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IT×金融 -高度な技術力と実践知識を磨く「金融IT検定」

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ICTサービス第6部
テクニカルスペシャリスト 千葉 由紀祐顔写真

こんにちは、テクニカルスペシャリストの千葉です。

8月も残り僅かとなりましたが、今年は本当に暑い日が続きました。
昨年が記録的な暑さの年と言われていましたが、私は今年の方が暑く感じました。気象庁の季節予報(11月まで)では、50~60%の確率で、例年より気温が高くなるそうです。
秋の紅葉や涼しさを楽しむ期間が短くならないか気になる今日この頃です。
 
前回のコラム(デジタル時代の自律的な学びに必要なポイントと”楽しさ”とは)で取り上げた、NPO法人 金融IT協会が主催する金融分野のIT開発、利活用に必要な知識を問う「金融IT検定試験」の概要・シラバスが同協会のHPで公開されました。
銀行、証券会社、保険会社の金融系システムに携わっているIT技術者の方で、内容に興味を持たれている方も多いのではないでしょうか。
 
私自身、社会人になってからこれまで、金融系システムに長く携わってきました。今回のコラムでは、金融系IT技術者が取り組むべきテーマについて、金融IT検定試験内容に触れながら述べていきたいと思います。

金融系システムの特徴

最初に、金融系システムの特徴を挙げたいと思います。非金融系と比較すると、主に以下の点が重視されています。

  • セキュリティ、コンプライアンス
    個人情報や取引情報を堅固に保護するためのセキュリティ構築、及び最新の法令等遵守のためのシステム・プロセスへの反映

  • 可用性、機密性、完全性
    高い稼働率を実現する可用性、大量データを扱う上での機密性、取引履歴等のデータの完全性の確保

  • リスク管理
    信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクなどの予測、軽減・回避のためのリスク管理とシステム・プロセスへの反映

  • 高パフォーマンス
    リアルタイム取引に対応可能な高パフォーマンスのシステム構築

金融系システムのIT技術者は、これらの内容を重視・前提とした上で、最新のIT技術活用の取り組みや、ITサービス提供・提案を行うための業界知識、顧客動向の把握などの情報収集が必要となります。
 
では、金融系IT技術者に求められる知識・技術と金融IT検定試験の関連性について、シラバスとHP掲載の参考資料から見ていきます。

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金融IT検定試験の目的・概要

検定試験の目的は「金融機関におけるIT・デジタル活用に必要な知識を問うことで、業界で必要とされる技術・知識・業務等を共通化し、ベンダー等との意思疎通がスムーズに行える環境を整える事」とされています。
対象者は金融業界に従事するすべての人であり、今回の初級検定は、金融機関のIT部門の新人~中堅まで、IT技術者はこれから金融系システムに携わる人となっています。
 
金融業界のITシステムに携わる上で、IT部門もIT技術者も必要最低限、理解しておく必要がある内容と言えます。

金融IT検定の出題分野と範囲

出題分野は“ITシステム分野”、“金融デジタルビジネス分野”、“金融システム分野”の3つに分かれており、IT、金融それぞれの専門分野と、IT×金融の分野の内容となっています。各分野の具体的な内容を1つずつ見ていきます。

ITシステム分野



出題範囲/内容 キーワード例
IT・DXの潮流
金融のみならず、社会全体のIT化、DXの流れにおけるキーワードや、DXに必須のデータ分析の基礎理解も問う(DXの基礎理解、データ分析の基礎理解)
SEO技術、LLM、ブロックチェーン、Web3、ディープラーニング、クラウドサービス、UI/UX、データレイク、データ分析手法、顧客体験
ITの基礎用語
IT分野における、構築、運用等に必要なユーザ企業と開発ベンダーとの共通の物差しとしてのITの基礎用語を問う(最新技術ワード、IT基礎用語)
業務フロー図、メタバース、アクセシビリティ、シャドーIT、仮想化、暗号化・復号化、ランサムウェア、リスクベース認証、RPA
テクノロジ
金融分野のIT開発におけるテクノロジ分野の知識を問う(データベース、ネットワーク、セキュリティ、システム設計)
NoSQL、5G、AWS情報基盤、クラウドシフト、匿名化、セキュリティ対策、API、OSS
プロジェクトマネジメント
開発技術、上流工程(要件定義、基本設計)、プロジェクトマネジメント技術、サービスマネジメント、システム監査
要件定義、アジャイル、ガントチャート、ITIL、ローコード開発、システム監査基準、テスト、スクラム、WBS、SLA、ITガバナンス
ビジネス戦略 プロジェクト推進、セキュリティ対策、システム開発・運用に関する用語や事例
※金融IT協会HP掲載のシラバス・参考資料を参考に作成

