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DX銘柄2025選定企業におけるデジタル広報の最新動向【2026年1月版】

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ITコンサルティング

アソシエイト・コンサルタント 下村 莉穂
アソシエイト・コンサルタント 須賀 かれん

はじめに

デジタル技術は、多くの企業にとって欠かせない基盤となり、ITやDXへの取り組みは経営戦略と密接に結びついています。これに伴い、企業がITやDXの方針・取り組み状況・成果を社内外に発信するデジタル広報(技術広報)の重要性も高まっています。近年では、DXの実施有無だけではなく、戦略の背景や実行プロセス、成果と課題といった具体性が求められるようになりました。本コラムでは、DX銘柄2024選定企業を対象とした前回調査を踏まえ、前回調査時から継続している取り組みや新たな変化に着目し、デジタル広報の現状を整理します。

なお、今回の調査対象であるDX銘柄2025の選定企業数は56社となり、前回(DX銘柄2024)の51社から増加しています(詳細はAppendix参照)。選定企業数の増加も考慮したうえで、デジタル広報の発信内容の傾向や変化を見ていきます。

今回の選定企業におけるデジタル広報の動向から、DXの進展に応じた情報発信の在り方を検討するヒントとなれば幸いです。

デジタル広報(技術広報)とは

情報技術(IT)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する組織の取り組み状況や専門知識に関する情報を、社外および社内へ発信する広報活動のことを、本コラムではデジタル広報(技術広報)と定義します。

デジタル広報活動を社外向け及び社内向けに実施することにより、以下のような効果が期待できます。

【社外】

  • デジタル化の推進を目指した企業の取り組みについて、関係者(株主、投資家、求職者など)への説明責任を果たす
  • ITへの意識が高い企業であることをアピールし、企業のブランドイメージを向上させる

【社内】

  • 社員のIT知識やスキルを向上させ、業務効率を改善する
  • 社内のデジタル化を推進させるような、組織文化を醸成する

当社で実施した調査について

企業が社内のIT関連活動をどの程度発信しているか、デジタル広報活動の取り組み状況を調査しました。

【調査対象】

本調査の対象として、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2025」(以降、「DX銘柄2025選定企業」と記載する)に選定された企業にフォーカスし、デジタル広報の実態を調べました。
調査の実施にあたり、対象とする企業がデジタル広報活動で発信する内容となる、ITやDXに関する取り組みに対し、積極的であることが必要となります。DX銘柄2025に選定された企業は、デジタル化に関して優れた取り組みの実施状況が評価されたことから、本調査の対象として設定しました。

※デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)とは?

DX銘柄とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定することで、目標となる企業モデルを広く波及させ、経営者の意識改革を促すとともに、幅広いステークホルダーから評価を受けることで、DXの更なる促進を図るものです。DX銘柄に選定された企業は、単に優れた情報システムの導入、データの利活用をするにとどまらず、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのもの及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業です。また、企業の競争力強化に資するDXに向けた取組を強く後押しするため、銘柄選定企業の中から“デジタル時代を先導する企業”として「DXグランプリ企業」を発表します。さらに、特に傑出した取組を継続している企業を「DXプラチナ企業2025-2027」として選定します。これら企業のさらなる活躍を期待するとともに、こうした優れた取組が他の企業におけるDXの取組の参考となることを期待します。

引用: “「DX銘柄2025」「DX注目企業2025」「DXプラチナ企業2025-2027」を選定しました”.経済産業省.2025-4-11.https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250411002/20250411002.html(参照2026‐1‐14)

【調査観点】

調査の観点として、次の3つの取り組みを実施しているか、また実施している場合、その内容について分析しました。

  1. DXサイトの公開
    本調査では、公開サイトのなかでも、企業のITやDXに関する取り組みの発信を専用としているサイトをDXサイトと定義する。
    DXサイトの有無とその内容を確認した。
  2. IRレポートにおけるITやDXに関する取り組みの発信
    IRレポートとは、一般的に企業が財務情報と非財務情報を統合して提供する報告書を指す。財務情報には企業の業績や財務状況に関するデータが含まれ、非財務情報には環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報や、企業の長期的な価値創造に関する戦略やビジョンが含まれる。
    IRレポートにおけるITやDXに関する取り組みの発信の有無とその内容を確認した。
  3. ITレポートの公開
    本調査では、企業のITやDXに関する取り組みの発信を主題とした資料をITレポートと定義する。
    社外向けITレポート公開の有無とその内容を確認した。

【調査の切り口】

調査の切り口として、以下項目の有無について確認しました。

メッセージ ITやDX関連の経営陣によるメッセージ
DX戦略・ビジョン ITやDX関連の取り組みに対する企業戦略やビジョン
ロードマップ ITやDX関連の取り組みに関する事業計画、ロードマップ
体制 ITやDX関連の社内の取組体制
取組事例 ITやDX関連の企業の取組事例
リスク管理 ITやDX関連のサイバーセキュリティ体制などリスク管理の状況
人材育成 ITやDX関連の人材育成に関する取り組み
目標・指標 ITやDX関連の目標・指標
ニュース・ブログ ITやDX関連のニュースやブログ ※DXサイトのみ


