サイバー・セキュリティ・ソリューション部
テクニカルスペシャリスト 藤原 和紀
先日、マイクロン・テクノロジーがコンシューマーから撤退し、Crucialブランドを終了すると発表しました。長年親しんできたブランドですので非常に残念ですが、OEM供給は継続されることを願っています。ここのところAI需要が原因でメモリやSSDが急騰していますので、いずれはスマホや家電などに影響が及ぶのは避けられないでしょう。
さて、本題ですが、2025年9月に私にとってショッキングなニュースが飛び込んできました。
民放5局がBS 4K放送の2027年度免許更新を行わず、撤退する方針を固めたという報道が流れました。ニュースソースは総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会・衛星放送ワーキンググループ第15回」での議論のようです。
総務省 衛星放送ワーキンググループ(第15回)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/eiseihosoWG_15th.html
衛星放送ワーキンググループ(第15回) 議事要旨
https://www.soumu.go.jp/main_content/001035853.pdf
BS4K撤退の背景
TBSは『BS4Kは採算が取れない』として撤退を検討しています。撤退は決定事項ではありませんが、撤回の可能性は低いでしょう。この状況は民放5局に共通していると捉えていいでしょう。そもそも、BS4Kでは視聴率調査を行っていないため、どのような視聴者層かわからないという問題がありました。
そのため、⼀般社団法⼈放送サービス⾼度化推進協会(A-PAB)は4K・8K放送市場調査として、4K(8K)テレビ所有状況をもって普及率としていました。2025年6⽉末累計で、4K8K衛星放送視聴可能機器台数は約2,330万5千台と発表されています。
A-PAB 4K8K衛星放送”視聴可能機器台数 2025年6月までの集計値について
https://www.apab.or.jp/wp-content/uploads/2025/09/release_250724.pdf
この集計は所有台数であり、実際の視聴者数を示していません。別の資料でA-PABが公表している「テレビ視聴動向リサーチ」という全国5,000サンプルにアンケート調査したもので、4K/8K衛星放送を見たという割合は11.2%となっています。ただ視聴理由は内的要因として「画質の良さを確かめたかったから」、外的要因として「新しいテレビを買ったから」が一位となっています。つまり、4K8K放送はどんなものかを確認しただけで、視聴習慣に繋がっていないと想定されます。
「テレビ視聴動向リサーチ」2025年2月調査結果 - 一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)
https://www.apab.or.jp/release/4321/
本来、アンケートでは視聴習慣を尋ねればいいのですが、視聴率の実態を公にしたくなかったと思われます。
最も実態に近いのはTVZ REGZAが提供する「レグザテレビ視聴データ分析サービス」です。テレビから直接インターネットを通じて視聴データをとりこみますので、正確に分析ができます。実際に、同ワーキンググループ内の発言で、「7月期で一番見られたコンテンツについてREGZAさんのデータで調べたところ、さきほどの4K対応テレビ270万台のうち、一番視聴されたもので、他局の花火大会の番組で、8,000台から9,000台ほどの台数でした。」という発言がありました。約279万台の中で8,000台~9,000台しか視聴していないとなると0.33%です。4Kテレビを所有しない世帯やアンテナの無い世帯を加味すると視聴率はさらに下がり、まったく商業ベースになるものではありません。
更にTBSの資料によると、営業収入はわずか1,200万円しかないとなっていますが、年間数十億ともいわれる衛星の使用料を考えると到底事業として成り立つものではありません。必然的に、予算が付かず民放各局ともにピュア4K(4Kで製作された番組)のコンテンツはわずかで、2K放送が主となっています。
筆者も4Kには期待していましたが、ピュア4Kはニュースや一部のコンテンツしかなく、見たいコンテンツがほとんど放送されないという状況でした。地上波の番組も全部4Kで作成して、サイマル放送(同じ番組を複数のプラットフォームで同時に放送する)をすれば視聴率は増えたと思います。しかし、BSでそれをやると特に地方局の視聴率が大幅に下がり、キー局でも地上波の視聴率が下がるという問題があるため、実施は望めません。
そんな中、NHKだけは4Kに力を入れており、再放送も多いものの基本的にピュア4Kか4Kリマスターの放送となっています。4Kリマスターであっても映画の4Kリマスターを行うプレミアムシネマ、坂の上の雲、ウルトラQなど、多くの作品が4Kリマスターされています。
一方で、TBSの資料では4KはBSではなく配信で続けることをうたっており、BS4K撤退にあたって、4Kをやめるわけではないという国への配慮がうかがえます。実際に配信でも同じコンテンツなら4Kの人気が高いという統計は取れていますので、4Kに需要が無いというわけではなく、視聴環境をそろえるハードルが高く、そこまでのモチベーションが湧かないというのが現実でしょう。
BSチャンネルの縮小
民放が本当に撤退してしまうと、BS右旋で残る4K放送はNHK BSプレミアム4K、ショップチャンネル4K、4K QVCの3局だけになります。OCO TVも4Kでの認可をとってはいますが、開局は未定となっています。実はBS2Kのチャンネルも減少傾向で、BSJapanext(現BS10)、BSよしもと、BS松竹東急(現J:COM BS)が新規に開局していますが、一方で、すでにDlife、FOXスポーツ&エンターテインメント、BSスカパー!、BSプレミアム、スターチャンネル2、スターチャンネル3が撤退をしています。