ITシステム分野については、社会全体におけるDX推進に関する知識や最新のIT技術と、システム開発における技術・工程、プロジェクト管理などを挙げています。
 
キーワード例を見ると、ITシステム分野はシステム開発の基本的な内容から、最新のIT動向まで網羅的に取り上げられています。
金融系システムの特徴で述べた通り、堅固なシステム構築を行うために、最新のIT技術を積極的に取り入れている事から、常に最新技術を幅広く抑える必要がある点で分かり易く纏められています。

金融デジタルビジネス分野



出題範囲/内容 キーワード例
消費者変化と顧客理解
デジタルネイティブ世代の台頭、顧客のオンライン志向の高まりなど、消費者行動の変化を理解し、データから洞察を引き出し活用する力が問われる
デジタルネイティブ、非対面サービス、顧客起点、顧客価値、顧客の行動データ、顧客行動分析、WEB閲覧履歴、プライバシーとデータ保護、UNBANKED層、SWOT分析 等
顧客管理
デジタル技術を活用した顧客接点の強化、顧客体験の向上、ロイヤルティの構築などが重要となる。セグメンテーションやパーソナライゼーションも鍵となる
CRM、チャットボットとAIアシスタント、顧客特定、顧客接点の確保、顧客セグメンテーション、WEB閲覧履歴、ロイヤルティプログラム、オンボーディング、デジタルアイデンティティ、リスク管理とコンプライアンス、多要素認証、バイオメトリック認証 等
デジタルマーケティング
デジタルチャネルを活用し、ターゲットとなる顧客層へのアプローチ、関係構築を行う。コンテンツ、ソーシャル、モバイルなど多岐にわたる
デジタルマーケティング、コンテンツマーケティング、アウトバウンド/インバウンドマーケティング、SEO、PPC広告、アフィリエイト、クロスセル、フィードバックループ、O2O/OMO、UI/UX、店舗のデジタル化、営業活動のデジタル化 等
商品・サービスの革新
フィンテックの登場により、金融商品・サービスのデジタル化、リアルタイム化、カスタマイズ化などが進展。AIやブロックチェーンの活用も広がる
フィンテック、バンキングアプリ、BaaS、ネオバンク、チャレンジャーバンク、ブロックチェーン、ピアツーピア融資、クラウドファンディング、モバイルペイメント、インシュアテック、リアルタイムフレームワーク、ウェアラブルデバイス 等
デジタルプラットフォーム、エコシステムの作り方
金融機関がプラットフォームを提供し、様々なプレーヤーが参加するエコシステムの形成が進む。オープンイノベーションの活用がカギとなる
デジタルプラットフォーム、B2B2C、パーソナライズ、アルゴリズムの透明性、オープンバンキング、ネットワーク効果(ネットワークエフェクト)、マルチサイドプラットフォーム、プラットフォームガバナンス 等
顧客価値を高めるための方法
デジタル技術により、顧客一人一人に合わせた体験価値の提供が可能に。UI/UXの設計、パーソナライズ、コミュニティ形成などがポイントとなる
価値提案の設計、カスタマイズとパーソナライゼーション、UIデザイン、顧客体験の向上、エンドツーエンド、リワード、ポイント割引制、レコメンド、ゲーミフィケ―ション、プロセスエコノミー、ユーザーフィードバックとイテレーション 等
金融DX事例
国内外の実在する具体的な事例を扱う。金融業界だけでなく、非金融業界における金融サービスの事例も多く存在する
QRコード決済サービス、ワンコイン投資、テレマティクス保険、オンデマンド保険、スマートコントラクト、ソーシャルトレーディング、アルゴリズム取引、これらに関する実在の金融デジタルサービス 等
銀行特有のテーマ
デジタルバンキングの進展、キャッシュレス化などにより銀行ビジネスも大きく変革。新たな収益源の確保、リスク管理高度化などが喫緊の課題
モバイルバンキング、非接触決済、インターネット専業銀行、KYCとAML、金融包摂、バーチャル支店、レギュラテックとコンプライアンス
保険業界特有のテーマ
IoTやウェアラブル端末の普及で、リスクの予防・低減を促す新たな保険サービスが登場。保険金支払いのデジタル化、効率化も進む
テレマティクス保険、オンデマンド保険、プリベンティブヘルスケア
証券業界特有のテーマ
デジタル技術の活用で、リアルタイム取引、ロボアドバイザーなどの新サービスが拡大。市場分析へのAI活用、ブロックチェーン活用なども進む
アルゴリズム取引、ソーシャルトレーディング、ロボアドバイザー、マーケット分析AI、ESG投資
※金融IT協会HP掲載のシラバス・参考資料を参考に作成

金融デジタルビジネス分野では、金融機関の金融サービスにおけるデジタル活用・DX推進の取り組み内容や、銀行・保険会社・証券会社特有のテーマが取り上げられています。
 
IT技術者が、より高い付加価値を持つサービスを提供するため、顧客と価値共創を行う上で業界の実態・動向の把握は行う事は非常に重要です。
日々の業務やニュース・報道で得られる情報は一部であり、意識して顧客からの情報収集や国内外の取り組み事例等の情報収集を行わないと有効な情報を得る事は難しいです。
 