調査結果

調査結果と、調査の結果から見えてきたデジタル広報の実態についてまとめます。

① DXサイト

DX銘柄2025選定企業56社中38社(約68%)がDXサイトを公開していることが明らかになりました。DXサイトを公開している企業の割合は前回調査時の結果(51社中36社、約71%)と大きな変化はありませんでした。



DXサイトの掲載内容としては、前回調査時と同様に「取組事例」や「DX戦略・ビジョン」を紹介しているケースが多く見られました。一方で、前回調査時と比較すると、AIに関する内容が盛り込まれた企業が増加しており、業務効率化や高度化などの活用事例に加え、生成AIなど新たな技術を取り入れた取組を紹介する企業も見受けられました。AIをDX推進の重要な要素として位置づけ、具体的な活用方針や検証状況を発信する動きが広がっているように感じます。

DXサイトへの主なアクセスルートは、投資家向け情報や製品・ソリューション情報、会社概要などからリンクされている場合が多く、企業によってはトップページから直接アクセスできるようになっています。構成については、情報を1ページに集約している企業がある一方、複数ページにわたって情報を発信している企業もあります。後者はより内容が充実しており、発信に力を入れている印象を受けました。

また、具体的な取組内容や関連画像を複数掲載している企業についても、積極的に発信を行っている姿勢がうかがえます。さらに、AIの利活用が進む中で、セキュリティや倫理に関する内容をサイト内に盛り込んでいる企業は、ガバナンスに対する意識も高いと考えられます。

◆DXサイトにおける「取組事例」記載例


取組概要 成果
A社
(建設業)
現場データを活用した業務プロセス改革
現場で発生する情報をデジタルで集約・可視化し、遠隔での確認や判断を可能にする業務プロセスの高度化を推進。
デジタル基盤の整備による業務の一体化
分散していた業務システムやデータを統合し、部門間で情報を共有できる共通基盤を整備することで業務連携を強化。
現場情報の可視化と業務基盤の統合を進めたことで、部門間連携が向上し、業務の効率化と意思決定の迅速化を全社的に実現した。
B社
(製造業:食料品)
データを活用したマーケティング・商品開発変革
顧客行動・属性など多様なデータを統合し、個々の顧客体験や商品・サービス開発の高度化にデジタル技術を活用。
サプライチェーンと生産プロセスのデジタル最適化
需給の最適化や物流の効率化・標準化を進めるとともに、センサーや自動化技術で生産ラインの効率と品質を向上。
データ活用と業務のデジタル最適化により、商品価値の向上と生産・物流の効率化が進み、競争力が強化された。
C社
(エネルギー・インフラ業)
ドローン・AIによるインフラ点検の高度化
ドローンで取得した映像データをAIで解析し、構造物の異常を効率的かつ高精度に検出する点検手法の高度化を推進。
精度の高い異常検知を実現し、点検コスト削減・作業時間短縮を実現した。


◆DXサイトにおける「ニュース・ブログ」記載例


掲載内容
D社
(製造業:医薬品)
  • 生成AI活用Chatアプリの開発
  • データサイエンス活用イベントの報告
  • クラウド利用の実践例
  • 研究開発でのデジタル技術の活用例
  • 各部門でのDX推進事例


② IRレポート

前回調査時に引き続き、今回の調査対象企業もすべて、IRレポートにおいて社内のITやDXに関する情報を掲載していました。
多くの企業が取組事例や人材育成、DX戦略・ビジョンを取り上げており、1~2ページの特集としてまとめるケースがある一方で、複数ページに分散して掲載するケースも見られます。

特に、人材育成に関するページにおいて、デジタル分野の育成方針を明記する企業が多く確認されました。 IRレポートでは、投資家向け情報として、中長期経営計画と連動したDXの全体像や戦略、当該年度の進捗状況が、定性的・定量的な観点から示されています。

あわせて、翌年度以降に予定されている新たな取り組みや、進行中プロジェクトの目標についても明示されています。 これらの傾向は前回調査時と比較しても大きな変化はなく、引き続きIRレポートにおいてITやDXに関する取り組みを発信することを重要視する企業が多いと考えられます。

◆IRレポートにおける記載例


内容
E社
(卸売・小売業)
実績
  • 新規部署立ち上げによるアイデアの実現(件数で報告)
  • DX人財育成の推進(人数で報告)
翌年度以降の目標
  • 新規共通プラットフォームへの既存サービスの適用を推進(前年比で目標設定)
  • 3年以内の計画的な人材育成の実施(人数と割合で目標設定)


