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システムマネジメント事業本部 DCM第6部
テクニカルスペシャリスト
水谷 知彦
テクニカルスペシャリストの水谷です。
― AIエージェントが変える私たちの仕事 ―
今回のコラムでは、最近耳にする機会が増えているAIエージェントについて、触れていきます。生成AIが私たちの身近な存在になってから、AIの使われ方は急速に広がっています。
文章を作成する、長い資料を要約する、外国語を翻訳する、プログラムのコードを書く――。これまで生成AIは、多くの人にとって、質問や指示を入力すると答えを返してくれる「優秀なアシスタント」でした。
しかし現在、その使い方がさらに一歩進みつつあります。そこで注目されているのが「AIエージェント」です。AIエージェントの登場によって、AIは「質問に答えるだけの存在」から、与えられた目的に向かって複数の作業を組み合わせながら「仕事を進める存在」へと変化し始めています。
AIエージェントとは何か
実は「AIエージェント」という言葉には、すべての企業や研究者に共通する厳密な定義があるわけではありません。Anthropicも、エージェントという言葉がさまざまな意味で使われていることを指摘しています。
参考文献:「Building effective agents」(https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents )
とはいえ、現在の代表的なAIエージェントには、いくつかの共通した特徴があります。
OpenAIは、AIエージェントを「利用者に代わって、高い独立性を持ってタスクを実行するシステム」と説明しています(筆者訳)。また、その基本的な構成要素として、AIモデル、外部の機能を利用するためのツール、AIの振る舞いを定める指示などを挙げています。
参考文献: 「A practical guide to building agents」(https://openai.com/business/guides-and-resources/a-practical-guide-to-building-ai-agents/ )
簡単に言えば、
「目的を伝えると、必要な作業を考え、使える道具を選びながら、複数のステップを進めていくAI」
と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、チャット型の生成AIに、
「東京出張の計画を立ててください」
と頼んだ場合、交通手段やスケジュール案を文章として提案してくれるでしょう。
一方、交通情報やカレンダーなどにアクセスできるAIエージェントであれば、条件を確認し、候補を調べ、比較し、スケジュールを整理するといった複数の処理を連続して行うことができます。さらに、予約システムなどを操作する権限が与えられていれば、サービスによっては実際の操作まで行うことも可能です。
ただし、ここで重要なのは、
AIエージェントだからといって、何でも自由にできるわけではない
という点です。
何ができるかは、そのAIに接続されているツールやシステム、そして与えられた権限によって決まります。
「質問する」から「仕事を任せる」へ
AIエージェントを理解するうえで重要なのは、「一回の質問、一回の回答」で終わらないという特徴です。
例えば、
「競合企業3社について調査し、それぞれの特徴を比較して報告書を作成してください」
という仕事を例に考えてみます。
従来型の使い方では、人間が情報を集め、その情報を生成AIに渡して、
「この内容を比較してまとめてください」
と依頼するケースが多いでしょう。
これに対してAIエージェントでは、利用可能なツールと権限の範囲内で、
情報を探す
↓
必要な情報を読み取る
↓
内容を整理する
↓
不足している情報を追加で探す
↓
結果を比較する
↓
報告書としてまとめる
といった一連の処理を進めることができます。
Anthropicは、あらかじめ決められた処理手順に沿ってLLMやツールを動かす仕組みを「ワークフロー」、LLM自身が状況に応じて処理やツールの利用方法を判断する仕組みを「エージェント」と区別して説明しています。
この考え方に沿えば、従来型の業務自動化とAIエージェントの大きな違いの一つは、
「状況に応じて、次に何をするかをAIが判断する余地がある」
という点にあります。
AIエージェントの実用化はすでに始まっている
AIエージェントは、まだ研究段階の技術というわけではありません。すでにソフトウェア開発、情報調査、カスタマーサポート、データ分析など、さまざまな分野でエージェント型のシステムが開発・利用されています。
OpenAIは2025年3月、AIエージェントを構築するためのResponses APIやAgents SDKなどを公開しました。
参考文献: 「New tools for building agents」(https://openai.com/index/new-tools-for-building-agents/ )
Web検索、ファイル検索、コンピューター操作などの機能とAIモデルを組み合わせ、複数の処理を行うエージェントを開発するための仕組みです。
さらにOpenAIが2026年8月に公表した「Enterprise Signals」では、同社の企業顧客において、AIの使い方が、単なる「支援」から、より多くの作業を「委任する」方向へ広がっていると報告されています。
参考文献: 「Enterprise Signals: What frontier firms are doing differently」(https://openai.com/ja-JP/signals/enterprise-data )
ただし、これはOpenAIの企業顧客を対象としたデータです。すべての企業や業界でAIエージェントの導入が同じように進んでいることを示すものではありません。実際の普及状況や活用レベルには、企業や業界、業務内容によって大きな差があると考えるべきでしょう。
便利になるほど、失敗したときの影響も大きくなる