また、変化のスピードが速いことから習慣的に取り組む必要があります。その際に上図の出題範囲の観点は、情報収集の参考になると思います。

金融システム分野



出題範囲/内容 キーワード例
金融とITの関わり
金融業はITなくしては成り立たない情報産業であり、ITを重要な経営資源と位置付け、他産業に先駆けて活用してきた。こうした背景を元に、金融ならではのITの特性やITの重要性への理解を問う
金融におけるIT活用、IT投資、インターネットバンキング、SOA、匿名化、機微情報、フィッシング 等
金融機関等のITシステム
銀行のシステムは第3次オンラインシステムで一定の完成度をみた。こうした背景を元に、金融機関のITシステムの現状に関する基礎知識を問う
第3次オンライン、モダナイゼーション、切り戻し、目標稼働率、勘定系、情報系、事務系、CIF、DBMS、オープンAPI、リスク管理、ATM、流動性リスク、コロケーション、証券コード、カード決済端末、全銀EDI 等
金融ネットワーク
金融機関相互のネットワーク、資金決済システムインフラ、証券決済インフラに関する基礎的な知識を問う
全銀ネット、保管振替、統合ATMスイッチングサービス、ことら、シー・アイ・シー、EDINET、キャッシュレス決済、ペイジー、CAFIS、SWIFT、個人信用情報機関 等
金融機関DXとIT
システムの目的が、業務の効率化や利便性への貢献だけでなく、ビジネスモデル変革(DX対応)に移ってきたことを理解する。また、金融周りで起こっているITの最新トレンドにキャッチアップする
マーケティング、BaaS、ネオバンク、Fintech、クラウドの特性、ゼロトラスト、CCoE、構造化データ、説明可能AI、RAG 等
新しい金融サービスと次世代金融
金融は変革を求められ、新しい在り方が模索されている。新しい金融サービスとしてどのようなものが議論されているのか、金融におけるブロックチェーンの活用可能性等について考える
情報銀行、デジタルバンク、eKYC、クラウドファンディング、ブロックチェーン、暗号資産、ステーブルコイン、セキュリティトークン、CBDC 等
金融ITシステム関連ガイドライン等
金融ITの開発にあたっては、各種ガイドラインや法規制等を理解していることが必要であり、関連する基礎的な知識を問う
ISO20022、クラウドの基準、金融ISAC、リスク規制、安対基準、PCIDSS、FATCA、SoC2、個人情報ガイドライン、マイナンバー 等
※金融IT協会HP掲載のシラバス・参考資料を参考に作成

金融システム分野については、金融業界がITを率先して活用してきた背景や金融系システムの実状、および、将来の金融系システムのあり方の議論内容の理解といった内容となっています。
 
金融業界が、ITを重要な経営資源とし、技術の進歩と共に活用を検討されてきた事、または検討されている事を、IT技術者が理解・認識しておくのは、顧客と価値共創を行っていく上で重要です。金融業界の検討・議論の内容は積極的に情報開示されている事から、上図のキーワード例などを参考にすると情報収集が進めやすいと思います。

金融系IT技術者が取り組むべきテーマ

これまでに3つの分野について説明してきましたが、最初に述べた金融系システムの特徴をしっかりと理解した上で、これらの分野を深く掘り下げることは、金融系IT技術者にとって非常に有益であり、取り組む価値のあるテーマだと言えると思います。
 
特に、ITシステム分野の情報収集・技術習得のみに注力されている方は、金融デジタルビジネス分野と金融システム分野の情報収集に取り組むことで、業界・相手を知る事ができ、より高い付加価値を持つサービス提供や顧客との価値共創につながります。
 
そして、IT技術・デジタル活用は日々進化しており、活用の検討も活発に行われている事から、情報収集を習慣化する事も大切です。
収集した情報を自分の言葉で他人に説明できる程度に理解できれば、その知識は実務でも十分に活用できるものとなります。

まとめ

IT技術者である以上、ITシステム分野の知識を深め、実践活用できる技術を身に付ける事は責務です。
実務で得る技術・スキルと合わせて、金融系システムの特徴を認識した上で、金融デジタルビジネス分野と金融システム分野の知識習得に取り組み、習慣化する事が重要です。
 
その際、金融IT検定試験の内容は大いに参考になります。私も、金融系のIT業界に入った当初、情報処理技術と銀行業務を並行して勉強した時期がありました。当時このような検定資格があれば、より実践的な知識を効率的に習得する参考になったと思います。
 
なお、今回は金融業界に焦点をあてた内容ですが、他業界のIT技術者にとっても、業界の特徴を抑えた上で、3分野の知識を高める取り組み方は有効だと思いますので、参考にしてみてください。

では、また次回コラムでお会いしましょう。




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千葉 由紀祐

株式会社IDデータセンターマネジメント テクニカルスペシャリスト

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