援を行うことに加え、以下を含む。
    • 重要業務の目標復旧時間・目標復旧レベルを達成すること
    • 経営及び利害関係者への影響を許容範囲内に抑えること
    • 収益を確保し企業として生き残ること
活動、対策の検討の範囲
  • 自社の拠点ごと
    • 本社ビル
    • 工場
    • データセンター等
  • 全社的(拠点横断的)
  • サプライチェーン等依存関係のある主体
    • 委託先
    • 調達先
    • 供給先 等
活取組の単位、主体
  • 防災部門、総務部門、施設部門等、特定の防災関連部門が取り組む
  • 経営者を中心に、各事業部門、調達・販売部門、サポート部門(経営企画、広報、財務、総務、情報システム等)が横断的に取り組む
検討すべき戦略・対策の種類
  • 拠点の損害抑制と被災後の早期復旧の対策(耐震補強、備蓄、二次災害の防止、救助・救援、復旧工事 等)
  • 代替戦略(代替拠点の確保、拠点や設備の二重化、OEM の実施 等)
  • 現地復旧戦略(防災活動の拠点の対策と共通する対策が多い)
引用:『事業継続ガイドライン(令和3年4月)』 内閣府 P5~6
防災活動は、定期的に実施される避難訓練や防災訓練などを通じて、個人・組織の対応の認知度は高く、また、防衛本能から各自の主体的な行動も期待できます。 一方、BCMは、防災活動と並行して、緊急事態によって制限される経営資源(人・モノ・金・情報)を、企業において継続・早期回復しなければならない重要業務に投入するための活動です。速やかに対策本部を立ち上げ、指揮・命令系統を確立し、対応する事となります。
では、具体的にどのような対応が必要となるのでしょうか?

初動段階での対応

緊急時の初動段階で対応すべきことを、従業員個人の対応と企業・組織の対応に分けて考えてみます。
個人の対応としては、安全確保のための行動が最優先であり、必要に応じて避難をした上で、安否の状況、および業務遂行可否を報告する事が必要となります。
一方、組織の対応としては、組織を動かすための迅速な意思決定、指揮・命令が可能な、経営トップを含めた体制(対策本部)を構築します。当体制のもと、被害状況の確認、従業員の安全確保、内外への情報発信などを行い、状況・情報を集約・管理する事となります。
前述の事業継続ガイドラインでは、実施すべき事項の例を以下の様に挙げています。
表1.2-1 企業における従来の防災活動とBCMの比較表
実施主体 実施事項
項目 詳細
対策本部(本社及び各拠点)
  • 参集及び対策本部の立ち上げ・指揮命令系統の確立
  • あらかじめ定められた参集基準に基づき、参集対象者は所定の場所への参集(※安全確保の観点等から必要に応じて参集対象者の出社を抑制)
  • 参集後における、対策本部の迅速な立ち上げ
  • 参集場所が利用できない場合は、代替拠点へ参集
  • 建物、設備、従業員等経営資源の被害状況の確認
  • 建物、構築物、設備、作業現場等の被害確認
  • 従業員等の安否確認73 を実施、結果を集約
  • 顧客・従業員の安全確保及び物資配給
  • 避難が必要な場合、顧客・従業員の避難誘導
  • 水・非常用食料等の必要な物資を配給(備蓄の活用、必要に応じ追加調達)
  • 必要な場合、安全な帰宅方法の指示や、かえって帰宅することが危険な場合の待機指示
  • 二次災害の防止
  • 落下防止、火災の防止(ガス栓の遮断・確認等、必要なら一部電源の遮断を含む)、薬液漏洩防止、危険区域の立入禁止など、安全対策の実施
  • 危険が周辺に及ぶ可能性のある場合、住民への危険周知や避難要請、行政当局への連絡
  • 自社の状況についての情報発信
  • 連絡手段の確保
  • 社内の被害状況等の情報集約
  • 社内外の必要な相手先に対し、自社の状況についての情報発信(連絡先一覧による74
  • 事業継続計画(BCP)の発動
  • 連絡手段の確保
  • 初動が落ち着いた後、然るべき権限者は、あらかじめ定められた基準に基づき、事業継続計画(BCP)発動の要否を判断し、発動となった場合、事業継続体制へ移行(次表を参照)
  • 対応の記録
  • 実施した対応や、発生した問題点等の記録75
各従業員
  • 自身及び周囲の安全確保(勤務先、出先、自宅76で共通)
  • 身の安全を確保した後、初期消火、周囲のケガ人や閉じ込め者の救出(救出用資材を活用)
  • 周囲の状況を確認し、必要な場合には避難
  • 自身の安否についての報告(同上)
  • 定められる方法に基づき、自身及び家族の安否の報告
引用:『事業継続ガイドライン(令和3年4月)』 内閣府 P24~25