AIエージェントには、大きな可能性がある一方で、重要な課題もあります。従来のチャット型生成AIであれば、AIが間違った回答をしたとしても、人間がその回答を採用しなければ、実際のシステムには影響しないケースが多くあります。
しかしAIエージェントが、
- メールを送る
- ファイルを書き換える
- プログラムを実行する
- 業務システムへデータを登録する
といった権限を持つようになると、事情が変わります。AIの判断ミスが、そのまま「実際の操作」につながる可能性があるからです。また、AIエージェントに関係するセキュリティ上の課題として「間接プロンプトインジェクション」があります。
例えば、AIエージェントがWebページやメールを読み取って仕事をしているとします。
その文章の中に、AIをだますための命令が仕込まれていた場合、AIがその命令を取り込み、本来の目的とは異なる行動を取ろうとする可能性があります。
米国国立標準技術研究所(NIST)は2026年3月、外部のメール、Webサイト、コードリポジトリなどを扱うAIエージェントについて、こうした「エージェントハイジャック」と呼ばれる攻撃リスクを取り上げています。
参考文献: 「Insights into AI Agent Security from a Large-Scale Red-Teaming Competition」(https://www.nist.gov/blogs/caisi-research-blog/insights-ai-agent-security-large-scale-red-teaming-competition )
AIが「答える」だけであれば、誤った回答を人間が見抜くことが最後の砦になります。しかしAIが「行動する」ようになると、行動が実行される前の段階で安全対策を組み込んでおくことが、これまで以上に重要になります。
だからこそ「人間を外さない」設計が重要になる
では、AIエージェントが高度になれば、人間は必要なくなるのでしょうか。少なくとも現在のAI技術を考えると、そう単純ではありません。重要なのは、「AIにどの仕事を任せ、どこから人間が判断するのか」をあらかじめ設計することです。
例えば、情報を調査して報告書の下書きを作るところまではAIに任せても、社外へ公開する前には人間が確認する。プログラムの修正案作成やテストまではAIに任せても、本番環境への反映には人間の承認を必要とする。こうした考え方です。
OpenAIのAIエージェント構築ガイドでも、取り消すことが難しい処理や、金銭の支払いなど影響の大きい処理については、人間による監督を組み込むことが重要だと説明しています。[2]
また、AIエージェントが利用するツールについても、
- 「参照するだけなのか」
- 「書き換えられるのか」
- 「操作を元に戻せるのか」
- 「金銭的な影響があるのか」
といった観点からリスクを考える必要があります。
- AIに必要以上の権限を与えないこと。
- 重要な操作では人間の承認を求めること。
- AIが何を実行したのか記録を残すこと。
- 問題が発生した場合に処理を停止できる仕組みを用意すること。
こうした考え方は、従来のITシステムにおけるセキュリティや運用管理と共通するものであり、AIエージェントの時代になっても変わらず重要です。
AI時代に変わる「人間の仕事」
これからAIエージェントの活用がさらに広がれば、人間の仕事も少しずつ変化していくでしょう。これまで私たちは、「AIに何を質問するか」を考えてきました。
これからは、それに加えて、
- 「AIに何を任せるのか」
- 「どこまでの権限を与えるのか」
- 「どの段階で人間が確認するのか」
- 「AIが正しく仕事をしたことをどう確認するのか」
を考える必要があります。
これは、単なる「AIの使い方」の問題ではありません。業務プロセスそのものを見直すことにつながります。AIに任せる部分、人間が判断する部分、従来型のシステムで自動処理する部分。それぞれの役割を整理することが、AIエージェントを活用するうえで重要になっていくでしょう。
IT技術者の視点から
AIエージェントという言葉を聞くと、「ついにAIが、人間の代わりに何でも仕事をしてくれる時代が来る」という印象を持つかもしれません。
しかし、現在のAIエージェントは万能な存在ではありません。
判断を間違えることもあります。情報が不足していれば、適切な処理ができないこともあります。そして、利用できるツールや与えられた権限によって、できることは大きく変わります。だからこそIT技術者に求められるのは、単にAIに仕事を任せることではなく、
「AIが安全に働ける環境を設計すること」ではないでしょうか。
どの情報を与えるのか。
どのシステムへのアクセスを許可するのか。
どこまで自動化するのか。
どの操作には人間の承認を必要とするのか。
そして、AIが行った仕事が正しかったのかをどのように確認するのか。
AIが高度になればなるほど、こうした設計の重要性はむしろ高まっていくように思います。
これまで生成AIは、私たちの質問に「答える」存在として急速に普及してきました。
AIエージェントの登場によって、AIは少しずつ、私たちと一緒に「仕事を進める」存在へと変化しています。ただし、その主導権までAIに渡す必要はありません。AIに仕事を任せながらも、目的を決め、ルールを作り、重要な判断を行い、最終的な責任を持つのは人間です。
「AIをどう使うか」から、「AIとどう仕事を分担するか」へ。
AIエージェントの広がりは、私たちの働き方、そしてITシステムのあり方を、見つめ直すきっかけになるのかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた次のコラムでお会いしましょう。
※本稿は2026年9月時点で公開されている情報をもとに作成しています。AI関連技術・サービスは変化が速いため、製品の具体的な機能や利用条件については、各提供元の最新情報をご確認ください。
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