③ ITレポート

DX銘柄2025選定企業56社中18社(約32%)がITレポートを作成していました。


ITレポートに取り組んでいる企業は依然として多くはありません。しかし、前回調査時では、DX銘柄選定企業のうちITレポートを公開していた企業は約16%(51社中8社)にとどまっていたのに対し、今回は約32%と2倍に増加しており、デジタル広報に対する意識の高まりがうかがえます。レポートの形態は多様で、IRレポートのように詳細な情報を記載するもののほか、記者会見や社外向け説明会で使用したPPT資料を掲載するケースも見られました。

形式に明確な決まりはなく、各社の特色が反映されています。内容面では、主に取組事例やDX戦略・ビジョンが取り上げられていました。DXサイトと同様に、取組事例では前回調査時と比べてAIに関する記載が増えており、単なる技術紹介ではなく、全社的なIT施策の一環として位置づけて説明するケースが目立ちます。AIを個別テーマとして扱うのではなく、既存システムや業務改革と結び付けて整理している点は、ITレポートならではの特徴と言えるでしょう。

IRレポートのように毎年更新することが必須ではないため、目標や指標に関する記載は少ない一方で、具体的な事例は比較的充実しています。毎年更新をするわけではない企業においては、最新の数値が掲載されていない場合もありますが、その一方で、取り組みの背景や狙い、注力分野などの説明にページを割いているケースも見られました。成果や実績のアピールにとどまらず、今後どのような方向性でIT・DXを推進していくのかといった計画や考え方を重視している点も、ITレポートならではの特徴といえます。

◆ITレポートにおける記載例


内容
F社
(運輸・物流業)
  • デジタル技術に関する取り組み
    新たな自社決済サービスの開発など
  • システム開発に関する取り組み
    列車の遅延情報をリアルタイムで反映し、顧客ニーズを実現など
  • IT資産に関する取り組み
    自社ポリシーを策定し、データ取引の「利活用促進」と「安全性確保」を両立など
※デジタル技術、IT人財、ITリスクなど分野別に取り組みを記載


まとめ

DX銘柄2025選定企業を対象としたデジタル広報の取り組み状況としては、今回の調査においても、全体としては前回調査時からの大きな変化は見られませんでした。DXサイトやIRレポートについては、引き続き多くの企業が情報発信の主要な手法として活用しており、デジタル広報の基盤として定着している状況がうかがえます。これらの媒体は、DX戦略や中長期ビジョンを示す場として一定の役割を果たしており、企業のデジタル広報活動にとって欠かせない存在となっています。

一方で、今回の調査で特に目立ったのが、ITレポートを公開している企業の増加です。その割合としては前回調査時と比較して約2倍となっており、ITやDXに関する情報を、より体系的かつ専門的に整理して発信しようとする動きが広がっていることがわかります。単発のニュースや事例紹介だけではなく、施策の進捗、成果や課題をまとめて伝える手法として、ITレポートの有効性が改めて認識されてきたと考えられます。

この変化の背景には、DXに対する社会的な視線の変化があります。これまでのように「DXに取り組んでいる」という事実を示すだけでは不十分となり、「どの領域で、どのような目的を持ち、どの程度の成果を上げているのか」といった具体性や説明力が求められる段階に入っています。ITレポートの増加は、こうした期待に応えようとする企業姿勢の表れとも言えます。

デジタル広報は、企業のブランド価値や信頼性を支える重要な要素でもあります。特にITやDXは専門性が高く、外部からは実態が見えにくい分野です。そのため、情報開示が不十分な場合、「何をしているのかわからない」「本当に成果が出ているのか」といった不安を招きかねません。継続的で整理された情報発信は、企業の取り組みを正しく理解してもらうための土台となります。

また、デジタル広報は社外だけでなく、社内への効果も見逃せません。DXの方向性や進捗を明確に発信することで、従業員の理解や当事者意識が高まり、全社的な取り組みとしてDXを推進しやすくなります。特に、ITレポートのように施策や成果を可視化する取り組みは、現場の納得感やモチベーション向上にもつながります。

今後、DXは企業経営の中核として、より長期的かつ継続的に取り組むテーマとなっていきます。その中で、DXサイトやIRレポートで全体像や戦略を示し、ITレポートで具体的な実行状況や成果を補足するなど、役割を意識したデジタル広報の重要性は一層高まるでしょう。企業には、自社のDXの進化に合わせて、情報発信の在り方を見直し、戦略的にデジタル広報を推進していく姿勢が求められています。

Appendix

◆DX銘柄2024から2025への選定数の推移

※各区分の選定数は優劣を示すものではなく、あくまで構成変化を把握するための参考情報として整理しています。

区分 2024 2025 増減
DX銘柄 25 31 +6
DX注目企業 21 19 -2
DXプラチナ企業2025-2027 - 1 +1
DXプラチナ企業2024-2026 2 2 ±0
DXプラチナ企業2023-2025 3 3 ±0
合計 51 56 +5

 

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