事業継続体制移行後の対応

初動段階での安全確保後、事業継続体制への移行の対応において、私が考えるポイントは以下の通りです。
1.経営資源の割り当て
事業継続を図る際、緊急時と通常時の大きな違いは、経営資源(人・モノ・金・情報)が制限される点です。限られた経営資源で企業として社会的責任を果たすには、重要と定めた業務に経営資源を割り当て、継続または必要なレベルまで回復させる事が必要です。
(重要業務を特定するための業務影響度分析(BIA)については前々回コラム参照)
経営資源を重要業務に割り当てるには、対策本部に情報(社員の安否状況、被害状況、調達先の状況等)を集約し、対策本部でコントロールする必要があります。また、マンパワー確保の事前準備として、従業員一人一人が、緊急時には通常時とは異なる業務を行う可能性を認識しておき、業務遂行できるよう準備しておく事が重要です。具体的には、応援要員用のマニュアル・手順の整備、定期的な教育・訓練が挙げられ、キーパーソンが居なくては業務が回らないという事態は避けなければなりません。
なお、受託業務や要員派遣に関しては、契約やSLAに基づく対応となりますが、対策本部での情報集約、コントロールは同様に行う必要があります。
2.情報発信
従業員、取引先などの利害関係者(ステークホルダー)や対外向けの情報発信を確実に行える体制を確保する事は、事業継続対応を進める上で非常に重要です。
企業・組織がどういう状況に置かれているのか分からない状況は、取引先から見れば、サービス提供は大丈夫なのか、サプライチェーンが途絶してしまうのではないかといった懸念を与え、従業員から見ても、事業継続の対応が遅れるなど支障が生まれます。
このようなブラックアウトの状況を起こさないための準備として、連絡先情報の保管、複数の連絡手段の確保、連絡要員(マンパワー)の確実な確保が挙げられます。連絡手段に関しては、電話(衛星電話含む)、メール、オンライン会議システム等、ICTを活用した複数の手段を確保し、事前に共有しておきます。
また、集約した中から、必要な情報を判断し、適切なタイミングで正確に発信する事も重要です。
3.夜間・休日発生時の対応
夜間・休日発生時も平日日中と同様に初動段階の対応は必要であり、事業継続対応も考慮しておく事が重要です。平日日中と休日・夜間の違いは、連絡の取り易さ、召集のし易さ、社内インフラの利用のし易さなどが挙げられますが、いつ起きても同様の対応ができる様、双方の違いを明確にし、緊急連絡先・連絡手段の確保、リモートワーク環境の活用ルールの整備など、準備をしておく事が必要です。
その他、事業継続ガイドラインでは、実施すべき事項の例を下図の通り挙げています。
表5.1.1.2-2 事業継続対応において実施すべき事項の例
実施主体 実施事項
項目 詳細
対策本部・事業継続組織(本社及び重要業務の拠点
  • 自社の事業継続に対して、求められている事項の確認、調整
  • 重要な製品・サービスの供給先や関係当局との連絡、WEB サイトによる通達や告示の閲覧a等により情報収集
  • 自社の事業継続に対して、求められている事項の確認、必要に応じて相手方と調整
  • 現拠点、代替拠点での事業継続の能力・可能性の確認
  • 重要な製品・サービスの供給先や関係当局との連絡、WEBサイトによる通達や告示の閲覧a等により情報収集
  • 自社の経営資源の被災状況、調達先やサプライチェーンの状況等、必要資源の確保可能性の確認
  • 情報のバックアップ、バックアップシステムの保存、稼働の状況の確認
  • 復旧資材の必要性・入手可能性の把握
  • 必要なら、被災拠点に先遣隊や調査隊の派遣
  • 現拠点での復旧可能性や復旧可能時間の見積もり
  • 代替拠点や OEM その他の提携先の状況確認
  • 必要なら、代替拠点での業務立ち上げ時間等の見積もり
  • 実施する戦略や対策の決定
  • 実施する復旧、代替等の戦略を決定(現地復旧、代替拠点活用、OEM 等の提携先活用等)
  • 基本方針、目標、対策の優先順位を決定
  • 戦略に基づき実施する主要な対策の決定
  • 業務の継続・再開
  • 業務の継続・再開に向けた各対策を実施(現拠点の復旧手順、代替拠点の立ち上げ手順、バックアップシステム立ち上げ手順等を活用)(※必要に応じて従業員・顧客の安全確保が前提であることの認識の徹底)
  • 重要業務に関係する主体との連絡調整
  • 対策実施状況の進捗管理及び追加指示
  • 臨時予算の確保
  • 業務の継続・再開・復旧の状況把握
  • 自社の状況についての情報発信
  • 対外的に発信すべき情報の集約・判断
  • 取引先、消費者、従業員、株主、地域住民、地方公共団体などに対して、自社の事業継続の状況について情報発信
  • 平常時の体制への復帰
  • 臨時あるいは当面の業務実施の方法・体制を平常時の方法・体制に復帰77
  • 対応の記録
  • 実施した対応や発生した問題点等を記録
引用:『事業継続ガイドライン(令和3年4月)』 内閣府 P25~27

まとめ

緊急時は、想定通りの事象しか起きない事はまずなく、想定外の事象が必ず起きます。また仮に想定通りであっても事前準備の内容に固執せず、臨機応変に対応する力が求められます。
従業員一人一人が事業継続マネジメント(BCM)を“自分事”として理解し、事業継続対応を主体的に行動できる力を養っておく事は、企業にとって大きな強みとなります。
そして、冒頭でもお話しましたが、“自分事”として認識できる一番の取組みは、訓練に参加する事だと思います。
そのためには、訓練の種類(安否確認訓練、対策本部訓練、BCP訓練、関連会社との連絡連携訓練など)や、参加メンバー(全従業員、対策本部メンバー、キーパーソン、希望者など)を工夫しながら、できるだけ多くの人が経験できる様、計画する事が重要です。
是非、皆さんも訓練に参加する機会を積極的に作ってみてください。
では、次回をお楽しみに。

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千葉 由紀祐

株式会社IDデータセンターマネジメント テクニカルスペシャリスト

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