KNOWLEDGE - COLUMN ナレッジ - コラム

メタバースが解決するもの/すると期待されるもの

col207_main.jpeg

フェロー 関原 弘樹   顔写真2_1187x1313

“Some will love and some will curse you,
あなたを愛する人もいれば呪う人もいるだろう……


80’sに一世を風靡したロックバンドBon Joviの名曲「Stick To Your Guns」から私の大好きだった1フレーズですが、先日ふと数十年前のリリース当時に愛聴していたこの曲を聴きたくなりました。
 
「歳をとるにつれ新しい音楽への興味がうすれ、若いころに聞いた曲を繰り返し聴くだけになる」ということを実証した研究があるそうですが、これは自分のフレッシュな時期を思い出し活力を取り戻すという意味で決してネガティブな行動ではないという解釈があるそうです。
 
「信念を貫くために必要なことは?」について歌ったこの曲ですが、繰り返されるフレーズには
“You can go for the trigger, But only if you have to” 
ともあります。
 
ただ、年齢を重ねた今、この曲をあらためて聴いてみるとその受け取り方には変化が出てきました。
ストレートな情熱は成功への強力な原動力となるものの、周囲とのバランス感覚とリスクコントロールは生き残る=目標を達成するために最も重要なファクターだなとの印象を強く受けます。
さて今回はまだまだバズワードとして認識されることが多く、いまだ定まった定義がないといわれるメタバースついて技術的な観点やビジネス的な観点では“なく“
「メタバースが解決するもの/すると期待されるもの」についてセカンドライフの興廃を横目で眺めてきた筆者の個人的な印象を中心にその心理について書いてみたいと思います。
 
思えば20年前は「技術」「ビジネスモデル」「法制度」どれをとっても貧弱なもので、あったものといえば「何かができる!」という熱い情熱だけでした……

メタバースの定義

「メタバース(メタバース)という用語は、英語の「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語である。もともとはSF作家のニール・スティーヴンスンが1992年に発表したサイバーパンク小説『スノウ・クラッシュ』に登場する架空の仮想空間サービスの名称だった」。
Wikipediaによればその語源は上記のように小説内の架空のサービスからとられているとされていて、その定義は「コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された、3次元の仮想空間やそのサービスを指す」
とあります。
 
また、もう少し具体的に要件化したものとして以下のような記述もあります。
「現在メタバースの定義として様々なものが提案されているが、未だ統一した解釈は存在しない。メタバース解説書『メタバース進化論』(技術評論社、2022)では「空間性」「自己同一性」「大規模同時接続性」「創造性」「経済性」「アクセス性」「没入性」の七要件を満たしたオンラインの仮想空間として定義されている」
 
これらを考え合わせると、その要素しての萌芽は20年前の「セカンドライフ」もそうでしたし、ゲームでいえば「あつまれ どうぶつの森」やいくつかのMMOたちにも認められますね。
ニール・スティーヴンスン / Neal Stephenson
ニール・スティーヴンスン / Neal Stephenson
出典:Wikipedia
ということでわたしを含め多くの人々のメタバースへの期待は
「現実では不可能なアクティビティとエクスペリエンスを楽しめる”仮想/バーチャル”の世界!」
ということになりますでしょうか。
 
時速300kmで走って空中を飛び回る! 
一瞬で衣装を早変わり! 
パンチ一閃、巨大なビルも一撃で破壊する! 
食べたい料理があっという間に目の前に!

なんてことが現実世界へのリアルなフィードバックとともに味わえるようになるかもかもしれません。
そうです。フィードバックは重要なファクターです。
V.R. バーチャレーシングのアーケード筐体 セガ/1992
フォースフィードバックを取り入れ、これまでのゲームとは一線を画すリアルな挙動で高インカムを実現した往年のセガの名レーシングゲーム V.R. バーチャレーシングのアーケード筐体 セガ/1992
出典:Wikipedia
一点注意が必要なのは「仮想」=「Virtual」となりますが日本語の「仮想」と英語の「Virtual=事実上の/実質上の」ではやや受け取り方が異なる場合があるということですね。
 
日本語の「仮想」では「仮にあると考える/仮に置いてみる」いう意味なのに対し、英語の(そしてITでの)「Virtual」は呼び方が異なるが、「実質的にこれはもう同じだね、同じ機能を持っているね!」という意味になります。
 
こうしてみると英語の表現よりは日本語の表現はかなり現実にとらわれていない分だけ自由度が大きくなっており、元からMetaの意味を包含しているようにさえ感じられます。

人々はなぜメタバースを求めるのか?