さらに深刻なのは左旋です。左旋はNHK BS8K、WOWOW 4K、ザ・シネマ 4K、ショップチャンネル 4K、4K QVCの各チャンネルがありましたが、WOWOW 4K、ザ・シネマ 4Kは終了、ショップチャンネル 4K、4K QVCは右旋に移行しました。結果として左旋に残るのはNHK BS8Kだけという状況です。

総務省 衛星放送の現状(令和7年4月1日)
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/housou_suishin/eiseihousou.html
BS右旋/左旋とは、もともとBS放送は右旋しかありませんでしたが、右旋だけでは周波数が足りず、新しい4K・8K放送のために帯域を拡張する必要があったため、新たに追加されたものです。電波の偏波方向(回転方向)で従来使っていなかった「左旋偏波」の帯域を利用することでチャンネルを増やすのが目的でした。
BS右旋については、もともとBSが視聴できていれば4Kテレビさえあれば4Kが見られる確率が高かったので、視聴の障壁は高くありませんでした。
一方でBS左旋は、特にBSアンテナを新しくしないと見ることができず、場合によっては配線から一新する必要がありました。このため、特に集合住宅では視聴の障壁が高くケーブルテレビに加入した方が簡単という状況を生みました。
8Kについては、8Kテレビを購入するという壁もあります。8Kテレビ自体は出始めた当初より価格が安くなり、65インチですと20万半ばで買えてしまいます。ただし、小さいものでも65インチですので、住宅事情を考えると普及は難しいでしょう。放送自体もNHK BS8Kの一波のみで、配信もまだまだこれからという状況ですので、今後は縮小する可能性が高いと思われます。
個人的にですが、新4K/8K放送に向けた帯域再編のため帯域削減の影響で2018年にBS2Kの多くのチャンネルが1,920×1,080ドットから1,440×1,080ドットに解像度が減らされ、地上波と同等の解像度になりました。4Kにリソースが必要なくなったのであれば、4K一局当たり33Mbpsの帯域が削減できるので、元に戻してほしいと切に願っています。
録画/円盤文化の終焉と配信への期待
BSと同様に、録画文化も終わりを迎えつつあります。パナソニックとソニーがBlu-Rayメディアから撤退したのは記憶に新しいですが、BDレコーダーの出荷台数は2020年に約185万台とコロナ禍で最大を更新し、2024年には約78万台と半分以下に減っています。録画需要の減少をいち早く反映した対応です。PC向けの内蔵Blu-Rayドライブからの撤退も顕著で、パイオニアも生産を終了していますし、メジャーだったSamsungやLite-Onも撤退し、PC向けの内蔵5インチBlu-Rayドライブは流通在庫のみという状況になっています。
同様に円盤(メディア)の売り上げも右肩下がりです。2010年頃にはDVDとBDを合わせた映像ソフト市場が年間約3億枚でしたが、2024年のDVD/BD出荷数は約7,600万枚と1/4の規模です。CDも1998年に約4億5千万枚だったのが、2024年は約7,600万枚と1/6となっています。
4K放送の終焉も録画文化の終焉も、配信の広がりの影響を受けてのものです。日本でもすでに広告費は放送(テレビ・ラジオ・新聞などのマスコミ四媒体)よりも配信(インターネット広告)の方が多くなっています。
配信専用の番組も多くなっていますし、地上波もTVerで同時配信が行われている番組もあります。また、配信専用番組が続々と登場しており、配信専用番組のメリットは尺や放送コード、スポンサーへの配慮など放送にはないため、クリエイターが自由に表現できる場となっています。さらにグローバルへ配信することにより、海外市場からも収益を得られますので、放送より収益性がいいというメリットもあります。
ただ、配信にもデメリットがありRakuten TVが2025年12月25日をもって「購入コンテンツ」を終了すると発表し、購入済みのコンテンツについては視聴可能期間を2026年12月までに限定するということで、一部からは反発を招いています。これは購入者が作品を所有していると勘違いしたもので、実際には使用権しかなく、購入という言葉のあいまいさが露呈した形です。同様に、権利者が配信を停止すると二度と見ることができなくなる点がデメリットと言えるでしょう。
ただ、このような事象が散発的に発生しても、メディアに回帰することはこの先も無いと思われます。

最後に
将来的に映像娯楽の中心は配信に置き換わる可能性が非常に高いと言えます。放送は即時性が求められるニュースや災害報道に特化せざるを得なくなり、各テレビ局の収益は配信とコンテンツ販売が中心になると想定されます。これはチャンスでもあり、国内需要が中心であった各局が世界にコンテンツ、あるいは番組フォーマットを販売することで外貨を稼ぐことができます。これはキー局だけではなく、地方局も同様です。
かつて風雲!たけし城やSASUKEの番組フォーマットが世界150か国以上で放送されましたが、これはポケットモンスターの世界約100か国よりも多く、日本のコンテンツが世界で十分戦えることを表しています。
行政の意図に反して、放送は縮小傾向にあります。もちろんしばらく放送が無くなることはありませんが、配信を中心とした新しい映像文化への転換点と考え、コンテンツ輸出へ舵を切ることが求められています。
ではまた次回までしばらくお待ちください。
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