もしそうだとしたら。それがあるのだとしたらですが「現実では不可能なアクティビティとエクスペリエンスを楽しめる”仮想/バーチャル”の世界!」
が求められているということですよね。
 
ということでストレートに結論から言ってしまうと身も蓋もないですが「誰しもが物理的、社会的な制限にとらわれた現実世界にうんざりしているから、そこから解放されたい!」
ということでしょうか。
 
むしろ、そんなことをいまさらという声もあると思います。
 
うんざりしている -
 
人間の悩みは、すべて対人関係の悩みであるという説もありますが、従来の世界を見てみると地理的、地政学的に変えることが難しい大小様々な人間のコミュニティが存在している事実があります。
 
そしてそれらのコミュニティにはやむを得ず参加している人もいるため、絶えず人間同士の摩擦が存在しているというのは経験からしても頷けることでしょう。
 
人間は誰しも心地よく生きたい。
となると嫌なことからは目をそらし、耳をふさぐ、とくに解決が難しい問題からは逃避したい。
それがよく言えば人間の知恵だと考えれば、メタバースの中には知恵から来る救いがあるといっていいかもしれません。
イメージ
無論、人々がそのようなものを求めないのであればもとよりメタバースはUniverseの代替としては機能しないでしょう。

メタバースの収束点

Internetの世界をインフラにするサービスとくにクローズドなSNSはThe Internetのサブセットとして位置付けることができます。
これはオープンなこれまでのInternetとしての大きなコミュニティをそれぞれの会員のみが利用できる小さなコミュニティにするという意味(肯定的に言えば価値)がありました。
 
これは仕組み上メタバースも同様となるはずです。現代のサービスでアカウント登録を求められずに利用できる高度なサービスは存在しません。
 
このコミュニティは原理上、物理的な位置制限なしに同時にいくつでも参加でき、IPの接続性とデバイスの機能制限以外に障壁はありません。
 
つまり気の合う仲間たちだけとコミュニティを維持していくことが可能であり、究極的にはそれがAI(エーアイ)Botを含めて人間は自分一人という構成もあり得ることになります。
 
最終的に利用者がそれを求めた場合、そこに落ち着いたときにメタバースはどのような位置づけになるのか興味がわいてきませんか?
 
コミュニケーションとは何か?
コミュニティとは何か?
イメージ

メタバースの神とどう対峙していくか

前述の「現実では不可能なアクティビティとエクスペリエンスを楽しめる”仮想/バーチャル”の世界!」 
 
時速300kmで走って空中を飛び回る! 
一瞬で衣装を早変わり! 
パンチ一閃、巨大なビルも一撃で破壊する! 
食べたい料理があっという間に目の前に!

という部分
 
メタバース内では何でもできそうな気がしますがそれは全部サービス事業者の設定次第、当然そのようなサービス/パラメータ設定がされていることが前提です。
 
これだとサービス事業者は神に等しいですね。メタバースの課金モデルとしていくつかのレベルのPlanを設定し、高額なPlanでは空を飛べるとかアクティビティレベルを変えてくることもビジネスの観点からは必然ですね。
もちろんいうことを聞かない住人(利用者)のアカウントはBANです!
イメージ
まあ、住人と神のバランスが崩れて一つの神にロックインされないように複数の選択肢は持っておきたいものです。

おわりに

今後メタバースがセカンドライフの轍を踏まずに拡大するとすれば前述のニーズが原動力となるでしょうが、それが持続するかどうかはメタバースが生み出す価値、従来の世界への価値のフィードバックがどれほどのものになるかがキーとなることは皆さんももうお気づきになっていると思います。
 
そうです、仮想空間の区画を売ったり、広告を出したりというビジネスモデルではなく本当にメタバースでしか生み出せない価値が循環する仕組みの確立ですね。
課金する側とされる側という単純なプレイヤーの区分けでは持続力はいずれ失われるでしょう。
 
 
ではまた、次回のエントリーでお会いしましょう。
 
 
Hiroki Sekihara,
CGEIT, CRISC, CISSP, CCSP, CEH, PMP, CCIE #14607 Emeritus,
AWS Certified Solutions Architect – Professional,
AWS Certified Security – Specialty,
Azure Solutions Architect Expert,
Google Cloud Certified Professional Cloud Security Engineer,
Oracle Cloud Infrastructure 2021 Certified Architect Professional,
Oracle Cloud Platform Identity and Security Management 2021 Certified Specialist,

当サイトの内容、テキスト、画像等の転載・転記・使用する場合は問い合わせよりご連絡下さい。

エバンジェリストによるコラムやIDグループからのお知らせなどを
メルマガでお届けしています。

メルマガ登録ボタン


関原 弘樹

株式会社インフォメーション・ディベロプメント フェロー / CISSP

この執筆者の記事一覧

関連するナレッジ・コラム

ITエンジニアの現地作業 ミスを減らす!作業本番のポイントとは

NTTのIP網移行と、通信の未来とは

ITエンジニアの現地作業 ミスを減らす!事前準備のポイントとは